その名は・・・
タズたちは再びダークドラゴンの下へと引き返すと、ダークドラゴンはランスロットから大ダメージを受けた上、逃げられてしまったことに我を失い、怒り狂って暴れまわっていた。
周囲のマンゴーの林はドラゴンブレスによって吹き飛ばされて変わり果てた状態となっていた。
グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
「相変わらず吠えてるな。弱い奴ほど吠えるというが、ま、しょせんは低級竜族か。
こちらに気づいていない今がチャンスだ。初撃は特大のを決めるぞ」
「うん!がんばって!」「気を付けてね・・・」
タズとイリアが見守る中、ランスロットは槍を構え加速する準備に入った。
先ほどの技は落下しながらの一撃であり、落下速度と重力が加わった強力な一撃であったが、速さだけでいえば空から落下するよりも地上を駆け抜けた方が速い。
敵に気づかれた状態であれば正面から突っ込んでいって攻撃するなど危険極まりないが、幸い今は気付かれていない。
最も突進力のある一撃を放つチャンスであった。
「いくぞっ!ゴールド流槍術奥義
疾風迅雷閃ッ!!!」
ランスロットはその場で軽く飛びあがり、真後ろにあった木を蹴り飛ばして飛翔するかのように加速すると、その勢いを余すところなく雷槍へと伝え、轟く雷鳴のように速く強力な一撃を放った。
槍はただ前に突き出されたわけではなく、ねじりながら突き出されて強力なスクリュー回転も加えられており、硬い竜の鱗をたやすく貫いて頭へと深々と突き刺さる。
グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
その一撃を受けたダークドラゴンは再び大きな声を上げて咆哮して悶絶した。
だが、ダークドラゴンは怒り狂うと思いきや急に静かになり、自身を落ち着かせるかのようなめいそうを始めた。
「ミツケタゾオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
そして再び唸るような低い声でしゃべりはじめると、先ほどまで塞がっていた両目を大きく見開いていた。
「チッ!ドラゴンってやつは回復力もずば抜けてやがるな。もう目が元に戻ってやがる。
お前たち、難易度が上がったぞ!気を付けろ!」
「「了解!」」
「シネエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」
ダークドラゴンはランスロットに向かって突進しつつ、ドラゴンテイルを繰り出した。
これに対してランスロットは槍を縦に持って構えて防御の姿勢に入った。
「危ないっ!」
ドラゴンテイルを正面から受けようとするランスロットの姿にイリアは思わず声を上げたが、ランスロットはドラゴンテイルが槍の柄に当たるとまるで流水のようにうまく受け流しつつ、身体ごと上へ一回転してドラゴンテイルを飛び越えた。
そしえ、ドラゴンテイルを受け流したことでその反作用による加速力を得ると、勢いを活かして槍をダークドラゴンの口へと突き立てる。
「ゴールド流槍術秘奥義!
流転鏡照閃ッ!」
見事なカウンターの一撃が決まった。
「す、凄いっ!
グレン様から受け流しのコツは聞いてたけど、どうしてもどこか力んじゃって結局攻撃を受けちゃうのに、ランス兄ちゃんはあんな凄い攻撃を前にしても完全に脱力して完璧に受け流してる・・・」
「確かに凄いわ。やっぱり経験の差が大きいわね。私たちももっと頑張らないとね」
「うん!」
ダークドラゴンは口を突き刺されたことでブレス攻撃をすればその傷から自分も大ダメージを受けてしまう状態となった。
ランスロットの一撃はドラゴンのブレス攻撃をも封殺することに成功していた。
「その回避のセンスがあればコツさえつかめばいずれお前たちもできるようになるさ」
その後もランスロットはダークドラゴンの攻撃をうまく流して攻撃につなげていく。
ランスロットは徐々にダメージを蓄積させてダークドラゴンを追い詰めていき、このままいけば勝利は間違いないといった様子であった。
「さて木偶の坊、いよいよ後がなくなったぞ?どうする?」
しかし、ダークドラゴンはこれほど追い詰められた状況でもなおも笑っていた。
「グッフフフフフフフ・・・」
ダークドラゴンは視力が回復したことでランスロットたちの弱点に気が付いていた。
ランスロットたちの弱点・・・それは、負傷し、奥でバックアップ要員として待機している少女だ。
この少女が最も狙い目であり、彼女を狙えばランスロットたちが庇いに来るだろうと読んでいたのである。
「えっ!?」
これまで全くの蚊帳の外にいたイリアは急にダークドラゴンに睨み付けられて怯んでしまった。
その隙にダークドラゴンはイリア目がけて突進していく。負傷したイリアは突然狙われたことで不意を突かれ、逃げ出すのが遅れてしまっていた。
「チッ!まさかアリアを狙うとは!」
「お姉ちゃん!!」
だが、タズだけはいち早くこれに反応していた。奇しくもこの状況は以前イリアが死んでしまったときと同じ状況。タズはあの出来事だけは二度と繰り返させないと常に気を配っていたからである。
ダークドラゴンはそんなタズとイリア、そして二人を庇いに追いかけて来ていたランスロットを巻き込むことができる距離で狙いすましたドラゴンテイルを繰り出した。
「ブ、ブリズッ!!危ない!!」
イリアは助けに入ったタズの背中にドラゴンテイルが迫ろうとしているのを見て危険を知らせるべく叫び声を上げる。
一方、タズはこの状況で全員を守ることができる手段はたった一つしかないと確信し、声を上げて切り札を呼ぶ。
「ボクは大事な人を守るためなら・・・もう二度とためらわない!
