#59「すっかり私のトリコなのですわ」
秋の夜長にお送りする、みんな大好き耳かき回。
どうか耳かき棒を片手にお読みください。
「よし、マサト様こちらへ!」
「なんだなんだ?」
ファルフナーズが正座して自分の膝をポンポンと叩く。
その手には耳かき棒が。
「先日お話した耳かきプリンセスの異名、披露させて頂くのですわ」
「うん、いきなり身の危険を感じるよ?」
「大丈夫なのですわ! ご信頼くださいませ」
「毛根だけでなく、俺の穴という穴全てを駆逐するつもりか!?」
「何か言い方がいやらしいのですわ」
「気のせいだ」
ともかく逃げ出さなければ。
俺の本能が命の危機を告げている。
俺の背中を指でツツーとするのに勤しむ死神少女デスノに合図を送る。
(デスノ、扉を開けて退路を確保してくれ!)
デスノはいつもの無表情のまま頷きを返してきた。
助かる。 持つべきものは物分りの良い死神だ。
シュルシュル……
「誰が服を脱いでと言ったかな!?」
「ワタシに夜伽を命じたのかと」
くっ、この娘は色々手遅れだ!
お姫様が耳かき棒を片手に手招きをしている。
あれはきっと耳かき棒ではなく、拷問道具に違いない。
前門の拷問吏、後門の死神。
「別に取って食べようと言うのではございませんのに」
「お前の国は人を食べるのか!?」
「まさか、うふふっ」と笑うお姫様。
「耳しか食べないのですわ」
「や、やはり……ッ!」
サァーッ!
血の気が引く音。
「冗談なのですわ。ささ、早く」
「なんだ……冗談か。脅かすなよー」
胸を撫で下ろし、促されるままお姫様の太ももへ。
「――はっ!? しまった! 勢いで、つい」
「マサト様もお人が良すぎなのですわ」
王族こわい。
流れるように自分のペースに引き込んでくる。
くっ、ファルフナーズの左手が俺の頭をロックする。
覚悟を決めるしかないのか!
せめて容赦を乞う事しか出来ない俺だった。
「や、優しくして……」
「もちろんなのですわ。先っちょ、先っちょだけですわ」
会話がおかしい。
ああ神よ、俺を救いたまえ。
「マサト、準備と覚悟はできた」
俺の呼びかけに応えたのは死神だった。
しかも下着姿で。
「これが俺の遺言になるかも知れない……デスノ、風邪をひく前に服を着なさい」
「くぴゅんっ」
可愛いクシャミの音と同時に、地獄の耳かき棒が侵略を開始した。
……
…
「こ、こんなの初めて……」
「ふふふっ、マサト様もすっかり私のトリコなのですわ」
「耳が幸せ~」
「ここですか、ここが良いんですか~。えいっ、えいっ」
「あっあっあっ……」
人に耳かきをしてもらうのがこんなに幸福だったとは。
「はーいマサト様、もうちょっと首を前へ傾けてくださいませ~」
「ん~……」
「よ~しよし、コーリコリ、か~りかり」
「はひぃ~」
変な声、出まくり。
脳みそがとろける~
「あっ、動かないでくださいませ~、ちょうど大きいのが」
「ゴロゴロ音が聞こえる~」
「はいっ、できました。お粗末様なのですわ」
「ふー、ありがとう。気持ち良かった」
「うふふっ」
「認めよう。ファルフナーズは一流耳かき姫だと」
「お褒めにあずかり、光栄なのですわ」
「耳かき姫の野望、大志」
すっかり満足して起き上がる。
「あっ、マサト様お待ちくださいませ」
「ん?」
「まだ反対側が残っておりますわ。さあ今度は左耳を」
「おお、スマンな。頼むよ」
頭の向きを逆に、再びお姫様の太ももへゴロン。
下はニーソ越しの太もも、上は耳かき、これぞ極楽。
しかも体の位置を反対側に変えるのではなくて、頭を逆向きにしただけだから……
今度は太ももとスカートの境界が目の前に。
目を凝らせばその奥の白い生地、魅惑の雪原とも言うべき――
「もうっ、マサト様ったら、どこを見ようとされてるのですか! めっ」
「い、いやぁ~、首の座りを最適な位置に」
見え見えのウソで誤魔化したりして。
スカートの裾を直されてしまった。
俺の頭が乗ったままなのに、器用な事だ。
「さあ、参りますよ~」
だが、デスノがここで横槍を入れた。
「待った。姫が両耳ともやるのはズルい。マサトの左耳はワタシのもの」
「今日のマサト様のお世話当番はこの私、ファルフナーズなのですわ」
そんなローテーション組んでたの?
