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勇者を継ぐ者  作者: 本城達也
シドル王都へ
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新しい家族

 その夜・・・


 一方、タズの方も複雑な気持ちだった。先ほどまで王都に来たことを楽しんでいたが、一気に現実に戻されたような印象だった。その後のことはよく覚えていない。教会の誰かに連れられてお風呂に入れられて着替えてその後ベッドに入ったらしいが記憶がない。



 しかし、朝になって起きてペンダントを握りしめると、落ち込んでいた気持ちもどこかに消え失せて再び元気が出てきて、「さあここからだ」という気持ちになった。



 タズがベッドから起き上がると、ノックの音が聞こえてきた。タズが「はーい」と返事をすると、


「タズ、入るわよ。」


と言って、イリアが部屋に入ってきた。


「タズ、昨日はよく眠れたかしら?」


「うん!すごくよく眠れた!長いこと木の上で寝てたし、こんなふかふかなベッドで寝られると思わなかったよ」


「そう・・・。大変だったわね。今日はどうするの?しばらく王都にいるのかしら?」


「うん。昨日言えなかったけど、ボク、イリス姉ちゃんを探す旅の最中なんだ。でもそれにはもっと強くならなきゃいけないし、いろいろ覚えないと!

 だからしばらくこの王都で世界のこと勉強しながら修行する予定だよ」


「そ、そうなの。それは良かったわ!ここには好きなだけいていいわ!イリスも突然勝手にやって来ては泊まっていってたもの」


 イリアは予想してなかったタイミングで昨日の返事を聞き、イリスがまだ生きていることを知って安心した。


(そっか、イリスはまだ生きていたのね。良かったわ。・・・泣いて損したじゃないっ)


「そうだったんだ!でもボクのお姉ちゃん、全然村から出ているようには見えなかったけど、いつ王都に行ってたんだろう?」



「あー。それはね、あの子魔法使いだから、転移魔法でパッと夜遊びに来てたの」



「えっ!そうだったの!?お姉ちゃんボクのこと早めに寝かしつけて一人で遊びに行ってたなんて・・・」


「イリスの魔法はやりたい放題過ぎて反則よぉ。転移魔法なんて、マナバーンの前でも選ばれた勇者とかしか使えなかったのに・・・」


「そ、そうだったんだ。さすがお姉ちゃん・・・」


 タズは「あはは・・・」とあきれ顔をしながら、あの姉ならと思いながら納得した。


「それより、今日は私が王都を案内してあげる。何か旅のヒントになることも見つかるかもしれないし。

 さあ下に食事もできているし、朝ごはん食べたら一緒に出掛けましょう」


「うん!ありがとうイリア姉ちゃん!」



 タズは満面の笑みを浮かべて返事をした。



(うっ、ホントにこの子は可愛いわね)



 イリアはそう思いながら無意識にタズの頭を撫でていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 タズはパジャマから用意されていた服に着替えて、ダイニングルームに行くと、そこにはイリアとアスターが既に座って待っていた。


「お-。サイズが合うか不安じゃったが、ちょうどよかったようじゃの」


「うん!ぴったりだよ!ありがとう!」


「さて、朝ご飯にするとしよう」


「「「いただきます」」」


 3人は楽しく他愛のない話をしながら朝食をとった。


 朝食をとり終わったあと、アスターはとうとう切り出した。


「タズや、言いたくなかったら言わなくて良い。わしらもなんとなく事情はわかっている。

 わしはイリスから自分にもしものことがあったら弟のことを頼むを言われていた。だからわしはお前さんを引き取った。

 タズさえ良ければ好きなだけこの家にいて良いし、このままイリアと一緒にずっとここで暮らしていっても良いぞ。」


「ちょっとおじいちゃん!私はいつかこの家出て、独り立ちする予定よ」


「ま、まあそれはともかく、タズや、村で何があった?」


「うん・・・」


 タズは村で起こったことを説明した。ただし、ペンダントのことや自分が魔法を使えることは伏せた。これを言えばまた村のようなことが起こるかもしれないと思ったからである。


「そうか、タズ、大変じゃったのう。でも大丈夫じゃ。この王都には伝説の勇者だった者がおる。

 お主にならもしかしたら戦い方を教えてくれるかもしれぬし、魔界へ行くヒントも教えてくれるかもしれぬぞ」


「えっ!?伝説の勇者って、もしかしてあの賢王様?

 生きていたの?」


「タズ、違うわ。賢王様は先の大戦からまだ行方不明よ。

 でも、100年前の魔界での大戦のことを誰が後世に伝えたと思う?勇者様しか魔界に行くことができなかったのに」


「もしかして、残り二人の勇者様の誰かとか?」


「そうよ。3人の勇者様のうちの一人、剣王グレン様よ」

 イリアは続けて説明した。

「先の大戦はあまりにも過酷な戦いだったわ・・・。

 過酷な戦いを前に拳王様は自分を犠牲にして他の二人の勇者を守ったとされているわ。

 そうして、拳王様の力を引き継ぎ、賢王様によって神秘の加護の魔法を受けた剣王様は不老不死になられた。

 でもそんな剣王様でも大魔王との最終決戦にはついていけなかった。

 大魔王もまた不老不死で、その強大な魔法の前には近づくことすら困難だったからよ。

 剣王グレン様は勇者からただの語り部になられた・・・。

 だけど、皮肉なことにマナバーンが起こって魔法も魔王も勇者もみんな消え去ってからは、不老不死かつ強大な力を有しているせいグレン様は、地上最強の男と呼ばれる生きる伝説となっているわ。

