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勇者を継ぐ者  作者: 本城達也
第一次オストルン大戦【前半】
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大戦の幕開け

 その頃、シドル王都王宮前では、シドル王国国王ウィリアム4世による大祭の開催宣言の後、演説が始まっていた。


「我々人族が真の平和を手に入れてからとうとう100年というこの日を迎えることができた。

 これほど喜ばしいことはない。

 そして、この平和を成し遂げた偉大なる英雄を我が国が生み出したこと、どれだけ時が流れようとも皆はこれを誇ると共に感謝と敬意を決して忘れてはならない。


 我々の手で、この大切な平和を維持していく、その強い心を持ち続けることを固く誓わなければならない!


 大陸中より集まりし戦士たちよ!


 共にこの平和を守ろうという心強き者が今年も現れること、偉大なる英雄の意思を継ぎし者が現れることを、我は望んでいる。

 楽しみにしておるぞ!」


 国王の演説が終わると王宮前の広場は大歓声が鳴り響いた。


 大祭の開催、そしてその目玉とも言うべき王宮騎士試験がいよいよはじまる。


 

 ・・・・・・・・・・・



 王宮騎士試験、人々を熱狂させてやまない成人部門のその一次試験は、大陸一を決めるトーナメントであった。


 大陸中から集まった強者1000人によるトーナメントを勝ち上がった30名だけが二次試験に進むことができる。


 そして、ただ強いだけでは王宮騎士は務まらない。二次試験では真の騎士の資格があるかが問われる。

 しかも、過酷な戦いを勝ち上がったその先にある二次試験では、例年、彼の大英雄が試験官を務める超難関。

 当然勝てない。当然勝てないが、絶対に勝てないその戦いで、騎士たる資格を見せた者のみが王宮騎士となれるのである。



 王宮騎士団が別名グレンの騎士団とも呼ばれる理由がそこにある。 


 そして、その大英雄の戦いは例年であれば人々が熱狂して見守る大祭の目玉ともされていた。



 だが、この日、王宮前の広場に作られた巨大な闘技場へと集まった人々はざわついていた。例年であれば貴賓席に国王の隣にいるはずの男がいないからである。



 ・・・・・・・・・・・・・



 国王ウィリアム4世が闘技場の貴賓席へと腰かけると、そのすぐ側に王宮騎士団の団長であるアルフレッドが足早にやってきて、跪いた。



「陛下!大至急報告したい事項がございます」


「アルフレッドよ、どうした。このような日に」


 ウィリアム4世は、アルフレッドの鬼気迫る様子に周囲の者を下がらせると共に、すぐに要件を聞くことにした。

 ウィリアム4世は、アルフレッドのことを自身の部下の中で最も信頼している。その実力もグレンという例外を除けば大陸No.1である。

 王都の平和と秩序の維持もアルフレッドがいるからこそなし得ている。


「たった今、グレン様がこの国を出られました!」


「フム、そうか。

 あの方には自由にしていただいておる。致し方あるまい。

 今日という日に世界中で開かれる大祭でも、あの方は祝う側ではなく、世界中から祝福される立場であるしな。

 この国に縛り付けようとすること自体、おこがましい。これまで毎年この国で過ごしてくださったことを深く感謝すべきだろう」


「ハッ!」


 国王の言葉にアルフレッドもその通りであると理解している。だが、そんなことは国中の誰もが理解していることであり、このような日に国王に大至急報告すべき事項ではない。


「ですが、陛下、グレン様より書簡をお預かりいたしました。そして、この内容は陛下をはじめとする王宮の一部の者にしか知らせるなと、だが準備は怠るな、との命も受けております」


 そういってアルフレッドは書簡を国王に差し出した。



 ウィリアム4世がその書簡に目を通すと――

 その表情が驚愕で凍り付いた。



 その書簡には魔王が復活したこと、グレンだけではこれに対抗することができないこと、間もなく地上と魔界の全面戦争がはじまる可能性があることが記されており、魔界の動向を探るために今日王都を出ることにしたこと、グレン不在の間に王都の守りを強化すべきことが指示されていた。


「なんということだ・・・。最も恐れていたことが起ころうとしておる。

 民にこのことは悟らせるな。

 100年ぶりの魔界との大戦、魔法がなくなった今では人族は一方的に蹂躙されるやもしれん。

 民がこのことを知ればパニックは必須だ。

 王宮騎士団の総力をかけてこの国の守りを強化するのだ」


「ハッ!」



 そういってウィリアム4世は王宮騎士団に国の守りを強化し、周囲への警戒を強化するよう伝令をかけようとした。

 だが、不幸にも魔族たちはこれを待ってはくれなかった。


 ズドーーーーーン!!という轟音と共に、王都全体が激しく揺れた。


「な、何事かっ!?」


 ウィリアム4世は周囲の騎士に確認を促した。


「へ、陛下!北西の城壁が・・・キャッスルヒル地区の城壁が広範囲で崩れ落ちて、煙が上がっております」


「何だとっ!!?」


 シドル王都は、海に面した東側以外の三方が高さ20m以上ある巨大な城壁で囲われている。

 王都への出入りは城壁にいくつか設置された城門からしかできない。


 その城壁は100年以上崩れたことがない頑強なものである。

 魔法が使えていた時代に建造されたもので、当時の王宮魔術師たちが全精力を上げて建造し、毎日魔力を補給し続けられていたもので、魔法がなくなった今、これを作り直せる者はいない。


 そしてその用途は当然、魔族の襲撃から王都を守るためのものである。

 魔力を有するその城壁は、100年前の大戦当時でも魔族の侵攻を阻み続け、これを崩すには魔王自ら出向くほかないとさえ言われていた。


 魔法が消失して長い年月が経ったことで、城壁に残留した魔力が少なくなっていき、徐々にその硬度も落ちてきていたことも事実であったが、それでも魔力を持たない魔族には絶対に崩せるはずがないもののはずだった。



――そう、そこまで頑強な城壁が広範囲で崩れ落ちる理由は、100年以上前からたった一つしか存在しない。





 王都の人々は大きな地鳴りと共に崩れていく北側の城壁を見て、何かの催し物だと思い、そのど派手な轟音に喝采を博した。


 今日は100周年目の平和記念日であり、王都民たちは、いよいよ城壁も不要になったかと感じるほど、長く続いた平和に安心しきっており、そのほとんどの者が、その城壁が崩れ落ちた真の意味を理解できていなかった。


 実際、あの城壁が崩れたことを見たことある王都民は、エルフ族をはじめとする一部の長寿の人族のみであり、ほとんどの王都民は、あれが崩れたところを見たことがない。


 一方、あれが前に崩れたときのことを知っていた長寿族は、崩れたその日の絶望とその後に続いた地獄の日々をトラウマのように思い出すと共に、長く続いた平和が終わりを告げたことを瞬時に察して、声も上げられずに凍り付いていた。


 両極端の反応をしていた王都民たち――。


 しかし、崩れ去った城壁の奥から、4mはあるだろう恐ろしい化け物(モンスター)が大量に押し寄せてきたのを見た途端に、阿鼻叫喚を上げはじめた。


 泣き叫び、逃げても追いつかれ、あっさりと踏みつぶされ、喰らわれる。


 地獄そのものとしかいいようがない、一方的な殺戮と蹂躙がはじまったのであった――。


※ 実際の地名とは一切関係ございません。


と言いながらすみません。

シドル王都のキャッスルヒル地区がどこら辺なのか詳しくは実際のシドニーにあるキャッスルヒルをご参照ください。

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