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勇者を継ぐ者  作者: 本城達也
シドル王都へ
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他人から姉弟へ①

 いよいよグレンの修行が始まった。


 グレンは木刀をタズとイリアに渡し、朝から素振りをさせている。


 どうしてイリアも一緒に剣を振っているのかというと、グレンが帰ってきた日の夜にその原因があった。




――――その夜のことである。




 イリアは自分の部屋で今日あったことを整理できないでいた。


 その日の出来事はあまりにも急展開であった。


 グレンに会うために見習い騎士の試験に出願したのに、その目的はすでに果たしてしまった。



 しかも、それだけではない。今日見たタズの実力、トマスたちの暴行をものともせずはじき返し、イリアが人質に取られ、絶体絶命の状況であったのに、目にも止まらない速さで突っ込んできて救出してくれた。あんな小さな身体で自分の身を挺してイリアを庇ってくれた。


 そう、イリアは今日、ただの可愛い弟、守るべき相手だと思っていた少年が実はとんでもなく強かったこと、むしろ自分の方が守られていたことを知ったのである。


 それだけでも悶絶しそうであったが、よくよく聞いたら魔法が使えるだの、勇者の資格があるだの、想像を超えた展開、想定外の展開になってきたのである。




 魔法使いを目指すイリアにとって本物の魔法使いだったイリスはライバルだった・・・。



 でもイリアにとってタズは・・・。



 タズが魔法を使えると知ってもイリアに負けたくないという気持ちは芽生えなかった。

 羨ましいという感情も芽生えなかった。


 タズのことを見ていると、実は凄く強いと知っても、それでも守ってあげたい、守ってあげなきゃという気持ちしか生まれてこなかった。



 とても不思議な気持ちだったし、幼いイリアにとって、それはよくわからない初めての感情だった。



 タズはとても純粋だ。人を疑うことを知らない。

 むしろ魔族とすら殺し合いたくない、分かり合えると思っている節がある。


 タズがこれから人族の醜いところをみればきっとそのたびに大きく傷つくだろう。

 その時にタズが人族を守る勇者を目指していられるのか疑問だった。

 タズはなりたくて勇者になるのではない。姉を助ける過程で勇者になるだけだ。

 

 もし人族に絶望していたとしたら、姉と一緒に暮らせるならとタズが魔族側に付かないという保証はない。


 タズがこれからどんな辛い思いをしたとしてもそれを支えてあげる人が必要だと思った。



 だが、今日タズに何もしてあげられず、足を引っ張るだけだったイリアは、自分がその存在になれる自信がなかった。

 その役目ができていたイリスと自分とでは実力その他様々な点にあまりにも差があったからだ。

 


 そこまで考えたイリアは激しく落ち込んだ。

 そして、今後タズとどう接すれば良いのか、わからなくなった。


 明日から勇者の修行に入るタズ。

 しばらく会えなくなるだろう。

 いや、その後、イリスの救出、魔王との決戦を控えていることも考えるともう二度と会えないかもしれないし、邪魔にならないよう会わない方が良いのかもしれない。



 そう思ったイリアは、それを想像し、それに耐えられない自分がいることに気が付いた。


 

 昨日の夜はじめて会ったばかりだというのに、たった一日でイリアの中でタズは驚くべきほどにとてつもなく大きな存在へとなっていたのである。


 イリアは自分ではうまく頭の中が整理できず、 


「タズともっと話そう!」


 そう思ったのであった。 


 本当に勇者になるのか、本心はどこにあるのか、聞きたいことはたくさんあった。

 まずはそれからだ、そう決意してイリアはタズの部屋へと向かった。

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