イリアの兄
「おっ。良く知ってるな。ってアンタ、妹の友だちだったのか。
よろしくな。お前たちはなんて言うんだ?」
「お、お兄さん、イリアお姉ちゃんのお兄ちゃんだったんだ・・・。
そっか!だからだったんだ!
えっと、ボクはブリズ。こっちはボクのお姉ちゃんで・・・
(ってお姉ちゃんどうするの?別にお兄ちゃん相手に偽名使わなくて良いんじゃないの?)」
「私はアリア。よろしく、ランスさん。
(うーん、なんだか恥ずかしいし・・・お兄ちゃんは私が勇者やってるなんて知らないかもしれないからやめとく。悪いけど話合わせてね)」
「(そっか。うん・・・わかった)」
タズとイリアは目配せだけで意思疎通をしてこのまま変装を続けることにした。
「ふーん。ブリズにアリアか。アンタ、名前は俺の妹にそっくりだな」
「(ギクっ!)」
「まあアイツがこんなところにいるわけないか。今頃おじいちゃんのところで楽しくやってるだろ。
アイツ、やっぱり元気だったか?」
「別に・・・普通。」
(ちょっとお姉ちゃん!普通ってなんだか冷たいよ!)
(お兄ちゃんが心配してくれてるのに・・・)
「あっ・・・イリアお姉ちゃんはこの前遊んだときはすごく元気だったですよ!」
「そうか・・・。元気だったか。まぁ元気だけが取り柄みたいな奴だったからな。
よかったよ。教えてくれてサンキューな」
「お兄さんはお家帰らないんですか?きっとイリアお姉ちゃん会いたがってると思いますよ?」
「(ちょっとタズ!何言ってるの!?別に会いたがってないわよ!)」
「そうだろうな。小っちゃい頃はいつも俺の後ろ付いて歩いてたからな。ブラコンで困った奴だったよ」
「(くぅうううううううう!何がブラコンよ!冗談じゃないわ!私はブラコンじゃありませんっ!帰ってきたら絶対許さないんだからっ!)」
客観的に見ればイリアは今も弟大好きの超ド級のブラコンだったが、本人にその自覚は一切ない。兄の真っ当な評価に対して本気で怒っていた。
「けどまあゴールド家に生まれた以上は国を守んないといけないからな。力があるというのに何もしないわけにはいかないさ。
・・・俺はさ、アイツにゴールド家の仕事はさせたくないんだわ。アイツは小っちゃい頃から騎士になるだとか医者(衛生兵)になるだとか言ってたけどさ。俺はアイツにそんな危険なことさせたくなかった。
だから俺がアイツの分もこの国の平和を守ってやらないといけないって思ってな。最近は他にも守るもんができちまったし、しばらく帰れそうにないな。
もしアイツに会ったらよろしく伝えておいてくれ」
「(お兄ちゃん・・・。そうだったんだ・・・)」
予期せぬところで兄の本心を聞いたイリアはいつの間にか先ほどまでの怒りは収まっていた。
「うん!ボクがちゃんと伝えておくよ!
そっかぁ・・・えへへ!兄妹っていいね。
ボクもランス兄ちゃんって呼んでも良い?」
「ん?かまわないぞ。よろしくなブリズ。それにアリア」
「ふん。私はお兄ちゃんだなんて呼ばないわよ。
ランスさん、それより大変なことになってるの。
あなたがあのドラゴンをこんなところまで引き連れてきたせいで森の魔族がパニックを起こしてスタンピードを起こしちゃっているわ。一体何をしたの?」
「ああ・・・それな・・・。
実はちょっとばかし竜帝国でやらかしてお尋ね者になっちまった」
「・・・・・・・・・。
はぁ!?」
「え、えええええええええ!?ちょっとそれ大丈夫なの?」
「ああ。竜族の連中に囲まれたときはちょっとばかし危なかったが、命からがらなんとかここまで逃げてこれた。
けど、見ての通りアイツだけはしつこくてな。こっちの魔族の縄張りまで入ってはこないだろうと踏んで東に逃げ込んだんだが、目を潰しちまったのが逆効果だったらしい。縄張りを超えてきちまった。
そうか・・・アイツのせいでスタンピードになっちまったのか。申し訳ないことをしたな」
「はぁ・・・。そういうことだったのね・・・。
けどそれってかなりマズいじゃない。
あなたを殺さない限りアイツはもう西に帰ってくれないってことでしょ?けどこのまま放置したらこっちの人族も魔族も大パニックよ。どうするの?」
「しゃーないな。こうなったらかなり危険だけれどもここで奴を倒すしかない」
「はぁ・・・どうせそういうと思ったわ。まったくもう・・・。
けど、あのドラゴン相当硬いわよ。私たちじゃダメージすら与えられなかったわ・・・」
「そりゃそうだろうな。ドラゴンと戦うのにはコツとパワーがいるんだよ。鱗と鱗の継ぎ目の部分を狙いすましてこういう先の尖った武器で突き刺すのが一番有効だ。あとはパワーがあるなら単に打撃なんかも有効だ。逆に下手な武器を使っての斬撃は一切効かないと思った方がいい。
俺の武器はゴールド家の家宝、アダマンタイト製の雷槍タケミカヅチだ。これなら硬い鱗の上からでもダメージを与えられる」
「凄い・・・。伝説級金属のオリハルコンより希少なアダマンタイトの槍だなんて初めてみた!」
「いやいや、確かにアダマンタイトは神話級だけれども、この国には誰もが知ってる身近なところにもっと凄いのがあるだろ」
「えっ?なにそれ!?ボク知らなかった!
