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勇者を継ぐ者  作者: 本城達也
シドル王都へ
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エビルサタンの計画

 一方、その頃、エビルサタンとイリスは、グレンの予想通り、天空の塔へと移動するためにブリズバーンの港から船で出発したばかりであった。


 しかし、エビルサタンの身体には、ブリズバーンを出港するまでの間に、予想外のことが起こっていた。


 エビルサタンのマナは完全に、否、マナバーン以前以上に復活していたのである。

 

 エビルサタンは、マナの巫女であるイリスは何らかの方法でマナを復活させることができると思っていたが、ごくわずかしかマナを持たない村の者を見ていたせいで、当初は復活させられるマナの量は大したことないのではないかと思っていた。


 しかし、実際には、マナの巫女は、マナの巫女の名にふさわしく、自身が持つその膨大なマナをそっくり相手に植え付けることができたのであった。受け取ることのできるマナの量は、受け取る側の方の器の問題であり、器が大きければ大きいほど大量のマナを受け取ることができた。


 イリスの村の者たちは、あまり大きな器を持っていなかったことに加えて、マナの復活を秘匿するためにあえてイリスが与えるマナの量を必要最小限に抑えていたのであった。


 村からブリズバーンに向かう道中、エビルサタンはイリスに対して村人にどうやってマナを復活させていたのか聞き出したところ、そんな予想外の回答が返ってきていた。


 これは、全魔族にとって驚愕すべきことであると同時に、マナの巫女の価値は計り知れないものであることを意味する。


 エビルサタンはかつての大魔王と同じようにイリスを敬い、丁重に扱うことにした。

 これまでの不躾な対応も謝罪した。


 というのも、本来、魔族は、自身の器にマナをいっぱいにすることができることはない。むしろその器をいっぱいまでマナを覚醒させるために人族を襲い、マナを吸収して器にマナを満たしていき、持てるマナの量を増やしていっていたからである。

 器にマナを満たすことは魔族の生きる最終目標でもあった。

 ところがそれがどうしたことか、かのマナの巫女は、たやすく器いっぱいまでマナを満たしてきたのである。

 エビルサタンはマナを持つ人族を襲う必要性が生涯なくなったも同然であった。


 エビルサタンのマナの器の量を100とすればマナバーン前、エビルサタンが保有できたマナの量は75程度で残り3割弱の器が未覚醒であったが、今では100の器に満タンでマナを保有することができていた。


 あまりのことで歓喜で身が震えた。

 

 マナ復活のからくりを知ったエビルサタンは、天空の塔に行くどころかブリズバーンから出港する前に、イリスのマナの量が全快するまで回復するのを待った上、エビルサタン自身に完全な量のマナの復活を願い出たところ、イリスはあっさりと「いいわよ」といって了承した。


 それによって今に至る、というわけである。


 人族にとって魔族は敵ではなかったのか、この娘は魔族の味方なのか、否、それを超えて魔界の女神か何かではないか、そう思うほどにイリスはエビルサタンに友好的に接していた。


 マナの巫女が魔界側についたことはエビルサタン、ひいては魔界にとって計り知れない僥倖であった。

 エビルサタンは魔界の立てたとある計画が実現可能であったことを知り、歓喜した。



 しかし、そこで安心して気を抜くほどエビルサタン、魔界の悪魔族の王は甘くはなかった。エビルサタンの邪眼は嘘を見抜くことができる(なお、イリスと初めて出会った際、イリスが気配を消す魔法を使っていたにもかかわらずイリスを感知することができたのも邪眼の影響であった)。


 イリスはエビルサタンよりもマナが上であったため、エビルサタンをもってしてもすべてを見通すことはできなかったし、イリスが嘘をついているようには見えなかったが、その友好的な態度が何かを隠すためのものであることは感知していた。



 イリスのその能力やイリスが何に一番こだわっているのかを考えてみれば、イリスが隠していることは察しがつく。むしろ、あんな光の魔法を使う姿を見て気が付かない方がおかしい。


――イリスは、あのとき、彼の少年にその莫大なマナを授けたのではないか?