本人、初耳なんですが。
耳かきだけに。
「耳かきはまた別。片方ずつ、今日の左耳はワタシがヤる」
「そ、そんなあ~」
デスノが手をかざすと、俺の体と耳かき棒が引っ張られる。
正座するデスノの太ももの上にすっぽりと俺の頭が納まった。
「私のマサト様の耳が~」
耳限定なのか。
だが、ちょっと年下過ぎる2人とは言え、2人とも超をつけてもまだ不足なくらいの美少女。
その2人に取り合いされるのは悪い気がしない。
ヒキニートだったついこの間に比べれば大出世だ。
……と、ニヤけた思考になっていたのが運の尽き。
ドシュッ!
「!?」
「!?」
キィーン……
「……」
「……」
ツーーン!
「ぎゃあああああああ!」
「マサト、動くと危ない」
「危ないじゃなくて! 既に大事故だ!」
「事後、だなんて……マサトいやらしい」
「血が! 血があああ~!」
「初めては良く出るって聞いた」
何の話だ!
左耳を抑えながら部屋を転げまわった。
……
…
左耳はティッシュを詰めるハメになった。
明日、耳鼻科にでも行くべきか。
「マサト、ごめんなさい」
「つ、次から気をつけような」
無言で頷くデスノ。
常に無表情なデスノがしょんぼり顔になっていると、流石に怒れない。
「鼓膜じゃなくて本当に良かったよ……」
胸を撫で下ろしながらベッドに腰掛けてつぶやいた。
だが、俺の目の前に立ちはだかる金髪の美女。
ソロモンの悪魔ことハゲンティ、通称ハーちゃんだ。
「ならばお次はこのハーちゃんの出番、ですって!」
「ちょ、待っ……」
言葉を失う。
ハーちゃんの右手には不定形な、動く銀色の耳かき棒らしきものが!
「錬金術は水銀が重要な触媒、ですって! それで耳かき棒を練成しました、ですって!」
「落ち着くんだ、ハーちゃん。水銀は確か人体に有害で……」
「ハーちゃんの異名もフルメタル・耳かきスト、だったんですって!」
「わけがわからないよ!」
後ずさりしてハーちゃんから逃れようとする。
背中に柔らかい感触がぶち当たる。
振り返るとそこには銀髪幼女の女神スクルドが!
しまった! 囲まれた!
「ならば先にワシの番なのじゃー」
その右手にはブリキと木で出来た、からくり仕掛けの謎の物体。
尖った先端はスプーン状になっている――
キュイイイイイン!
「耳かき棒が出して良い音じゃねえ!」
「ワシの権能で作り出した、時計仕掛けの耳かき棒なのじゃ!」
どうみてもただのドリルです。
「さあマー君、観念するのじゃー」
「ああああーーーーーッ!」
……
…
世界に静寂が訪れた。
正確には、俺から見た世界は無音になった。
難聴系主人公(物理)
ファルフナーズが何か言っている……
「え? 何だって?」
申し訳なさそうに頭を下げる3柱の女神。
結果、ギフトとして特性【悪魔の聴力】を授けられた。
地獄耳になった。
「別に、死に戻りすれば回復するだろうから、いらなかったのに」
「わ、悪ノリし過ぎたお詫びなのじゃ……許して欲しいのじゃ」
ファルフナーズが胸を撫で下ろしながら言う。
「マサト様の広いお心に感謝するのですわ。スクルド様方は私がキツく叱っておきますので」
3柱の女神が震え上がる。
叱られゴッド。
調べたら耳かき回、なんて言葉は存在しなかった。




