雷光の一閃
タズがブリゾネーターを顕現させようとしたそのときだった。タズは微かに甘い香りを感じた。
「えっ!?この匂いは・・・。
お、お姉ちゃん!
こっちだよ!こっちに逃げて!」
「ブ・・・ブリズ・・・はぁ・・・どうしたの?
そ、そっちは方向が違う・・・わ」
タズが急に西ではなく南の方向にイリアを誘導するので、イリアは口ではそっちではないと言ったものの、イリアの体力は限界に近く、また、周囲を確認する余裕もなかったため、大人しくタズに従って南の方向へと逃げ込んだ。
ズドーーーーーーーーーーン
ダークドラゴンがイリアが逃げ込んだ先の木にぶつかる。
すると辺りに甘い香りが充満し始めた。
ここオストルン大陸ではメジャーで、人族、魔族共通で人気のあるフルーツ、マンゴーの甘い香りだ。
ダークドラゴンが突進で大量のマンゴーを撒き散らし、これを轢き潰したことで周囲はマンゴーの香りしかしなくなったのである。鼻を頼りにしていたダークドラゴンはイリアの姿を追うことができなくなっていた。
グォォォォオオオオオオオオオオオ!!!!!
ダークドラゴンは悔しさを露に咆哮をするも、無駄であった。
「はぁ・・・はぁ・・・あのドラゴン・・・
急に追って来なくなったけどどうしたのかしら?」
疲労で視野が狭くなり口呼吸になっていたイリアは一瞬だけ何があったのかと呆けたが、すぐに状況を理解した。
「はぁ・・・はぁ・・・そ、そっか!目が見えないから嗅覚頼りに私を追ってたんだわ!このマンゴーの香りのおかげで鼻が効かなくなったのね!タ・・・じゃなくてブリズ!ナイスよ!」
「あ、危なかったね・・・。お姉ちゃん大丈夫?」
「はぁ・・・はぁ・・・。
ふぅー。これくらいいつものことじゃない。もう大丈夫よ。」
イリアの怪我は相当なもので、一般人であれば即戦意を喪失するレベルのものであったが、イリアたちは日々グレンからこれ以上にボコボコにされる地獄の特訓を受けており、勇者としてどんな怪我を負おうとも戦う勇気と戦意を失うことがないよう徹底的に鍛えられている。また、身体が怪我に慣れているため、魔法なしでも回復は早い。既に出血は止まっていた。
イリアは周囲から太い枝を拾い、バッグから布を取り出すと、折れた左腕に枝を添えて縛り付けて素早く応急処置をする。元々医者になるつもりだったイリアは魔法を使わなくてもこの程度の処置はお手の物だった。
「ふぅ・・・無事で良かったよ。
でもこれって結局任務失敗ってことにならないかな?あのドラゴン、完全にボクらを見失っちゃったよ。どうしよう?」
「確かにそうね。でもここまで誘導できただけでも御の字じゃないかしら。この絶好の機会にちょっと休憩しながらこの後の作戦を立てましょう」
タズとイリアが束の間の休息を得て息を整えながら今後の作戦を相談し始めたところだった。
「ダセェェェェエエエエエ!
アノオトコヲダセエエエエエ!!! 」
「お、お姉ちゃん、あ、あのドラゴンしゃべったよ!!
ドラゴンってグレン様の話だと喋れないんじゃなかったっけ?」
竜族は強大な力を有しているがその代償としてか知能が他の魔族よりも低く、しかも声帯がほとんど発達していないため会話はできないと言われている。
魔族の中でも魔物とあまり区別がつかない種族だ。
だが、それでも魔族であって魔物ではない以上、きちんと知能はあるため実は簡単な会話は可能なのであるが、それを知る者はシドル王都にはいなかった。
「ちょっとブリズ、あんなのしゃべってると言うよりただ叫んでるだけじゃない!
とても「こんにちわ」とか会話できそうな雰囲気じゃないわよ!」
ダークドラゴンは先ほどから
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
と大きな雄叫びを上げ続けている。
「あはは、それもそうだね・・・」
「でもあの男って誰のことかしら?
もしかしてあのドラゴン、その人のことを追って来たの?」
「さっきからあのドラゴンお姉ちゃんのことばかり追って来てるよ?
もしかしてその人お姉ちゃんの知り合い?グレン様とか?」
「そんなわけないわ!グレン様はこんな争いの種になるようなこと絶対しないもの!