 イリスのマナの量は底知れないほどに膨大だ。それは完全に回復するまでに10日程度要したことからも察しがつく(通常、エビルサタン程の実力者であっても数日瞑想すれば全快する)。

 そのイリスが、致命傷とは言え、彼の少年を治すのにそれほどの膨大なマナを使い切るとは思えなかったし、誓約の魔法の魔法陣にそれほどの力が込められているとも思えなかった。そうなると、自ずと答えは一つになる。


 そして、イリスが友好的に魔族のマナを復活させているのも、おそらくマナが復活したであろう彼の少年を狙う必要がないようにするためだろう。



 エビルサタンは、あの後、少年の身に何が起こったのか確認するべく、使い魔を召喚し、村の様子を確認させにいった。その結果・・・


「ほう・・・あの村にいたオークとリザードマンが全滅していましたか。

 そして、彼の少年は今シドル王都にいると・・・。

 報告ご苦労。

 引き続き彼を追い、彼の動向を監視しなさい」


 エビルサタンは使い魔のコウモリにそう命じた。


(あのときイリスがあの坊やに何かをしたと思っていましたが、やはりマナを復活させていましたか。となると、かなり危険です。早いうちにその力を紡いでおくのが魔界のためでしょうね)


「四天王よ、ここに来なさい」


「「「「はっ!」」」」


 悪魔族の四天王であるバトラー、ラビエル、ダークデビル、ハ・デスの4体の悪魔がエビルサタンの前に跪く。

 マナが完全以上に復活したエビルサタンは、配下である悪魔族であれば、マナと自身の命を一部生贄に捧げることで魔界から召喚することが可能となっていた。


 エビルサタンは、油断することなく、彼の少年をつぶす相手として、自身の最高の配下を選択して召喚していた。



「彼の少年を抹殺しなさい。しかし、厄介な男が近くにいます。バトラー以外の3人が彼を遠くにおびき出し、バトラー、貴方が確実に少年を殺しなさい。全力を持って殺すのです」




 一人の人間に3体の四天王をぶつけておびき出し、小さな少年一人に全力を出して殺せという作戦に四天王はギョッとする。

 四天王もすでにイリスによってマナを完全以上に取り戻しており、人間ごときに遅れをとることはないはずだった。

 相手が普通の人間であれば、だが・・・


「その男は剣王グレンです」


 エビルサタンがそう続けると、四天王全員が納得した。


 実際のところ、エビルサタンら魔族にとって何よりも恐ろしい存在は、剣王グレンであった。


 不老不死である上、その強大な力は、先の大戦以来も増し続けており、実際問題、マナを取り戻した自分と四天王の4人がかりでもあの男を抑えられるのか疑問であった。

 何より忌々しいのが不老不死である。絶対に倒すことができない。

 魔界側は手駒が尽きても復活はしない。万が一あの男に魔界に攻め込まれ、こちらの防波堤が決壊すれば、魔界の魔族が総倒れになることは明白である。

 また「0」から100年かけて戦力を増強しなければならない。


 今の魔界の目的は、マナを取り戻して大魔王を復活させて、大魔王にグレンの不老不死を解除してもらうか、それができなければグレンを大魔王の膝元という永久の地獄に閉じ込めることであった。

 それこそが魔界側の勝利条件であり、最終目標である。


 今回の計画はそのための第一歩たる計画でもある。イリスを魔界へ連れていくことができれば、いずれ大魔王の復活も成し遂げられるだろう。


だが、この計画の難関は少なくとも2つあり、大魔王復活までは①グレンとイリスを会わせてはならない(グレンのマナを復活させてはならない)ことと、②グレンが魔界に来れるようにしてはならないことである。


 エビルサタンは慎重に計画を進めていく必要があった。

 

 エビルサタンは四天王の3人程度で最終目標たるグレンが抑えられるとは当然思っていない。

 わずかな時間、バトラーが少年を殺す時間を稼げさえすれば良いと考えていた。


そしてあの少年が死ねば、これまでずっと後継者を探すべく隠居していた様子のグレンは、再び後継者探しのためにしばらく地上に縛り付けることができる上、グレンがイリスを探す積極的理由もなくなるはずと考えていた。



・・・・・・・・・・・・・・・



 そして、一方で、不運にもグレンもまた、察しが良すぎたために、自らその時間を稼ぐことに協力してしまうことになってしまうのである。


 もっとも、エビルサタン側としても、グレンがイリスに近づいてくるという最大の危機を迎えようともしていた。


 ――ここオストルンにおいて、世界の命運がかかった様々な思惑が交錯していたのであった。

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