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#8「ハマタン」

 ―― 翌日



「よし、店だ」

「はいっ! 異世界初のお出かけ、楽しみですわ」


「遊びじゃないんだぞー」

「そうでしたわ。マサト様、申し訳ありません」


「よしよし、ファルフナーズが何かしでかさないか、それだけが心配だからな」


 玄関のドアを開けてもらい、いざヒキニートが買い物へ。

 もはやヒキではないな。

 俺も成長したもんだ。


「マサト様! 鉄の牛、ゴルゴンの群れが!」

「ありゃ車だ。馬の代わりに燃料で走る馬車の次世代機」


「あ、あれがこの世界の馬車……恐ろしいですわ」

「旧神とかドラゴン見て平然としてるお前がそれを言うか」


 …


「巨大な塔が目白押しですわ。この都市は防衛要塞なのですか?」

「ただのマンションだな。土地が狭いから昔の長屋は縦にも伸びるようになったのさ」


「この塔が大邸宅マンションですか! まさしく荘園ですわ」

「和製英語化した言葉は誤解が生じるな……集合住宅だよ」


 …


「マサト様、このモルタルの柱と黒いロープは」

「電柱と電線だな。電気という動力の配備網だ」


「まあ、では私でもあれに触れれば電気の力でパワーが……」

「死ぬだけだな。人間の体は強力な電気を受け止められん」


「で、でもあの鳥達は平気ですわ」

「触っても大丈夫なようにカバーしてあるから黒いんだよ」


「ほっ、鳥達が電気の力で巨大なロック鳥に変身してしまうのかと……」

「んなアホな」


 …


「あちーな。何か飲むか。ファルフナーズはどれがいい?」

「この赤い箱から飲料が買えるのですか? では、このレモンの絵がある可愛いのを」


「ガス入りだけど大丈夫か?」

「ガスとは何でございましょう?」


「炭酸。シュワシュワする奴」

「まあ、エールなどの発泡酒ですわね」


「アルコールは入ってないけどなー ほれ。そこのベンチに座って休もう」

「ありがとうございます。まあ! こんなに冷えているなんて」


 なぜか自販機に深々と頭を下げてお礼を言ってる。


「自販機に中の人なんて居ないぞ」


 …


 ファルフナーズにとって、こっちの世界は驚きに満ちているみたいだ。

 今のところ騒ぎになるような事は起こしてない。

 と、言うか注目すら浴びていない。


 おかしい。

 

 ピンクの髪のお姫様が街中を歩いていても呼び止められないなんて。

 これは俺の家族同様、それが当たり前というようにバグらされているのだろうか。


「マサト様、人が増えてきましたわ」

「駅前だからなー ちょうど電車の時間なんだろうさ」


「駅馬車ですか?」

「似たようなもんだー 電気で動く連結駅馬車って所だなー」


「マンションの塔も増えてきて、これならドラゴンの群れが襲ってきても耐えられそうですわ」

「ゴジラ一匹で壊滅するのがお約束だがなー」



「お、あそこだ。『クボタ・スポーツ用品店』」

「あっ マサト様、その透明扉は私が」


「ええっ、自動ドアも駄目なのか!?」


 だが遅かった。


 フィーン


 くぱぁ


 シャキーン! うおぉォん!


「うわあ!」

「い、急いでお閉めあそばせ!」


 …


「危ねー! なんだ今の全身刃の塊。ロボットか!?」

「ザ・ブレイド、妖刀が集まったクリーチャーですわ」


「くそー、改めて己の身に降りかかった災難を思い知らされたぜ。気を抜けば死ぬ」

「重ね重ね申し訳ございません」


 いや、まあ、その分セクハラしてるし。

 死んでも復活できるし文句を言えた義理でもないのだが。



 店内に入ると剥げ散らかした頭のエプロン親父が威勢を飛ばす。


「いらっしゃい! ハマタン装備店へようこそ!」

「ハマ……? ここクボタ・スポーツ用品店じゃないの?」


「今日はどんな装備をお探しでい?」


 装備って……


 いかん

 この親父もバグってるくさいぞ。


「あの……プロテクターの類を」

「よし来た。工房の好みはあるかい? ミズノ? アシックス? ゼット?」


 工房って……まあいいや。


「できるだけ頑丈なのが良いんですが」

「じゃあこれだ、審判用だが肩までガードしてくれるスグレモノだ」


 おお、確かにこれは凄い。

 胸部と肩を覆うプラスティック的なハード素材とジャケット型のメッシュ素材で胴体を覆ってくれる。

 

「よし、これにしよう」

「まいどありっ! すぐに装備していくかい?」


「するか! これで街中練り歩いたら職質されるわ!」

「装備しないと効果は出ないから気をつけて」


 アホか。

 完全にバグってやがる。


「今着ている装備は買い取るかい?」

「全裸にプロテクター一丁なんて即逮捕されるわ!」


 そもそもスポーツ用品店が古着の買い取りをするものか。

 完全に「ぶきとぼうぐのみせ」になっちゃってるなー


「レッグガードとマスクも欲しいんだけど」

「よし来た。でもここら辺には強い敵は出ないよ」


「出て来てたまるか!」

「でもお客さん、レベル低いから用心しなよ?」


 じゃかましい。

 第一俺のレベルが見て分かるのか。


「ねえ、ここはクボタ・スポーツ用品店だよね?」

「ハマタン、砂漠の地に吹く熱砂の風の事だ。海辺に吹く風はシロッコという」


 受け答えが成立してない……

 遠い目をしてロマンがある風に語られても、こっちはそんな事聞いてないんだぜ。



「他に売り買いする品はあるかい?」

「じゃあ……これいくらになる?」


 物は試し、とファルフナーズの肩を掴んでズイッと。


「それを売るなんて とんでもない!」

「ですよねー」


「ま、マサト様っ!」


「冗談冗談。ファルフナーズと離れたらダンジョン・オープナーの能力も消えるかな、なんて」


 ぷりぷりと怒って俺の背中をポコポコと叩く姿が無駄に可愛い。


 …


「また来なよ。生きてたらな! 良い装備を拾ったら売りに来てくれ!」


 ダンジョンにスポーツ用品は落ちてないと思うぞ。

 銃刀法に引っかかっても知らないからな。





 帰りはちょっと贅沢してタクシーを拾った。

 ファルフナーズに車と言う物を体験させたかったから。


「乗りな。どこへでも一瞬で送ってやるぜ」


 中年のおっさんが白い歯をむき出しにして親指を立ててる。


 い、いかん。

 このドライバーもバグってる!?


「イーヤッホーゥ! どけどけ! 轢き殺すぞ!」


 絶叫とクラクションを振りまきながらアクセルを踏む踏む。


 あっ! 今、信号無視しやがった!

 ファルフナーズが悲鳴を上げる!


「降りる! ここでいい! こんなタクシーに乗っていられるか!」

「お客さん、それは死亡フラグですぜ!」


 違うと思う。

 むしろこのまま乗ってるほうが死ねるわ!


 クレイジーなタクシーに金払ってまで乗りたくもない。



「わ、私、二度とこのタクシーという車には乗りたくありませんわ……」


 ファルフナーズが車にトラウマを背負った。

 カーブしたときの加重が決定打。

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