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勇者を継ぐ者  作者: 本城達也
オストルン大陸冒険へ
103/106

王の中の王


 タズに攻撃を受け止められたダークドラゴンは、驚きのあまり、狂乱化が解除されていく――




「マ、マサカ・・・マサカ!マサカ!!マサカッ!!!」





 ダークドラゴンの攻撃を受け止めたタズの周囲にはこの世のものとは思えぬ膨大な魔力がうごめいていた。

 荒れ狂う魔力の渦の中心には不敵な笑みを浮かべるもう一人のタズ――ブリズ――がいた。




 辺りはもうすっかりと夜になり、2人の頭上には真っ赤な月(魔界)が光り輝いている。




 赤い月を背後に背負い、この地上の全て、否、夜空に浮かぶ星々すらも全て掌握せんとする威風堂々たるその男の姿にダークドラゴンは目を見開いて硬直した。






 全ては誤解であった。





 この地上で禁句とされているその名を名乗ることが許されるのはこの世でたった一人。偉大なる王の中の王だけである。




 そうであるにもかかわらず、目の前の男がその名を名乗ったことがダークドラゴンには到底許せないことだった。





 だが、目の前でその名を名乗ったその男は・・・その偉大なる王と全く同じ絶対的な存在感を放っている。




 

 周囲をうごめく魔力の高まりがその男が只者ではないことを告げている上、何よりもその男はその小さな身体で、狂乱化したダークドラゴンの全力の飛翔突進噛み付きをびくともせずに受け止めたことが両者の間に膨大な力量差があることを告げている。




 自分よりも小さな身体で狂乱化したダークドラゴンのドラゴンバイトアタックを真っ正面から受け止められる人物がこの地上にどれだけいるのか・・・。




 地上最強のグレンや上位種の竜人族であればともかく、ただの小さなエルフにいともたやすく受け止められることは通常は絶対にあり得ない。そんなあり得ない事態が起こったことから、ダークドラゴンには目の前の小さなエルフがグレンたちと同格以上であり、自分では絶対に勝てない相手であるとはっきりとわかった。




「グォオオオオオオオオオオオオオオオ

 アナタサマハ・・・マ、マサカ・・・」




 そうつぶやきながらも涙を流すダークドラゴンは狂乱化が完全に解けていた。



「その様子じゃ知っている(・・・・・)とは思うが、オレの名はブリゾネーター・ビューズ。

 この名を知ってしまった以上、殺す」



 そのエルフはかつての偉大なる王と全く同じ名を名乗り、小さくつぶやく。



時空加速(アクセラレーター)二重(ダブル)



 その瞬間、ダークドラゴンの目の前からブリズの姿が消えた。ハッとしたダークドラゴンの頭上から目に見えない速度の蹴りが振り下ろされた。


 

 数十mはある巨体のダークドラゴンがタズの1発の蹴りを喰らっただけで大量の血を吐き出すような大ダメージを受け、地上へと落下していった。



 だが、ブリズは高速で落下していくダークドラゴンをも追い越して追撃の蹴りを下から上へと入れる。

 その蹴りは的確にダークドラゴンの左胸に突き刺さっており、1回目の蹴りによる落下エネルギーに加え、正反対の方向から同じ力の強力な蹴りを受けたことで硬い鱗をも突き破り、その奥にあった核をも貫いた。



 核を貫かれたダークドラゴンの身体は地面に落下して激突すると同時に消滅した。




「これで終わりだな。アクセラレーター・オフ」




 ブリズはダークドラゴンを一瞬にして葬った。




 しかもその手には魔剣ブリゾネーターは握られてはいない。




 タズとしては剣の方のブリゾネーターを呼ぶつもりであったが、先ほどの状況はタズの命の危機でもあったため、ブリズ本人が顕現する条件が整っていたのである。そのため、剣ではなくブリズ本人が顕現した。




 魔剣ブリゾネーターはブリズ本人の力の一部にすぎない。ブリズ本人は、剣のブリゾネーターが持つ様々な能力を当然に自分でも使うことができる。それどころかブリズ本人が剣のブリゾネーターを装備した場合、その効果は相乗効果となってタズが使う場合の倍以上の効果が生じる。