それに私の知り合いとかの香りで追ってくるなら毎日一緒なブリズだって狙われてもおかしくないじゃない。私と全く同じ香りだなんてそれこそ本当の家族くらいしか・・・」
そこまで考えたイリアは嫌な予感がした。
イリアはゴールド家の末娘。同じ香りの家族は他にもいる。しかし、イリアの家族はイリアを産んですぐに亡くなってしまったという母親以外、皆、王都の外で暮らしており、イリアは今、祖父のアスターと教会で暮らしている状況である。
ドラゴンの恨みを買うイリアの家族・・・特に冒険に出かけると言って王都を出てったきり全然帰って来てくれないイリアの兄辺りが非常に怪しい。
(ドラゴンと戦って傷を負わせられるだなんて、まさかお兄ちゃんだなんてことはないよね・・・。まさかよね・・・)
そんなときであった。
「ったく、目を潰せば追って来れないと思ったら鼻を頼りにここまで追って来るとは。しかもせっかくマンゴー林に隠れたってのにここまで追ってくるとは本当にしつこい奴だ・・・。
ついでに鼻も潰しておくか」
森の奥から大きな槍を担いだ謎の男が現れた。
「俺が見つからないからってこんな小さい子供まで襲うなんてな。さすがにこれ以上は無視できないか」
謎の男は危険を顧みずにダークドラゴンの正面に立った。すると、ダークドラゴンは今までよりもさらに大声で雄叫びを上げた。
「グォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!
サガシタゾオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「ハッ。どうだ?鬼ごっこは楽しかったか?」
「コロォォォオオオオオオオオオオス!!」
「フン・・・その体たらくでやれるもんならやってみな。」
ダークドラゴンは目にも止まらぬ速さで一回転してドラゴンテイルを繰り出したが、謎の男はそれよりも早く大きくジャンプして木を駆け上がり、そのまま天高く舞い上がって回避した。
「喰らえ!
ゴールド流槍術奥義
雷神一閃突き!!」
謎の男は、上空で槍を構えると、まるで雷のように一気に落下しながら狙い澄ました渾身の突きを放った。
グォォォォオオオオオオオオオオオ!!!!!
その男が放った超速の突きは堅い鱗すらも突き破ってダークドラゴンの鼻に突き刺さった。
急所に会心の一撃を受けたダークドラゴンはたまらず仰け反って吠える。
「す、すごい・・・」
タズはあまりにも強烈な一撃を目の当たりにして感嘆していると、
「お前たち、今の内だ。逃げるぞ!」
「えっ!?ちょ、ちょっと」「うわっ!」
その男は槍を回収してタズたちの下までやってくると、イリアとタズをまるで米袋のように両手に抱えて持ち、森の奥へと疾走した。
・・・・・・・・・・・・・・・・
タズたちはマンゴー林の樹海を抜けた先の森で降ろされた。
「あ、ありがと・・・」
「ありがとうございますっ!お兄ちゃん凄いね!あの硬いドラゴンにあんな凄い一撃入れられるなんて!」
イリアが気難しい顔で感謝を述べたのに対して、タズの方はその男が見せた技に大興奮であった。
小さな身体のタズには魔法なしの物理攻撃であの威力の一撃を繰り出すことはできない。それを目の前の青年はやってのけたということで純粋にあこがれを抱いていた。
「お前たち、危なかったな。こんな危険な森に子どもだけのパーティーで入るのは冒険者の先輩としてはちょっとどうかと思うぞ。俺がいなかったらどうなってたことか・・・。
大体な、――――」
その男はタズたちに冒険者とは何たるかという説教をはじめた。先ほどマヤからも同じような話を聞いたばかりであったため、耳にタコができるような話であったため、タズはチラッと隣のイリアを見ると、イリアはぽかーんとして心ここにあらずといった様子だ。
その男はどこかで見た顔と耳をしていた。どこかでというより、タズにとっては毎日といった方が良いかもしれない。
金髪のハーフエルフの長身の男性。全体的な雰囲気はグレンに良く似ていて、優しそうだけれども正義感に溢れた凛々しい顔立ち。けれどもグレンというよりはもっと身近な誰かに良く似た顔と香りがした。
「す、すみません。次は気を付けます。
あの・・・お兄さんのお名前は?エルフ族で濃い金の髪・・・なんだかどこかで見たような・・・。
それにさっき、ゴールド流って言わなかった?」
「ああ、俺は・・・」
「この人はランスロット・ゴールドよ。
ゴールド家の長男のくせに家も手伝わずに好き勝手やるために王都から出てったとんでもないドラ息子だって、私の友達のイリアちゃんから聞いたことあるわ」
その男が答えるよりも先にイリアが答えていた。
「ゴールド家の長男って・・・
エ、エーーーーーー!!!?」
イリアの発言にタズは大声をあげて驚いた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
おかげさまで100話まで来れました!更新のタイミングは相変わらずランダムとなりそうですががんはりますのでよろしくお願いします!
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