プロローグ
惑星アルスでは、今でこそ平和そのものといった様子であるが、これまで幾度となく魔界から侵略に来た魔族たちとの間で魔力の源である魔素を奪い合う戦いが続いていた。
勇者が幾度となく魔王を倒してきたが、すぐに新しい魔王が誕生し、戦いは激しさを増すばかりであったのである。
今から120年前、魔王を統べる大魔王までも現れ、アルス史上最大の混沌期を迎えたが、これを打ち破ったのが100年前に現れた3人の勇者である。
剣術に秀でた剣王、格闘に秀でた拳王、そして、勇者たちのリーダーであり、知性に秀で、大魔法を扱うことのできる賢王の3人は、魔界にて最後は賢王と大魔王との一騎打ちとなり、大激戦の果てに、賢王がマナバーンと呼ばれる究極魔法を放って、大魔王を消し飛ばすとともに、魔力の源であるマナをも消し去った。
マナバーンにより魔法が使えなくなった魔族たちは、魔界と地上を行き来できなくなり、争いの種であるマナがなくなったことから、積極的に地上の人間の命を奪う必要がなくなった。
すると、やがて、魔族たちの中には地上の人々と共存する者まで現れるなどして永く平和な日々が続くようになって間もなく100年目を迎える。
そんな惑星アルスの南半球に位置するオストルン大陸の中央からやや南東にかけて存在する深い森の中、少し開けたところにひっそりとエルフたちが暮らす村があった。
マナバーン以降、世界から魔法が消滅したにもかかわらず、なぜかこの村では、少年タズ以外の全員が魔法を使うことができていた。
一方、村で唯一魔法が使えない少年タズは、天才的な魔法の使い手である姉イリスによって魔法以外の点で英才教育を受けて大事に育てられていた。
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「タズ、今日からいよいよ祭りの準備をするよ。今日は森から神木になる木の幹とか太い枝を持ってきておくれ。無理に今日全部持ってこなくて良いからゆっくり採ってくるんだよ」
「はーい!わかった!」
「危ないからお姉ちゃんと一緒にいくんだよ」
「うん!わかってるよ。お姉ちゃん探してくるね」
「気を付けて行ってくるんだよ。二人とも無理しないでね。」
「はーい!」
「(タズは本当にいい子に育ったねえ・・・。イリスのおかげだね。一時はどうなるかと思ったけどイリスがいればタズは安心ね。)」
タズの母親アルンは家の外へ出ていくタズを見送りながらそう思った。
「お姉ちゃんどこだろ・・・。そろそろメルのところかな」
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「メル、意識を指先に集中させて水を強くイメージしてね。一緒に・・・」
「「シャワー」」
ジャーーーーー ジョボーーーーー
メルの指先とイリスの両手の先から勢いよく水が出る。ため池にあっという間に水がたまる。
「うん。メル、とっても上手になったわね」
「うん!イリス姉ちゃんのおかげだよ!でもまだまだイリス姉ちゃんには勝てないや。」
「もっと練習すればいつか私よりも上手になるわ」
日が出て間もない早朝、まだ薄暗い村の隅っこにあるメルの家の庭先でメルはイリスと魔法の練習をしながら家で使う水をためておく小さなため池へと水を補給していた。
タズは大きな水音が聞こえたメルの家の近くまでやって来た。
「お姉ちゃーん!いるー?」
「あら、タズかしら。もう起きてきたのね。
いるわよー!」
それを聞いたタズがメルの家の庭先まで来ると、珍しく薄暗い時間に早起きしてきた同い年の幼馴染に対してメルは不思議そうな顔をしながら話しかけた。
「タズ!来たのね。今日はずいぶん早いじゃない」
「姉ちゃん、メル。おはよう!今日は珍しくなんだか目が冴えちゃって・・・」
「へー。昨日何かあったの?」
「いや、特に何もなかったけど・・・なんでだろうね?」
「もしかしてタズも魔法使えるようになったとか?」
「えっ!そうなのかな!?お姉ちゃん、ボクも魔法使えるようになったのかな?」
メルの意外な指摘にタズは驚いてそう答えたが、
「残念だけど魔法を使うには魔素がないと・・・マナが0のタズはいきなり魔法を使えるようにはなったりしないわ」
「やっぱりそうだよね・・・」
イリスは少し悲しげな顔をしながらタズに答えた。
タズはこの村で唯一魔法が使えないエルフだ。
「ボクも魔法でお姉ちゃんみたいにみんなの役に立てるようになりたかったなぁ・・・」
少ししょんぼりして下向くタズにイリスは優しく頭を撫でた。
「気にしなくて大丈夫よ。世の中から魔法が無くなってから100年経って、魔法が使える方が珍しいし、タズには魔法がなくても力だって体力だってみんなよりあるわ。重いものを持ち運んでくれるだけで十分みんなの役に立ってるもの。
それに魔法はタズの代わりにお姉ちゃんが2人分使ってあげるからね!」
イリスはタズの頭をポンポンするとタズは嬉しそうにはにかんだ
「うん!ありがとうお姉ちゃん!今日もお手伝いがんばる!」