来い!ブリゾネーターッ!!!」
だが、その瞬間、ダークドラゴンは攻撃を急停止した。
「えっ!?」
ダークドラゴンが急に動きを止めたので、タズもまたブリゾネーターの召喚を停止させる。
「キサマ・・・
イマナニヲイッタ?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
ダークドラゴンの怒りで地面が震え出す。
「キサマゴトキ、下等セイブツガ
カミノナヲナノッタノカァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
ダークドラゴンはこれまでにないほどに怒り狂った。
竜族は魔族であるから当然ではあるが人間より遥かに長寿である。
このダークドラゴンはすでに200歳を超えていた。
そのために知っていた。
ブリゾネーターという名前を。
魔界を統一せしめた偉大なる王の中の王の名を。
ダークドラゴンにとっては神の名といっても過言ではない、尊敬し、崇めてやまないその名を目の前の冴えない人間の子供が名乗ったように見えたのである。
その名前の王を探し続け、復活を待ち望んでいたダークドラゴンにとって人間の子供がその名を名乗るということは最も許しがたい行為。千回殺しても許し難い行為、万死に値する行為であった。
ダークドラゴンはかつてない怒りによって狂乱した。
先ほどまでは多少の会話ができる程度にあった知性を全て捨て去ってしまい、怒り狂う獣となったのである。
強力な魔族はその知性を捨てることで爆発的に力を増す。
ダークドラゴンは狂乱することにより、先ほどまでランスロットによって与えられた傷がみるみると塞がっていき、漆黒の鱗はアダマンタイトのように強靭となって黒く輝き始め、全てのステータスが爆発的に急上昇していく。
「お、おいおい・・・マジかよ」
苦労して与えたダメージが全て塞がっていく。あまりの急激な変化にランスロットは唖然とするほかなかった。
一方、タズは本能的に危険を感じ、イリアを連れて森の奥まで一気に飛んだ。なりふり構っていられないことを確信したため、風魔法も使って距離を稼いだ。イリアもまたダークドラゴンから先ほどまでとはケタ違いの迫力を感じ、回復魔法で一気に身体を全快させ、タズと同じく風魔法で飛翔する。
もはやダークドラゴンは遥か遠くを飛んでいくタズしか視界に入れていなかった。タズを追いかけるべく飛ぼうと翼を広げる。
「お、おい!ちょっと待てっ!」
一人その場に取り残されたランスロットに対してダークドラゴンはそちらを意識もせずにドラゴンテイルを放つ。
そんな何気なく放たれたドラゴンテイルだというのに、ランスロットは先ほどまでは受け流すことができていたにもかかわらず、受け流すことができずに槍ごと吹き飛ばされた。
「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああ」
ランスロットは数百m吹き飛んだところで木に激突して落下し、意識を失った。
・・・・・・・・・・・・・・・
今ならランスロットをたやすく殺せるという状況であるにもかかわらず、ダークドラゴンはそんなランスロットに見向きもせず、タズが逃げていった方向へとドラゴンブレスを放つ。
ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
「う、うそ・・・」
タズとイリアは魔法で更に上空へと飛翔したため何とか回避できたが、タズたちのすぐ真下の森は更地と化していた。
それを見て焦ったイリアは地上へと降りて意識を集中させ、高難度魔法である気配を消す魔法を唱え始める。
一方、本気になったダークドラゴンのブレス攻撃に冷や汗を流していたのも束の間、空に逃げたことで安心だと考えて油断しきっていたタズの下へとダークドラゴンは一気に飛翔して襲い掛かった。
そう・・・ドラゴン相手に大空は安全なエリアではなく、むしろ隠れる場所がない最も危険なエリア。大空こそが彼らのテリトリーである。
油断していたタズの下へとダークドラゴンが大きな咢を開けて襲い掛かり、もはやどこへ逃げようとも防御をしようとも何をしようともそのまま飲み込まれてしまうといった絶体絶命の状況となっていた。
「タズーーーーーーーーー!!!」
イリアは油断したタズを食いちぎろうと超高速でダークドラゴンが襲い掛かってきたのを見て、思わず偽名ではなく、本名の方を叫ぶ。
しかしながらその叫び声はもう遅く、タズはダークドラゴンに飲み込まれたように見えた。
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もうダメだと思ってイリアが思わず一瞬だけ目を瞑ってしまったその時であった。
イリアがおそるおそる目を開けると、タズはランスロットですら受け流すことができなかった狂乱状態となったダークドラゴンのドラゴンバイト(噛み付き攻撃)を正面から受け止めていた。
「えっ!?」
それどころかタズはダークドラゴンの攻撃を軽々と受け止めており、いつものタズが絶対にしないような不敵な笑みを浮かべていた。しかも、その姿は、仮初だった普通の人間の姿から元の美しい顔立ちをしたエルフの姿へと戻っている。
「ギリギリだったなタズ。
だが、オレを呼んだのは正解だ」
ダークドラゴンが探し続けた――
王の中の王が今、地上に顕現していた。




