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志村兄弟の日常〜夢の話〜

作者: 環 エン

「なぁなぁ、俺今さ、すげぇ変な夢見た!」


他人が語ってくる、寝ている時の夢の報告ほど、クソつまらないものはないと僕は思っている。


そんなクソつまらない発言を嬉々としているのは、先程までリビングのソファを陣取り横になり、阿呆みたいに眠りこけていた兄である。テレビからは高校野球の試合が流れていて良いBGMだったのだろう、朝食を食べた後に横になってテレビを見ていたと思えば、変な寝癖をつけるほどに眠っていたようだ。


冒頭のセリフを吐いた兄は、ダイニングで勉強をしていた僕の後ろを通ると、冷蔵庫に入っていた麦茶をコップ一杯一気に飲み干している。その様子を見ていた僕の視線をどう受け取ったのか、コップをもう一つ用意して麦茶を入れると、テーブルに置いてくれる。しかし、大雑把なところがある兄のおもてなしによって、僕のノートの右端は濡れてしまった。このことを怒ることは簡単だが、今兄に話しかけるのはマズイ。


何故なら兄はきっと、クソつまらない夢の話をしたいからだ。今もニコニコと対面の椅子に座って麦茶を飲んでいる。ここで、僕の分まで入れた麦茶の礼を言ってしまうと、絶対に面倒なことがはじまってしまうので、ノートを濡らされた文句と相殺して黙ることにした。まぁ、きっとこのまま無視していれば、兄のことだしすぐに夢のことなんて忘れるだろう。


「でさぁ、さっき見た夢なんだけど」


失敗である。これは絶対に話をするまで忘れないやつだろう。勉強の息抜きにもならないクソつまらない話になるだろうが、仕方なく僕も覚悟を決める。麦茶を飲みながら兄の方へ顔を向け、話を続けるように目線で促した。するとパァと表情を変えて、兄は楽しそうに話始める。


「夢の中で俺は、砂漠を歩いていたわけ。リアルで砂漠なんて行ったこと無いけどさぁ、グランドの砂よりサラサラしてて。あ、触感まであってさ、まじリアルなの。そんでぇ、めっちゃ暑くてヤベーって歩いてたら、目の前にアイスクリーム屋があって。よっしゃ買おうと思ったら、お金なくて買えなくてさぁ。命の危険なんだから無料でくれても良いのにケチだよなぁ、あいつ」


「あっそう」


ダラダラと脈絡もなく、オチもなく話していた内容に対する反応としては、それ以外の答えは出ない。僕は、やはり聞かなければよかったと後悔してしまう。


「変な夢だよなぁ。まじリアルでウケたわ」


「ふーん」


話した本人は、それなりに満足しているのがまた腹立たしい。やはり、他人の語る夢の話ほど、クソつまらないものはないのだ。寝汗を流してくると意気揚々と部屋を出て行く兄を見送って、僕はため息をつくと、残った麦茶を一気に飲み干して気持ちを切り替えることにした。勉強へ戻るのだ、あれは貴重な反面教師だと思おう。


テレビからは高校野球の試合が終わったのか、サイレンが鳴っている。

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