そんなのあったの!?誰もが知ってるってボク知らないのってもしかしてマズいかな?」
「ブリズ・・・。それって・・・」
「ハハ。お前も絶対知ってるさ。この国どころか世界中のどこの街にもレプリカが飾ってあるからな。
俺の師匠が持ってる聖剣アルスキャリバーだよ。星の名前に相応しい創世級の金属、ブルー・オリハルコン製だ」
「あー!!あれがそうだったんだ・・・」
アダマンタイトを超えるレア武器は知ってるも何もタズの所有物であった。子どもの誕生日プレゼントにそんなものを簡単にくれてしまうグレンがどれほど狂っているかが良く分かるといえるだろう。
「ま、そんな感じで上には上があるけれども、そういう例外的なシロモノを除けばこの槍は間違いなく最強クラスの装備と言えるだろうな」
「へぇー!そうだったんだ!あっ、師匠ってグレン様のことだよね?ランス兄ちゃんはもしかしてグレン様に稽古をつけてもらったの?」
「ああ、師匠っていうのは俺が勝手にそう呼んでるだけだ。
師匠はゴールド流は教えてくれたけれど、師匠のオリジナルは教えてくれなかった。
ゴールド流の剣術や槍術といった技は師匠が生まれるよりもずっと前からうちの家に代々伝わってる技だから、師匠じゃなくても教わることはできる。そういう意味では本当の意味での師弟関係ではないんだろうな。
魔法が使えない俺にはグレン流剣術も槍術もどうせ使えないから別に構わないけど。師匠は基本剣術ですらスパルタだったし・・・。
思い出しただけでも鳥肌が立ってくる・・・」
「あははは・・・(ボクたちも同じだなんて言えない・・・)」
「お前たちの装備は・・・ふーん、神木の木刀か。子どもの冒険者にしては随分と良いモノを持ってるな。
そいつは頑丈だし、身体を鍛えて攻撃力が上がればいずれはドラゴン相手でも大ダメージを与えられようになるはずだ。今のお前でもきちんと急所に突きを当てられれば若干のダメージは与えらえるんじゃないかな。
お前たちの実力はさっき遠くから少しだけ見せてもらったが、あのダークドラゴンを相手にして死なずに回避できる確かな回避力はあるみたいだし、2人がかりなら奴を倒せる可能性は高いはずだ。
アリア、怪我をしてるお前は遠くからバックアップをしてくれ。万が一俺らが負傷したり動けなくなったら回収する係だ」
「うん!」「はい!」
「メインの削りは俺がやる。ブリズ、お前はチクチク攻撃して奴の気を引いてくれ。それだけで十分だから決して無理はするなよ。
気を付けなきゃいけないのは周囲を薙ぎ払うドラゴンテイルだが、あれには一応予備動作がある。ドラゴンの奴が頭を下げたらドラゴンテイルが来る可能性が高いと思っていい。頭を下げたら上に回避しろ」
「そうだったんだ。わかった!でもドラゴンテイルを回避した後も怖いよ?さっきはそのせいでお姉ちゃんやられちゃったし・・・」
「確かにな。けど俺はあのテイル攻撃を回避しないでカウンターを入れるからもうその心配はないぞ」
「えっ?それってどういうこと?」
「まぁ実際にやるところを見てろ。ゴールド流槍術は元々は勇者の技。体格差が激しい竜族相手でも勝つための技だ。これができたから俺はここまで生き延びることができたわけだしな」
「う、うん」
こうしてタズたちは簡易の作戦会議を終えてダークドラゴンの下へと戻ることとなった。
ダークドラゴンとの死闘が再び始まる。