 ――大戦以来、グレン様はこのオストルン大陸でずっと隠居されていて、実家のあるこの王都にもよくいらっしゃるわ」


「マナバーン以来、魔族も人族も皆、異物であるグレン様を恐れておる。嘆かわしいことじゃ。二人の勇者がすべてを犠牲にしてでも世界を守るために不老不死を授けたのに・・・。

 しかし、マナバーン後、魔族と各地で停戦協定がされ、共存が進み、100年という長い年月平和が守られたのもグレン様がいてくださったおかげなのじゃ。そんな勇者を輩出したシドル王国はグレン様への感謝を忘れたことはないのじゃ」


「そうよ。グレン様は我が国の英雄なの。

 それに魔界に行ったことのあるグレン様なら魔界への行き方とかも知っていると思うし、イリスを探すための手がかりが見つかるかもしれないわ」


「そっかぁ。そんなすごい人がこの国にはいるんだね。それで、どうやったらグレン様に会えるのかな?」


「「そ、それは・・・」」


 タズのその指摘にイリアとアスターはギクリといった表情を浮かべた。


「グ、グレン様は不老不死であるが故にわしらとは少し時間の感覚が異なっておる。もっとも、エルフ族も長寿じゃから似てるところがあるかもしれんが、とにかく、あまり王都に長居はせず、数年に一度ふらっとくるだけでどこにいるのかわからんのじゃ・・・。

 きっとエルフ族と同じように人里離れた森の中とかどこかの山奥とかで隠居されておるのじゃろうが・・・」


「そうなんだ・・・。いつもいるわけじゃないんだね・・・」


「で、でも、今度の平和記念日にある王宮騎士の試験、あれは年に1回しかないけど、グレン様も試験官をされているからその時には王都にいるはずだわ!

 まずは王宮騎士の試験を目指しましょう!」



「王宮騎士!?でもボクまだ9歳だし、王宮騎士になれるのかな?」


「それは大丈夫よ。

 王宮騎士には15歳以上の大人しかなれないけど、まずは14歳以下が入隊できる見習い騎士として入隊して、そこから王宮騎士に上がるというものもあるの。王宮騎士試験では見習い騎士の入隊試験も一緒に開催されるわ。

 今年は私もそれに出るつもりだし、タズも一緒に出ましょう!」


「そうなの?じゃあボクも出てみるよ!」


「うん!良い返事ね!でも見習い騎士になるには王都のことをよく知っていないと。王都の地理の試験もあるわ。

 という事で今日は一緒に王都を見て回りましょう。見習い騎士も警察として王都で警備活動しているから、見習い騎士がどんな感じかもわかるはずよ」


「うん!わかった!」


「そうじゃ。出かける前にタズ、これを持っていきなさい」


 タズはアスターから小さなパスケースを受け取った。


「ん?これは何?」


「身分証じゃ。もし迷子になったときは警備している見習い騎士にこれを見せれば大丈夫じゃ。あと、その身分証入れの中には少しお小遣いも入れておいたぞ」



「身分証かぁー。このTazz Goldってもしかしてボクの名前?」


「そうじゃ。わしはアスター・ゴールドという名前じゃ。

 タズはわしの養子にしたから同じゴールドという名前がついておる。

 これを見ればお主がわしの息子であることもわかるし、変な連中に狙われる心配もないというわけじゃ」


「え!?ボ、ボク、いつの間にかアスターおじいちゃんの息子になってるの!?ホントにいいの!?」


「ああ!もちろんじゃとも。これからはここが我が家だと思ってくれて良いぞ。

 可愛い我が息子や」


 タズは急展開に驚くと共に、次第に理解が追いついてきた。


「ぐすん・・・ありがとう、おじいちゃん・・・。ううんお父さん・・・」


 タズは思いがけないところで新しい家族ができて、ほっとしたのか涙があふれて止まらなくなった。

 

 今まで家族同然に育ててくれた村の皆を失い、唯一の家族(姉)をも失ったタズは、元気に振る舞っていたとはいえ、まだ9歳の子どもである。何もかもを失い、身寄りがいなくなって寂しくないはずがなかった。

 そうして新しい家族ができた反動で涙が止まらなくなっていた。


「いい子じゃな、タズ・・・。

 もう寂しくないぞ。わしらがついてるからのう。

 こんな老人をお父さんと呼ぶのもなんじゃて、おじいちゃんで構わんよ」



 アスターは優しくタズに語り掛けながらタズが泣き止むまで頭を撫でていた。



 イリアはタズとは反対方向を向いていたが、鼻をすすっている音がしており、イリアももらい泣きしているのは明らかだった。



 イリアもまた、アスターの養子であったため、二人はこの瞬間から身分上、姉弟となったのである。


(この調子ならタズとイリアもイリスとタズと同じように遠くない時期に仲良い姉弟になりそうじゃのう。タズ、良かったのう)


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