表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/71

#5「おおきく振りかぶって」

「よし、じゃあ【炎の矢】を使おう」

「はいっ! マサト様」


「作戦は基本通り、またリセット・マラソン戦法でゴブリン1匹の所を探す」

「はい」


「そこで俺がゴブリンと取っ組み合いになるだろうから、後ろから炎の矢を使ってくれ」

「了解しましたわ」


 ファルフナーズが鼻息も荒くフンスと勇ましいポーズを……いや、駄目だ可愛いだけだ。

 やっぱりお姫様に荒事は似合わないな。

 口元に笑みを浮かべ眉を釣り上げるその表情は、控え目に言ってもドヤ顔。


 廊下に出て、居間、トイレ、風呂、玄関とローテーションで開けて行く事にした。

 同じ所を開け続けると高レベルモンスターに遭遇しやすいみたいだから。


「いくぞ!」

「精一杯、頑張りますわっ!」



 幾度かドアを開けた所でゴブリンを発見した!


「よし、ゴブリンだ。結構遠いのにこっちに気付いたぞ!」


 俺は金属バットを握ってダンジョンの中に踊りこむ。


「っしゃあ! オラァ! かかってこいや!」


 おおきく振りかぶって


 ……!


 …!


 ぶおんっ!


 まさかの空振りストライク!


 ゴブリンがジャンプで俺のフルスイングを避けやがった!

 いかん、バランスが!


 ゴブリンがプギョーと叫んで俺に棍棒を振り下ろす。

 その一撃は俺が振りぬけた金属バットに運良く当たって威力が削がれた。


 とは言え、脇腹に痛撃だ!

 吐きそう。

 こらえろ!


「ファルフナーズ今だ!」


 ゴブリンが俺にトドメを刺そうと再びジャンプ攻撃。

 小柄なくせに凄い跳躍だ。

 だが、その高さが命取りだぜ!


 勝ちはもらった!


「ええと……天に召します我らが主のお恵みによって……今日も日々の糧を得る事を……」

「ながーーい! 長いよ!」


 しかもそれ食事の前のお祈りじゃないのか!?


 矢でしょ! 炎の矢!

 糧とか違うだろ!  


「と、とにかく【炎の矢】!」

「『とにかく』って言った! 今『とにかく』って!」


 省略できるのかよ!

 最初からやってよ!


 その瞬間、俺は見た。


 ファルフナーズの綺麗なピンクの髪が舞い上がるのを。

 そして彼女の前に炎が生まれたかと思うと、瞬く間に光が通路一杯に広がった。


 それはあまりに高温のため白く光る炎の矢じりだった。


「えっ、ちょまっ、大き過ぎない、それ!?」

「マサト様! お避けくださいー!」


「いやいや、無理だから。通路一杯だから――」



 それが俺の今回の遺言になった。



 ………


 ……


 …


「えぐっ、ぐすん、ひっく、マサト様ぁ……」

「うん、おはよう。やっぱりベッド上ですな」


「……」

「……」


「な」

「……な?」


「なんであんなに大きいんだよ!」

「ひいっ!」


「大きい事は良い事だ、って良くねえよ! 程があるだろ!」

「ごめんなさい。ごめんなさいですわ」


「矢じりだけで俺の身長分あったわ!」

「申し訳ございませんっ!」


 ここまで怒鳴って、ようやく落ち着きを取り戻せた。


「よもや友軍誤爆フレンドリーファイヤーで死ぬとは……」

「本当に何と謝れば良いのか。言葉もございません」


「まあ俺も悪かった。勝手に普通サイズの矢だと思い込んでたからな」

「先に試し撃ちをするべきでしたわ」


「いやー、一日一回の大技だからな。それも納得の威力だったわけだが」

「恐ろしい炎でした」


 俺からしたら光が広がっただけで、痛みとか熱とか感じる間もなく燃やされたんだけどな。

 しきりに俺を棍棒で殴打するゴブリンの顔しか覚えとらんわ。


「頼もしいような。頼もしすぎて使うたびに俺が死ぬような……」

「困ってしまいますね」


 あっ、他人事みたいに言いやがって。


「ともかく、炎の矢ならゴブリンは楽勝で倒せたんだよな?」

「はい。マサト様もろとも骨まで灰に」


 ……最高に灰って奴だ。

 駄洒落か。



『ぎゅーん ぱぱらぱっぱ、っぱっぱー! ぱぱらぱっぱすぽぽーん てれーん!』



「やかましい。今は音楽を聴きたい気分じゃないぞ」

「あの、私じゃありませんわ。むしろマサト様自身から音が……」


「ほあっ?」


 体をはたはたと叩いて確かめる。

 俺スマホなんて身に付けてたっけ?


 いや、机の上に置いてあるな。

 そもそもヒキニートだからスマホを身に着けて持ち歩くクセが着いてない。


 あっ! ひょっとして!


 良い予感を抱いてウキウキしてきた。


「よし、ファルフナーズ。俺のステータス画面を読み上げてくれ」

「はい、かしこまりましたわ」


 ファルフナーズが右から中央へと虚空を移動させるパントマイム。

 ひょっとして消せないのか、それ。


「はて……特に変わりは無いようです」

「あっれーぇ? 絶対にレベルアップだと思ったのに」


「あっ、失礼致しましたわ! 変化が見受けられました」

「おお! どこだ!? どこが変わった!?」


「ここです、技量点が上がっております」

「ほっほーう、レベルアップとは別に技量点が上がる事があるのか」


「こう変わりましたわ。 技量点1+2(良い金属バット):小学生高学年並み」


 ……

 

 …



「強くなったの金属バットかよ! 俺じゃないのかよ!」

「ひいっ! ごめんなさいー!」


「金属バット何もしてないじゃん!? 俺と一緒に焼かれただけのクセに!」

「た、確かに、ですわ……」


 くっそー、このダンジョンとシステムを設計した奴は2発殴る。

 決めたからな!



 強くはなったはずなのに、素直に喜べない!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