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勇者を継ぐ者  作者: 本城達也
第一次オストルン大戦【前半】
24/106

修行開始!

 王都を南に出て森を少し行ったところにひっそりとグレンが作った稽古場があった。


 稽古場と言っても大したものではなく、ただ森の中に少し開けた何もないただの平地、広いグラウンドのような場所があるだけである。


 グレンが王都の中で剣を振るうと大惨事が起こるため、森の中にひっそりと作った(剣を振るって周囲を吹き飛ばして作った)稽古場であり、知らない人がみたら不自然に急に森がなくなったかのようにみえるだろう。


 グレンはタズとイリアを連れてそこまでやってくると、背中に下げた細長い竹刀袋のような袋から木剣を3本取り出し、そのうちの2本、ズシっと重い木剣を、タズとイリアにそれぞれ手渡した。


 その木剣はただの木剣ではなく、魔力を有しており、神木を削って作ったものと思われた。


「普段はその状態で稽古するが、もう一つの姿がある。試しに木魔法をかけてみろ」


 グレンがそういうので、試しに木魔法をかけてみると、丸かった剣先がみるみると鋭利に尖ると共に硬くなった。その切れ味は草葉に触れるだけでそれを断ち切るほどで、鋼鉄の名剣と変わらず、その上、折れても刃こぼれしても自己再生するという機能付きのようである。


 もはや木剣と呼んでよいのかも疑問な業物、とんでもない一級品だった。

 グレンは王宮騎士が装備する剣よりも上等なものを、ポンと手渡してきたのである。


 いよいよグレンによる稽古がはじまる・・・。


「この3か月の間で、お前たちには俺が編み出した剣技の奥義でもある魔法剣を覚えてもらう。

 魔法剣というのは、ただ剣を振るのではなく、魔法を剣に乗せて振るう剣技のことだ。

 普通に魔法を撃ったり、剣を振るうのと比べて、威力を掛け合わせたかのようにその威力が増加する。

 だが、魔法剣の修得は容易じゃない。

 本来は、高い熟練度の魔法と剣技、その両方を身に付ける必要がある。

 お前たち2人は魔法は得意なようだから魔法の熟練度の方はそのまま自主練を続ければ問題ないだろう。

 だが、魔法を剣に乗せる土台たる剣技の方はてんで初心者だ。

 きちんと基礎から修行して修得する必要がある。

 だが、お前たちにはあまりにも時間がなさすぎる。

 そこでここからは俺流のアレンジも加えていくぞ」



 グレンの言葉と与えられた木剣に、2人はこれから想像を絶するものすごい修行が始まることを予感した。

 



 だが・・・




 実際には初日のその稽古内容は構えと素振りという地味で、かつ、至って普通なものだった。



「というわけで、まずは正しい構えからだ」

 と言いながらグレンは2人に剣を構えさせた。


 タズとイリアは、早速木剣を構えてみたが、木剣が意外と重いこともあって、ガチガチに力みながらなんとか正眼に構えた。

 

 グレンは2人の構えを見て、

「やっぱ、てんで初心者だな」

 とつぶやいた。


「ダメだ、ダメだ。

 剣はもっと力を抜いて楽に持て。

 剣と身体が一体となることを意識しろ。

 剣を握っていることすら忘れるくらいでちょうどいい。

 お前たちは自分の腕のことを普段意識しないだろう。剣もそんな状態で意識せず、自然に構えられるようにするんだ。

 力むのは駄目だぞ。

 だが脱力するんじゃない!指先までしっかり意識して持つんだ!

 立ち方もそんなんじゃダメだ!

 アルスの力を感じろ。アルスと一体になるんだ。

 剣を振るときには剣の重みを意識しろ。

 剣先まで意識し、剣全体を意識して切ることを強くイメージするんだ。

 ビュンビュン音が鳴るようじゃだめだ。

 風に逆らわず無音で振れるようになれ

 意識が全然なってないぞ!

 もっと天地との一体性を意識しろ!」


 グレンはあれこれ次々と難しいことを言い出した。

 グレンの稽古開始のメニューは構えと素振りだけというシンプルなものだったが、その内容はまさしく修行というべきとてつもなくスパルタなものだった。


 まず、教える内容は、剣術初心者の子どもがすぐに理解できるような内容とは程遠く、剣を振り続けて何十年という達人が達する境地を最初から叩き込んでいく。


 タズたちは、当初、自分の構えのどこが悪いのかもよく分からなかった。

 「力んでる」と言われ、ガツンと構えた剣を叩かれては、力を抜き、そうすると今度は「脱力するな」と叱られ、剣先を叩かれて剣を落とされる。


 どうすれば良いのか全くわからないお手上げ状態だったが、グレンに手本として構えを見せてもらうと、その美しい構えを見て、思わず息を飲んだ。


 姿勢は真っすぐで芯が通っている。力んでいるようには見えないし、剣を楽に持っているようにしか見えないのに、剣の先まで意識が張り付いているような印象で、全く隙がない。試しにその剣先を剣で思いっきり叩いてみてもその剣先はビクとも沈まない。

 2人は驚愕するとともに、3か月で本当にここまで辿り付けるのか不安になった。

 が、そんな不安など最初の一時間で消え失せた。


 グレンは食事、風呂、寝る以外の時間の全てを素振りにしたり、重い木剣を構えたまま動かない姿勢で数時間維持させたりと、基礎であるにもかかわらず、魔法で体力等を回復しないと普通の子どもでは、いや、成人であったとしても、およそついていけないスパルタメニューを2人に課したからであった。


 その上、姿勢や構えがほんの少しでも甘くなると、姿勢を崩されて倒されたり、剣を叩き落とされたりされてすぐに矯正された。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 数日経つと、2人の構えと剣の振りは安定してきたが、それに合わせて稽古の内容は、さらにスパルタに―今度はグレンとの実戦半分、素振り半分、合計一日12時間という極悪メニューに変わった。


 特に実戦稽古でのグレンは、グレンからすると0.1%も力を出していないものの、2人が治癒魔法を使えることを良いことに容赦なく急所を狙ってくる。

 

 しかも、グレンが扱う型は、剣術というよりは、もっと別の何かを想定した変幻自在の剣で、つかみどころがなさ過ぎて、タズたちはなすすべもなくボコボコにされ続けた。


 剣を持った人間同士の戦いならともかく、魔族との戦いを想定するのであれば、普通の剣術の型稽古をするのはむしろ有害であった。


 鋭い爪や鋭い牙、場合によっては遠距離から魔法を駆使してくるかもしれないことを想定すると、人間同士の戦いとは別の戦い方が必要である。


 グレンの実戦稽古はそのことを想定したこれまた剣の初心者に対してはおよそあり得ない高度な内容だったのであった。

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