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勇者を継ぐ者  作者: 本城達也
オストルン大陸冒険へ
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ドラゴンからの逃走戦

 タズは竜族(ドラゴン)に向かって疾走した。



 そのドラゴンは普通のドラゴンと同じ緑色ではなく、鱗が漆黒の黒い色をしている。ダークドラゴンというドラゴンの上位種だ。



 対するタズの武器は聖剣をグレンに預けているためいつもの修行用の木刀。いざとなればブリゾネーターもあるのだが、これを使えば戦いの後にマナも体力もなしの状態でこの森を抜けなければならない羽目になる。ブリゾネーターは最後の最後の切り札だ。



「まずはこれでどこまで行けるか、だね。

 いくよ!」




 ガチイイイイイン




 だが、タズの斬撃はダークドラゴンに簡単に弾かれてしまった。



 タズの木刀はグレン特製であり、そこらの冒険者が装備している鋼の剣より強度も切れ味もあるというのに竜の硬い鱗に阻まれてしまい何らのダメージを与えることができなかった。むしろ反動で手首にダメージを受けたのはタズの方だった。



「痛っーー!」



「タ・・・じゃなくてブリズ!大丈夫?」



「アリアお姉ちゃん、凄く硬いよ!気を付けて!」




 二人は今は人間に変装中である。近くにはダークドラゴンの動きを警戒しながら遠目でこちらをみている魔族の姿はちらほらと見える。そして、今戦っている相手も魔族。

 タズとイリアは勇者として人族や魔族の間でその名前が広く知れ渡りつつあるため、本名で呼び合うのは適切ではない。




「ええ!けど、倒すのが目的じゃないわ!」



 二人は以前からグレンに竜族とはまだ戦うなと言われていた。それはこの1年間グレンの下で修行をしたタズたちが魔法ありの全力で戦ってもまだ勝てないという意味でもある。


 グレン特製木刀すら弾くこの鱗相手ではタズやイリアが使用可能な魔法は一切通用しないであろう。今の2人がダークドラゴン相手に勝つことは絶望的だった。


 けれども今回の戦いの目的はイリアが言う通りダークドラゴンを倒すことではなく、誘導することだ。


 気を引くことができる程度の攻撃を当てられれば十分である。



「うん、わかってる!

 おーい!そこのドラゴン、こっちだぞ!」



 タズは再び先ほどよりももっと力を溜めて斬撃を放ったが、ダークドラゴンには傷一つ与えられなかった。しかも、ダークドラゴンはタズの挑発を受けているにもかかわらず、タズの方に見向きもしない。

 ダークドラゴンは大きく雄叫びを上げて何故か後衛のイリアの方を向いて狙いを定める。




「えっ!?なんで?

 私なの!?」




 ダークドラゴンはイリアに向けてドラゴンブレスを吐き出した。イリアは雄叫びを聞いた時点で全力で上へと跳んで回避したため、ドラゴンブレスを浴びることはなかった。



 しかし、ダークドラゴンはドラゴンブレスがおとりで周囲を整地するためだったと言わんばかりにイリアの着地際で一回転した。



 竜族が持つ強力な攻撃手段はブレス攻撃だけではない。



 タイミングが分かりやすく回避しやすいドラゴンブレスよりも危険なのはむしろ超高速で繰り出されるドラゴンテイルである。




 竜族は巨大な体躯を有しながらなお俊敏。ダークドラゴンのテイル攻撃は音速に近い高速度で放たれるためまともに喰らえば即死だ。




「お姉ちゃん!」



 とっさにタズもまたイリアを庇いに入り、2人で剣を合わせて受け流す準備をした。




「お、重い!!うわあああああ!!!!」

「きゃあああああああ!!!!!」




 ドラゴンテイルのあまりの破壊力にタズとイリアは剣を盾にして受け流そうとしたが、受け流しきれずにまとめて吹き飛ばされて後方の木に激突した。




「いててて・・・」

「痛っー!やってくれたわね!」




 ドラゴンテイルを受けて死ななかっただけでも相当幸運だったが、状況が最悪なのは変わらない。



 特に問題なのが、ダークドラゴンが狙うのが死んでも蘇生可能なタズの方ではなく、死んだら蘇生不可能な後衛のイリアの方だという点だった。ダークドラゴンは先ほどタズがマヤを救出した際にもタズの方には見向きもせず、イリアの方に引き付けられており、タズたちがいる方まで追いかけてきたのもイリアを追ってのことであった。



