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勇者を継ぐ者  作者: 本城達也
シドル王都へ
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勇者を継ぐ者

 悲鳴を聞き、異変に気が付いた見習い騎士が3人の下にやってくると、男が気絶したトマスとウィルをつかんで見習い騎士へと突き出した。


 見習い騎士は、その男の後ろにいる血だらけの2人の子どもを見て異常を感じ、何があったのかを問いただそうとしたところ、少年2人を突き出してきた男の顔を見て固まった。


 その男の顔を知らぬ王都民はいない。


「ハハハ。どうやら俺に感動して気絶しちゃったらしい。目を覚ますまで詰所で面倒見てやってくれ」


 その男がそう言うと、見習い騎士はビシっと敬礼して、細かい事情を聞くことなく「ハハッ!」と返事をして承った。

 その男の命令は騎士たちの主たる国王の命令よりも優先することが許されている。


 見習い騎士は、受けとった2人を見ながら、グレン様に手ほどきを受けられたとは羨ましい、いや、目を覚ましても細かい事情は聞くまい、そう思って詰所に戻っていった。


 もっとも、その後目を覚ました2人も今日何があったのか、何も覚えていなかった。よくわからない恐怖心から何も思い出してはならないとも思ったのであった。


 一方、グレンたちはトマスらを殺人未遂で突き出すこともできたが、それをすれば何があったのか(治癒魔法等)が知られてしまう。今日のことは何もなかったとするのが互にとって余計な禍根も残さず最善だった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 3人は人目につかないようにしながらセント・メリー教会へと戻ると、教会の前にいたアスターが出迎えた。


「おかえり、イリアにタズや!

 !?!?どうしたんじゃその傷は!?」


「まあまあ、目立つから騒がないでくれ。とりあえず中に入るぞ」


「!!!?

 グ、グレン様!?いつ王都にお戻りに!?」


「久しぶりだなアスター。たった今戻ったところだ。偶然イリアたちを見かけてな」



 年齢からすると20歳のまま不老不死となっているグレンと60台後半のアスターではアスターの方が見た目はるかに年上に見えるが、実際には、アスターはグレンの孫世代である。



「道中聞いたら、この坊主を養子に迎えたらしいな。ということは俺の息子のようなものでもあるわけだ。何やら色々訳アリみたいだし、事情を聞こうと思って帰ってきた」



 グレンが教会の中へと入ると、アスター以外のセント・メリー教会の中の者全員がグレンに向かって跪いて祈りを捧げ、主の帰還に歓喜の涙を流した。



「まったく、これがなければもっと気軽に帰ってこれるんだけどな・・・」



 アスターとイリアはそんなグレンのぼやきになんとも複雑な表情をした。


 タズはそんな2人をみて、今朝の朝食のとき、2人がグレンが王都にたまにしか帰ってこない理由を全力ではぐらかしていたその訳を察した。



 どういうことかといえば、セント・メリー教会が信仰する主神は、アルスに勇者を派遣してくださる戦いの女神アテネのことを指す。教会にとって勇者はまさしく奇跡を体現する神の子そのものであり、とりわけ不老不死のグレンは主神の現身とも言われており、生ける信仰対象であった。

 

 しかし、当のグレンからすれば実家を出入りする度に大それた祈りを捧げられてはたまらない。

 気軽に買い物といったことすら行きづらいのである。それどころか、王都をうろつくだけで、見かけた人々が跪いて祈りを捧げることも少なくない。


 これこそがグレンが王都にたまにしか帰ってこない理由であった。


 グレンがその気になれば、グレンを止められる者はこの世界にはおらず、王都征服、いや、世界征服だろうとたやすい。

 人々がグレンにこのような対応をするのも無理からぬことだった。


 グレンは人々を避けるために、人里離れたところへと隠居したのである。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 司祭室にグレン、アスター、イリア、タズの4人が集まると、タズはこれまであったことを魔法込みで話をした。


 そして、魔界に連れ去られた姉を探すための旅に出ている最中であり、修行と勉強のためにこの王都に住み始めたことをグレンに告げた。


 グレンは、タズの話を聞いて、イリスというこの世界に魔法を復活させた存在がいることを初めて知るとともに、世界が危機的状況にあること、100年続いた平和が終わろうとしていることを感じた。

 