 ブリズにとっては先の魔王エビルサタンやヘルバトラーと比較すれば遥かに弱いダークドラゴンを倒すのに剣のブリゾネーターを召喚する必要は全くなかった。ブリズは自分自身の力でドラゴンバイトを物理攻撃のエネルギーを全て拡散させて防ぎ、時空加速アクセラレーターを使って極限まで速度を上げて渾身の蹴りを入れたというわけである。



 まだまだ未熟で小さなタズの身体ではかつての力の1%も引き出せていないが、それでも圧倒的な強さを誇り、伝説の3勇者による三重攻撃ですら倒すことができなかったブリゾネーター・ビューズが魔法も使えない地上の魔族相手に後れをとることはない。






「フ、呆気なかったな。

 マナも持っていないようだし、今の魔族共はタズの奴には有害なだけで何の存在価値もない連中だ。久々に外に出られたことだし、殲滅しておくか?」



 ブリズが物騒なことをぼやいて動き出そうとしたそのとき、イリアがタズを後ろから抱きしめた。




タズ(・・)、早く起きて戻ってきなさい。

 早く起きないとブリズが酷いことしちゃうわよ」

 



「チッ!」



 ブリズは舌打ちすると、急に意識を失ってイリアに倒れ掛かり、しばらくして再び目を開けた。



「うぅ・・・はぁ・・・はぁ・・・」




「タズ、起きたのね。おかえりなさい。

 ダメよ。魔族と戦うのにブリズと交代したら・・・。

 そのうち本当に乗っ取られちゃうわよ?」




「お、おはようお姉ちゃん。

 はぁ・・・はぁ・・・。

 やっぱり・・・ブリズと交替するだけでも体力とマナを持ってかれちゃうんだね。

 でもありがとブリズ!おかげで・・・はぁはぁ・・・なんとかなったよ」




「(できればオレが出ていかなくてもいいくらいに早くタズに強くなってもらいたいところだけどな)」




「うっ・・・ブリズも厳しいね・・・」




「(ちょうど体力が吸われた今こそトレーニングのチャンスだ。余計な寄り道をして大分遅れたし、とっとと出発した方がいいんじゃないか?さぁ走れ)」




「そ、それもそうだね・・・。

 お姉ちゃんはいける?」




「おかげさまで私はなんともないわ。いつでも大丈夫よ。

 それよりタズの方よ。もう出発して平気なの?

 でも修行のためにはこういうときこそ走った方が良いのかしら?入れ替わった途端にそれじゃあそこを狙われたらおしまいだもの。回復魔法かけてあげるのはやめよっと。タズもズルしちゃダメよ」



「うぅ、お姉ちゃんまで・・・。

 わかってるよぉ」




「なら良し!

 それよりお兄ちゃんは大丈夫かしら?」




 タズとイリアがランスロットのところまで駆け寄るとランスロットはボロボロな状態で気絶していた。

 すぐさまイリアが回復魔法をかけると、ランスロットはすぐに呼吸が安定して再び眠りについた。




 イリアは魔法で倒れた木々を加工して簡易の休憩所を作り、そこへランスロットを寝かせると、魔法で草木を召喚して休憩所を隠した。




「これなら大丈夫でしょ。見つかったら厄介だし、お兄ちゃんはここに置いていきましょ。

 このあたりはあのドラゴンが吹き飛ばしてくれたおかげでしばらくは魔族も近づいてこないでしょうし、キャンプに一番安全だわ。

 私たちは明日には王都に戻らなきゃだし、休まずにこのままいきましょ!」




「うん。でも本当にいいの?お兄ちゃんに会えたの久しぶりなんでしょ?」



「いいの、いいの。

 ・・・今度はちゃんと本当の私でお家で出迎えてあげたいから。

 今日はお兄ちゃんが元気でやってることがわかっただけでも十分よ」




「そっか。わかった!

 街とか街道の方は大丈夫かな?」




「一応さっき私が空から確認したけど大丈夫そうだったわ。あっちにはグレン様がいるのだから当然と言えば当然なのかもだけど」




「そ、そっか・・・。

 じゃあ行こ!」




 こうしてタズとイリアは再び王都へ向かって南下し始めた。ドラゴンの出現によって森の魔族たちは大移動をしてしまったのか、森はすっかりと静かになっており、その後は何事もなく王都にたどり着くことができたのであった。

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