サタナキアとの戦い
タズがブリゾネーターを構えると、剣から声が聞こえてきた。
(タズ、またオレを呼んだのか。
しかし、残念だが剣にあまりマナが溜まっていない。
しかもお前がさっき死んだせいでの次の蘇生魔法待機用にもマナが消費されている。
あまり過信しすぎるなよ)
(わかった!それでどうすれば良いのかな?この剣でも魔法剣とか使えるの?)
(ハハ・・・出来なくはないがそんな余計なものは不要だ。
一つ教えておく。その剣は時空とエネルギーを制する最強の剣だ。既にその機能がスタンバイしている。マナ効率の悪い魔法をさらにかける必要はない。
今のお前ではアイツのスピードに付いていけないだろうが、まずはこれを唱えろ。
時空加速・二重)
「(わかったよ、ブリズ)
アクセラレーター・ダブル
サタナキア、ボクは絶対キミに負けない」
「なんだか知らないけど、死ねっ!」
サタナキアは暗黒魔闘気を纏った超高速の拳を再びタズに振り上げた。
すると、驚くべきことに先ほどまでは何をされたのかも全く見えなかったサタナキアの拳が、今のタズには十分見切れる速さになっていた。
タズは、その拳を躱しつつ、突き出されたその腕にブリゾネーターによる斬撃を加えた。
ブリゾネーターは剣の重さを全く感じさせず、まるで手足のようにススっと腕の動きに合わせて動いてくれる。
その上、タズの腕の動きもアクセラレーターの効果によっていつもより遥かに速く・・・
目にもとまらぬ速さでシュバンとサタナキアの腕を切り裂いた。
「ぐあああああああああああああああ」
腕を切り裂かれたサタナキアは、再び慌ててタズとの距離をとり、回復魔法を唱えた。
高位の治癒魔法によって、サタナキアの傷はすぐに塞がった。
「へえー。想像以上にできるんだね。
ちょっとばかり油断しちゃってたよ。
面白い!キミ、実に面白いよ!」
サタナキアは好敵手の登場に喜んでいた。
「暗黒魔闘気はね、こんなこともできるんだ」
サタナキアは自身に纏わりついていた黒いオーラを剣の形に変えてそれを装備した。
「いくよ!」
バチィ!
ブリゾネーターとサタナキアの剣がぶつかると轟音が鳴った。
サタナキアも剣を使うことによってリーチと攻撃速度がアップした。タズは、相手がただの拳撃であればそれを躱してそこに一撃を入れることが可能であったが、サタナキアが剣を装備してきたことでそれができなくなり、一気にサタナキアの強さが上がったように感じた。
しかしタズも負けてはいなかった。
サタナキアが高速の斬撃を繰り出すもタズもそれと変わらぬスピードで斬撃を繰り出してきた。
バチィ!バチィ!バチィ!
どちらの剣も金属ではなく、魔法で作り出された剣である。
魔法と魔法がぶつかっているかのような轟音を鳴らしながら激しい打ち合いが続いた。
どちらも決定打は出せていない。
その理由の一つとしてアクセラレーターの効果によってタズに斬撃が当たらないことが指摘できる。
サタナキア側からは完全に入ったと思って繰り出した斬撃であるのに、なぜかタズは剣による防御を間に合わせてくるのである。
それには2人の感じている時間にズレがあったからである。
一方タズの斬撃も速いが、サタナキアに見切れない速さではない。むしろ、タズと打ち合っていると、斬撃の速さよりもその反応速度の速さに驚かされている状態であった。
そのため互角のつばぜり合いが続いた。
しかし、ある変化が起きていた。
ブリゾネーターとサタナキアの剣が打ち合うと、なぜかブリゾネーターの光が増していき、サタナキアの剣の黒い光が薄くなっていった。
そのことに気が付いたサタナキアは慌てて再び距離をとった。
「な、なんで・・・?