 イリアは受け身をとった後に立ち上がって再び距離を取ろうとするもすぐにダークドラゴンに詰められた。



「ちょっと、私、このドラゴンさんの恨みを買うようなことした覚えは全くないんですけどー!」


 


 ダークドラゴンは魔法を使わないイリアより素早いため、イリアはすぐに追い付かれてはダークドラゴンの突進攻撃を寸前でジャンプして間一髪回避し、着地際のドラゴンテイルを受け流したり回避するというギリギリの逃走劇が繰り広げられた。



 これだけ追い詰められてなおイリアが即死攻撃を受けていないのは奇跡のようにも見えるが、これは奇跡ではない。また、それはイリアの回避力が高いという理由でもなかった。



「お姉ちゃん!このドラゴン、よく見たら目が潰れてる!」




「はぁ・・・はぁ・・・そ、そっか、だからさっきから闇雲な攻撃ばかりなのね!

 ってそんな冷静な分析してる場合じゃないんだけどもっ!」



 ダークドラゴンは既に何者かによって手負いの状態になっていた。より具体的には硬い竜の身体の中でも唯一防御力が低い両眼球を潰されていた。今、ダークドラゴンは耳と鼻を頼りにイリアに攻撃を仕掛けている。しかも自身のバウンドボイスにも耐えられる耳を持つ竜族の耳はかなり悪い。実質鼻だけを頼りにイリアを追いかけていた。



「お姉ちゃん!がんばって!このままアイツを引き付けて森の奥まで連れていけばOKだよ!」



 タズはイリアと少し離れたところを並走しながらイリアをサポートしつつ見守っていた。



「あっ!危ない!」


 ダークドラゴンが追い付いて突進してくるタイミングでタズが合図を送るのでイリアは後ろを振り向くことなく逃げながらもなんとか攻撃を回避をすることができていた。



「はぁ・・・はぁ・・・このままじゃ不味いわ。

 体力が・・・はぁ・・・持たない・・・。

 それにこれじゃ・・・はぁ・・・森の奥まで連れていけても・・・そこでぺしゃんこだわ!」



 なんとか回避と防御を成功させ続けていたイリアだったが、魔法も使わずに攻撃を受け流し、逃げ続ける内にスタミナも切れてきて息が上がり始め、ダメージも蓄積してじり貧となっていった。



 ダークドラゴンの突進攻撃やテイル攻撃をまともに受ければ即死という緊張感もまたイリアの体力を大幅に削っていた。安全のためにどうしても大袈裟にジャンプして避けてしまい、するとその着地際を狙われてさらにピンチになるという悪循環にも陥っていた。




「お、お姉ちゃん後ろ!!」



「はぁ・・・はぁ・・・。

 くぅっ・・・。

 きゃああああああ

 痛ったぁぁぁぁぁ・・・

 ぐぅ・・・」



 集中力が切れかけたイリアは吹き飛ばされながらもなんとかギリギリで受け身が間に合ったため即死は免れた。

 しかし、硬い鱗に激しくこすりつけられた左腕は血がダラダラと流れ、骨は完全に折れているといった状態だった。



「お、お姉ちゃん・・・。

 これ以上はもう見てられないよ・・・もうブリゾネーターを使うしか・・・」



 タズは満身創痍でもう限界といった様子のイリアを見てやむを得ずブリゾネーターを召喚しようと考え、胸にしまい込んだペンダントに祈りを捧げはじめる――。


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