 拳王と賢王の犠牲によってはじめてなし得た本当の平和、これを終わらそうとする輩がいることを、グレンは到底許すことができなかった。

 グレンは大戦以降、私的なとある理由と、世界平和維持のための調整という理由で動いてきたものの、その他のことで積極的に動くことはなかったが、ここにきてタズに全面的に協力することを決意した。タズの姉のイリスという謎の存在も気がかりでもあった。


 話を一通り聞き終わったグレンは、「ふぅ」と、深いため息をついた。

「―――なるほどな。

 ところでタズ、魔界がどこにあるか知っているか?」



「えっ?どこか遠いところとしか・・・。魔法がないと行き来できないって言われてることは知ってるけど」



「そうか、魔界はな、今も見えてるぞ。夜の空に浮かぶ月と呼ばれるあの真っ赤な大きな星、あれが魔界だ」



「ええーーーー!?」



 タズが驚くのも無理はなかった。

 どこにあるのかもわからず、暗中模索の状態だった魔界がまさかいつも見えてる月だったとは。

 この事実は、地上の人類には一部の有力者を除いて秘匿されていた。

 魔界から魔族が来ることはなくなったとはいえ、魔界があれほど近くにあることを知れば、地上の者たちは不安を煽られ、平和に暮らしていくことはできなくなるし、夜に安らかに眠ることもできなくなってしまう。月を信仰する宗教などはこの事実を知れば大混乱は免れない。


「魔界への行き方だが、一つは魔法を使って転移門で移動することだが、目に見えるところにある以上、転移門を使わなくても強靭な肉体と翼があれば行き来ができないわけではない。

 ただ、月と地上の間にある宇宙空間という奴がやっかいでな。魔法なしの生身でそこを進もうとすると息はできないし、寒いし、星との境界では空気に押し返されたりするし、燃えるしで普通は無理だ。

 おそらく魔界から来たというそのエビルサタンとやらも無事に地上に降りたわけじゃないだろう。

 どんな手段を使ったかはわからないが、おそらく尋常じゃない犠牲を強いられたはずだ。

 そして、魔法をつかえたとしても、魔界との行き来は容易じゃない。

 お前の姉が連れ去られたのが今から半月程前だというのであれば、魔界へ渡る準備のためにまだこの地上にいる可能性が高い」


「そ、そうなの!?」


「ああ。魔法で魔界に行くという場合、地上側の転移門があるのは世界の中心、月(魔界)に最も近いところにある天空の塔を介在する必要がある。

 お前の村から天空の塔に行くには普通に行けば船とか移動で3か月はかかっちまう。

 それに天空の塔の転移門も100年と長らく使われていないし、マナバーン後、無理に使おうとした輩がいたせいで魔力がすっからかんだからな。

 作動させるだけの魔力を供給するにはそれにも相当の時間がかかるだろう」


「そ、それじゃあ今からボクたちも天空の塔に向かえばお姉ちゃんに会えるかもしれないんだね!ボク、天空の塔に行きたい!」


「まあ待て、今から天空の塔に行ったところで、タズ、お前じゃ魔法を覚えた程度ではエビルサタンは倒せない。お前の話を聞くと、エビルサタンは軽く振るった拳で鍛えたお前を一撃で殺せるほどだ。その全力がどの程度なのか予測できない。かなり手強いと見て良いだろう。

 その上、お前の姉がマナを覚醒させることができるというならおそらく奴もマナを覚醒させているはず。魔法が使えるようになった魔王は、おそらく今の俺でも相手をするのは厳しい・・・」