ボクの剣が・・・」
最強の魔剣であるブリゾネーターはエネルギーを制し、支配する剣
エネルギーの塊であるオーラの剣で打ち合えばブリゾネーターはそのオーラを吸収してしまう。特に魔属性魔法である暗黒魔闘気など、魔剣ブリゾネーターにとっては大好物のエサが供給されているようなものだった。
「チッ!」
何故だかはわからないが自分の剣の力を吸い取られていることを感じたサタナキアは剣を消して再びただのオーラを纏っただけの状態に戻った。
「かなり厄介な剣みたいだね。
でも残念だけど、もうそれは効かないよ」
サタナキアは身体強化魔法、そのうち防御強化魔法と速度上昇魔法を使って戦い方を変えた。
肉弾戦に戻すと共に、斬り付けてきたところを硬化させてはじき返しながらカウンターを叩き込むという戦法に変えてきた。
そこからはさらに激しく緊迫した戦いとなった。
どちらも譲らず、タズが斬りつけようとすると、サタナキアはそこを硬化させてはじき返し、サタナキアが一撃を繰り出すと、タズもそれを剣で受け流していく。まともに一撃が入ればどちらも大ダメージは必至である。
イリアは見上げるように、2人の激しい戦いをみていた。2人の戦いは、あまりにも速すぎてイリアには全くついていけない戦いとなっていた。
イリアはエビルサタンに拘束されたイリスの代わりに自分がタズを助けたかったが、レベルが高すぎる戦いに全く手が出せない自分を歯がゆく感じていた。
傍から見ていると、この戦いは互角か、攻撃を当てることに成功しているタズの優勢に見えていた。
だが、実際にはそれは大きく異なっていた。
「アハハ!楽しい!
もっと速度あげても良いかな?」
サタナキアは纏うオーラの形状を変え、手足だけではなく8枚の翼にも纏わせてその翼で飛翔することで速度をさらに飛躍的に上げる作戦に出た。サタナキアはまだまだ余力があった。
(タズ、さすがにこのままじゃマズい。
マナが尽きる前に賭けに出るぞ。今のマナじゃ一度しか、それも短時間しか使えないが、ここぞというところで時空加速・三重を使え。
これで倒せなきゃあとはお祈りだ)
サタナキアはさらにスピードを上げてタズに突っ込んできた。恐ろしい速度であり、時空加速・二重を使っているタズでも見切れない速さになってきている。回避は困難であるため、拳や足を繰り出してきたところを見てどこを狙ってきているか予想し、受け流すしかなかった。受け流し、敢えて隙を見せて、全力攻撃を仕掛けてきたところへ全力カウンター、それしかなかった。
「そらっ!」
「ぐっ・・・
ク・・・」
サタナキアの蹴りを受け流したところでタズのバランスが崩れた。
「アハハ死ねっ!」
バランスを崩したタズに対してサタナキアは渾身の右ストレートを放とうと近づいてきた。
「(ここだ!
時空加速・三重!!!!)」
アクセラレーター・トリプルを使った瞬間、時が止まったかのようにサタナキアの攻撃がスローモーションになった。
タズは体勢を立て直し、近づいてくるサタナキアの拳を踏み込んで回避し、全力の袈裟切りを繰り出した。
「ぎゃあああああああああああああああ」
タズはサタナキアを真っ二つに切り裂いた。
完璧な手ごたえだった。
しかし、サタナキアを切り裂いて時空加速を再び二重まで落としながら周りを見渡すと、周囲には堕天使の羽が舞い散っているのがわかった。
タズの袈裟切りはサタナキアを斜めにほとんど両断していたが、あと数センチだけ足りていなかった。
タズの斬撃に対して速度を強化していた翼によるガードが間に合っていた。それによって斬撃がわずかに数センチずらされて、サタナキアの左胸、核を切り裂き、両断するには至らなかった。
「くそー!足りなかったっ!
はぁ・・・はぁ・・・」
タズの全力攻撃は確かにサタナキアに大ダメージを与えたが、即死ダメージではなかった。
すべてを込めた一撃だったからこそ、大ダメージではダメなのだ。
「があああああああ!!
はぁ・・・はぁ・・・
や、やるね・・・
はぁ・・・はぁ・・・」
即死ダメージではなかったが故にサタナキアはすかさず高位の治癒魔法を唱えてダメージを回復させている。その上、翼を持っているサタナキアが上空に逃げてしまうとタズには手が出せない。回復してくるのを待つしかない。
「はぁ・・・はぁ・・・
キミがここまでやるとは思わなかったよ。かなり危なかった。負けたかと思った。
でもボクが暗黒魔闘気だけだと思ったら大間違いだよ。
お父様と同じように本当は接近戦は苦手なんだ。ヒリヒリして楽しいから好きではあるけどね。
近づくのは危険みたいだし、ここからは魔法もガンガン使っちゃうよ!」
サタナキアは超絶魔法エクスプロージョン・レイの詠唱に入った。唱えているのは一つではない。多重魔法である。
空を飛ぶサタナキアのさらに上空にいくつもの小太陽が作られ始めた。
サタナキアはまだまだ全然本気を出していなかった。
生まれてきたばかりであること、そして、戦うことが大好きな四天王バトラーやダークデビルの血が騒ぎ、今までは戦うことを楽しんでいただけであった。
今のサタナキアは四天王を超える力を持っているため、本気になれば究極魔法を使ってこの戦いを一撃で終わらせることもできた。
だが、思いのほか奮闘してくるタズに、色々と試したくなっていたのである。
「まったく、あの子は仕方ありませんね。
誰に似たんだか・・・
少なくとも私ではないことは確かなようです」
楽しそうに戦うサタナキアにエビルサタンも呆れ顔であった。
エビルサタンはサタナキアの手加減を知らない魔法の詠唱に、自身も超絶防御魔法を唱えてイリスと自分の身を守る準備に入った。
一方、タズはかなり危機的状況に立たされていた。
アクセラレーター・ダブルを使ってサタナキアの攻撃をいなしていたが、そうはいってもサタナキアの攻撃は重く、捌くだけでも体力を奪われた。マナは全てブリゾネーターに注いでおり、治癒魔法を使う余裕はないため、蓄積したダメージを回復することもできなかった。そして、先ほど全力を振り絞って斬撃を繰り出したため、反動でドッと疲れが押し寄せていた。
そこへサタナキアの超絶魔法詠唱である。
(まずいぞ、タズ。
アレの直撃を受けるとさすがに死ぬ。これ以上死ぬのはまずい。
だがこちらももうそろそろ限界だ・・・。
トリプルを使ってだいぶ残量がなくなってきちまった。
さっき吸収したエネルギーくらいしか残ってない。
もう限界だが・・・Dモードを使うしかない。
剣に念じろ。絶対防御)
「はぁ・・・はぁ・・・
絶対防御!!」
すると、ブリゾネーターの形状が変化し、タズをすっぽりと覆うような巨大な盾に変化した。
サタナキアの超絶魔法エクスプロージョン・レイの雨(流星)がタズの盾へと降り注いだ。
これまで聞いたことのないような轟音が王都に鳴り響いた。
本来、超絶魔法は1発であってもこんな大都市の街中でぶっ放して良い魔法ではない。
その下ランクである極大魔法エクスプロージョンですら巨大爆弾が落ちるのと同じであり、相殺できなければ街が崩壊する大惨事が発生する。
四天王ラビエルの得意魔法エクスプロージョン・レイは原子爆弾1発分の破壊力を凝縮した小太陽の落下である。もしタズが盾もなく受ければタズどころか周りにいる全員が消し飛ぶことになったであろう。
タズの周りにはイリア、気絶した王都民、騎士たち、そしてクロエもいる。回避はできない。受けて防ぐしかなかった。
ブリゾネーターはその絶対防御の形態をとることによって、すべてのエネルギーを支配し、操り、相殺、消滅させて、なんとかタズらの命を守り、街の崩壊を免れさせた。
「へえー。その剣、盾にもなってこれも防ぐんだー。
すごいね。ちょっと欲しいかも。
でももう限界そうだね」
タズはサタナキアの超絶魔法の連射を耐えたが、盾から剣に戻ったブリゾネーターの光はだんだんと淡くなっていた。それに併せてアクセラレーターの効果もそろそろ切れようとしており、ブリズの声も聞こえなくなっていた。
「それ!それ!
さっきまでの勢いはどうしちゃったの?