「そ、そんな!数々の魔王を倒したグレン様なら倒せるのではないですか!?」


 グレンの弱音を聞いたイリアは声をあげて反論した。しかし、


「昔のように俺にも魔法が使えれば大魔王でもない限り楽に倒せるだろうが、魔法がない状態の生身ではどうしても限界がある。

 魔法の力は絶大だ。それ故に俺は大魔王には勝てなかった・・・。

 魔法以外の新たな力が北東の国には芽生えていると聞くから、俺がそれを修得すればあるいはというところだが、今からそれをしたのでは間に合わないだろう」


 イリアはグレンの意見を聞いて意気消沈した。


「そ、それならこのペンダント!このペンダントにはエルフ族皆のマナの源が詰まってんです!これをグレン様が使えばグレン様も魔法が使えるようになるんじゃ!」


 タズは思いついたようにそういって首からかけたペンダントを外してグレンに手渡した。


「実は俺もこれが気になっていた。だが、そう甘くはなさそうな感触も受けている。どれ・・・。

 ――――――ッ!やはりそうか。」


「ど、どういうこと?」


「このペンダントはお前専用ということだ。俺が力を込めてもピクリとも反応しないし、タズの手を離れた瞬間、このペンダントや中の魔石からマナを一切感じなくなった。

 よくわからないが、お前の無事を第一とするお前の姉が、誰でも魔法が使えるようになるような危険なシロモノをお前に預けて危険に曝すとは考えられないし、やはりこれにはそういう細工がされているか、あるいはこの魔石にマナが貯まるのではなく、お前のマナを解放するためのものなのかもしれん。

 この魔石も魔法があった大戦以前の記憶でも見たことがない。しかも俺の手元ではこの魔石もただの小さな灰色の石ころだ。お前の手元にある状態で初めて効果を発揮するらしい。

 その上、よほど注視しないとお前にマナがあることすら分かり難くされている。

 一部の石は魔族の体内でマナを生み出していたというが、お前の手に渡るそのときまでマナをふり絞り続け、お前の手に渡ったその瞬間にそのマナでもって魔法がかかり、その性質を変えたのやも知れん。

 いずれにせよ、残念だが俺には使えない」


「そ、そんなぁ」


 グレンの推察から衝撃の事実を知り、タズは落ち込んだ。


「いや、落ち込むことはないぞ。このペンダントはお前を守るためのものだ。お前を何が何でも守るという強い気持ちを感じる。本当に愛されているな。それはお前が大事に持っていろ」


「う、うん」


 そう言われると、タズは改めてこのペンダントに守られていることを実感し、励まされた。


 そんなタズにグレンは切り出した。





「さて、俺が戦えない以上、手段は一つしかない。タズ、お前が勇者になるんだ。お前にはその資格も才能もある」





「「「!?!?」」」



 突然のグレンの宣言に3人は驚愕する。グレンはそのまま話を続ける。


「お前の道は二つだ。

 一つはじっくりと力を付けて魔界に対抗できるだけの力を付ける。俺がその手ほどきをしよう。俺の下で修業をすればお前は間違いなく勇者になれる。

 そしてもう一つは・・・これはかなり無謀であり、賭けでもあるが、今から超特急、お前の姉が天空の塔へ移動する間の3ヶ月間でエビルサタンを倒せるだけの力をつけ、天空の塔でお前の姉を奪還するという選択肢だ。

 幸い、俺の足は船や馬よりも遥かに速い。俺と修行を積んだ後のお前ならここから天空の塔へ移動するのに数日かからないだろう」


 この宣言は海の上だろうと山だろうと船や馬より速いというあり得ない発言であったが、規格外のグレンであればおかしくはない。


 タズは、グレンから与えられた選択肢に対して少し考えた後、覚悟を決めて後者を選択した。


 その返事に対してグレンは、


「いい覚悟だ!やはり勇者の素質があるな」



 と言って、タズの選択に納得した。

 勇者の後継者誕生の瞬間である。



 グレンは本心でいえば、自分一人で戦うこともできた。しかし、自分たち古の勇者が世界を救ってから100年も経ったというのに、いまだにこの世界がグレンに頼らざるを得ないことになれば、この世界は今後もグレンに頼りきりになるだけである。そうなればグレンは自分のとある最終目標を果たせなくなってしまう。

 グレンは自分の後継者となる者を探していたのであった。

 とうとう見つかった自分の後継者にグレンは一安心であった。


(だが、このままうまくいくだろうか・・・。

 嫌な予感がするな。そもそもこれだけの大それた計画を本当にエビルサタンとかいう魔王一人だけで実行したんだろうか?

 タズの話だと、もしイリスがエビルサタンについていかなかったとしても第二、第三の魔王が来るといっていたところが気になる。

 もし、魔界が一致団結し、エビルサタンすらも捨て駒だとしたら・・・。)


「タズ、お前に、剣術の基礎を叩き込んだら俺は少し天空の塔まで出かけて様子を見に行くことにする。何か嫌な予感がする。様子を探って魔界の出方を確認しておく」


グレンはそう言って、自身の今後の行動を決めた。


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