絶対負けないとかなんとか言ってたけど?」
「くっ!くっ!うぐ!」
タズが弱っていることがわかったサタナキアは再び肉弾戦を挑んでくるが、タズはアクセラレーターの効果が切れようとしていたため、うまく受け流すことができず、さらにダメージを蓄積させていった。
今のタズでは剣の形状では攻撃を受け流せないとわかり、タズはブリゾネーターをディフェンシブ(D)モードである盾の形状に変化させ、イチかバチかのシールドバッシュをして体勢を崩したところで剣へ変形、核への斬撃に賭けるしかなくなった。
しかし、弱ったタズからシールドバッシュを受けるほど、サタナキアは甘くはなかった。
それどころか、とうとうサタナキアの重い一撃がDモードのブリゾネーターを貫いた。先ほどの絶対防御によってブリゾネーターはとっくに限界を迎えていたのだ。
「かはっ・・・うぅぅぅ」
タズは盾の上からサタナキアの一撃を受けてしまい、地面に転がった。
Dモードのブリゾネーターのおかげで致命傷とまではいかなかったが、大ダメージを負った。
そして、ブリゾネーターもマナ切れとなって消えていった。
「あれ?もう終わり?
剣消えちゃったの?
ボクもうちょっと楽しみたかったんだけどなー」
サタナキアは地面に転がったタズを見ながら、まだまだ遊び足りないといった様子を見せた。
「そうだ!
それならちょっと嗜好を変えてこんなのはどうかな?
ここまで楽しませてくれたし、楽には死なせないよ」
ズドドドドドドド!
サタナキアはあえて初級攻撃魔法に切り替えて無抵抗のタズに連射した。
「ぐあああああああああ
くっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
タズはなすすべもなく、初級攻撃魔法に翻弄された。
「あーっははははは
楽しーーーーい!」
そこからはもはや戦いとはいえない、一方的な虐めにであった。
・・・・・・・・・・・・・・・
タズとサタナキアの戦いは、ブリゾネーターのおかげで一時互角に戦うことができていたが、そもそも元の力の差がありすぎた。本気を出される前にけりをつけられなければどうしようもない戦いだったのである。
また、ブリゾネーターもあとほんの少しマナがあれば・・・それこそ最初の致死攻撃を受ける前にブリゾネーターを召喚し、蘇生魔法1回分のマナを無駄にしていなければ、先ほど使った時空加速・三重のところを四重にするか、熱エネルギー強奪攻撃である絶対零度を重ねることができたため、勝てていた。
ほんのわずかの差であった。
が、そのわずかな差が勝敗を変え、サタナキアとタズの戦いは、タズの敗北で終わった。
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先ほどまで余裕があったイリスだったが、最強魔剣であるブリゾネーターを使ったタズが負けるのは全くの予想外であった。
ブリゾネーターは攻防万能、文字通り最強の魔剣であり、その能力は時の支配やエネルギーの支配という規格外のシロモノである。
時空加速で相手の時を止め、絶対零度で凍結させる、それだけでほぼ負けることがない。
これがあるから弟は絶対に大丈夫だと思っていた最大の根拠であり、エビルサタンにも気づかれていないイリスの切り札の中の最大の切り札であった。
もちろんイリスはブリゾネーターの弱点も理解している。あの剣はエネルギー源、すなわちマナがないと何もできないのだ。ガソリンとバッテリーのない車と同じである。
しかし、イリスは、そうならないようにブリズにはそれなりのマナを持たせていた。その上、これまで四天王と戦ったことで、ブリゾネーターの力でそれなりにマナを補充しているはずと考えていたため、エビルサタンならともかく、その分身体にすぎないサタナキアに負けるなんて、そんなはずはないと目の前の光景を信じられないといった様子で見ていた。
あり得ない、起こってはならない敗北であった。
なぜブリズにマナがないのか・・・
そう、実はイリスの最大の切り札の一つはイリスが知らない間にタズによって既に握り潰されていたのである。
タズに召喚されたブリズは、先ほどのバトラーとの戦いで、街の人々を皆、それも数時間経っていたところから蘇らせるという規格外の蘇生魔法使ってしまったことで、イリスから受け取って隠し持っていた大量のマナも、モンスターたちから吸収したマナも、魔石が溜めていたマナもそのほとんどを消費してすっからかんにしてしまっていたのである。
弟を保護するために仕込んでおいた蘇生魔法の魔法陣を使ってまさか弟(に頼まれたブリズ)がこんなことをしているとはさすがのイリスも計算外であったし、それがタズの優しい願いの結果である以上はタズを責めることはできないであろう。
最大の切り札が破れてイリスの計算はここに来て大きく狂ってしまっていた。




