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#36「ゲームで勝負だ!」

「よし、階層ボスの顔をおがんでやるぜ」

「マサト様となら、どんな敵でも怖くありませんわ」


 しまった。

 まだ乙女モードのままだ、このお姫様。


 押し開けた扉の中を慎重に警戒しながら踏み込む。


 とてつもなく広いホール状態になっているボス部屋だ。

 天井もとても高い。


「だが、モンスターが見えない。また罠か?」

『いや、主よ。扉の前に何か居るようである』


 あ、本当だ。

 もうぼやけて見えないくらい遠くだが、反対側に何か居る。


「よし、行こう。こちらが近づくまでは何もしてこないみたいだ」

「マサト様、どうかご慎重に」


「オーケー、ファルフナーズ今のうちに【魔法の盾】を。金属バットさん、燃えておいてくれ」

「了解しましたわ」

『応である』


 ゆっくりと近づき、その物体を見定める。


 どうやら……大きなテーブルと、何か車輪のようなものが3つ。

 その3つの車輪に人らしき紫の全身を覆う服……ローブって言うんだっけ?


 3人のローブを着た人物は女性、どうやら老婆だ。

 車輪に白い綿みたいなものをくくりつけてハンドルで回している。


「あれは糸車ですわ」 

「糸車? へー、あれが」


 老婆達の脇には白い綿がたくさん置いてあり、テーブルの上には確かに棒に巻きつけられた糸の束が置いてある。

 巨大な横長のテーブルを挟んで老婆達の向かい側に到達した。


「お前達がこの階層のボスか」

「ヒッヒッヒ……良く来たの……ダンジョン・オープナーや」


 3人のうち右側の老婆が肩を震わせるように笑いながら応答した。

 あれ、ちょっと懐かしい感じの声がする。

 引き篭もり生活が長かったせいかな。


「こっちはいつでも良いぜ。婆さんを叩きのめすのは気が引けるが、モンスターとあっちゃあ仕方ない」

「ワシらをモンスターとな……無礼な坊やじゃて」


「むう、調子狂うな。いかに俺でも、婆さんを金属バットで殴るのは無理ゲー過ぎる」

『ネットに流されたら炎上逮捕必死の絵面である』


「ヒッヒッヒ、元引き篭もりは気が小さいのう」

「あ、やっぱ殴れるわ。ちょっと燃やしてやるか」

「マ、マサト様……流石にそれはどうかと」


「なあ婆さん、俺達の事を知ってるなら戦うか通すかにしてくれないか」

「シシシ……若いモンはせっかちじゃのう。」


 真ん中の老婆が小刻みに震えながら応える。


「良いじゃろう。シシシ……勝負してやろうじゃあないかえ。じゃが……」

「だが……何だ? 条件付きか?」


 代わって左の老婆がよれよれの白髪を掻き分け、目だけを覗かせて問いかけてくる。


「どの勝負がお望みじゃ? 殺し合いか? ゲームか?」

「ほほー、選ばせてくれるのか。流石に婆さんを殴るのもアレ過ぎるし、ここはゲームで勝負だ!」


 途端に3人は後ろから光を発し、体が宙に浮き始める。

 な、何だ!?


「よかろう! ワシらは未来を司るノルニル3姉妹! ダンジョン・オープナーの未来は今、紡がれた!」

「うわっ! まぶしっ!」


 それまでの枯れたボソボソの声とは打って変わって、若い女性のようなきびきびした大きな声だった。


「賢明な判断じゃったの、ダンジョン・オープナー! これでもワシらは神に連なる巨人族、戦いを選んでおったら……」

「うっそー……」


 3老婆が目の前で巨大化していく。

 どうりでこの部屋が異様に広いわけだ!


 巨大化しきった老婆の靴だけでも俺より大きい。

 こんなのと、しかも3人と戦ってたら即死だったな……


 老婆はそれぞれの声で笑いながら、再び普通の人の大きさに戻っていった。


「ワシは運命により未来を紡ぐ者、ウルズじゃ」

「ワシは変化により未来を紡ぐ者、ヴェルザンディ」

「そしてワシが希望により未来を紡ぐ者、スクルドなのじゃ」


「マサト様! 今、分かりました。この老婆、いえ御方達は御神そのものですわ!」

「まっじでー!?」


 おいおい

 危うく神に肉弾戦を挑む所だったのかよ。

 いくら不死身とは言え、どこかの哲学者じゃあるまいし、そんなの無理無理。

 あー良かった。


「で、何でそのゴッド様達が俺と勝負するってんだ」

「マサト様に頼ってはおりますが、あくまでこれは私の姫巫女としての試練なのです」


「ははー、つまり巫女適正の試験官みたいなモンか」

「その通りですわ」


 ファルフナーズがひざまずいて、ノルニル3姉妹とやらに敬意を示した。

 何となく俺も同じポーズをとっておく。


「よい。ワシらはアストラルに映る影、姫巫女の世界に縁のある神でもないからの。そうかしこまる必要も無かろう」


 ファルフナーズが礼を言って、ゆっくり立ち上がる。

 えーと……じゃあ俺も立ち上がっておこう。


「そう言えば、モンスターには見えなかったファルフナーズの姿が見えてるのか。こりゃ確かにモンスターとは違う」

「はい。アストラルの影とは言え、御神にお目にかかれるとは、姫巫女としてこの上無い喜びなのですわ」


「へー……まあ俺には関係無いから良いけど、じゃあゲーム勝負はファルフナーズがやんの?」

「構わぬと言ったものの、無礼な坊やじゃの。むしろおぬしの世界にはそれなりに縁があると言うのに」


 へーへー、左様でございましたか。

 金運アップしてくれたら拝んでやるから頼むよ。


(とっくに上がっておるじゃろ。稼げないのは運よりおぬしの所業のせいじゃて)


「こ、こいつ。心の中に直接……!?」

「マサト様、御神の前に隠し事は無意味ですわ。どうかつつしみを」


「こえー……プライバシーも何もありゃしない」

「普段はこんな事やらんがの。坊やの肝をちょいと冷やしてやろうかと思っただけじゃ。ヒッヒッヒ」


 絶対零度まで冷えました。

 まじゴッドすげえ。

 超リスペクトっすよ。

 女運アップお願いします。


「それも上がってるじゃろうに……先ほど実感したばかりじゃろ」

「そうでした。すんません、ってか心読むのマジやめてください」 


 ちくしょー、こうなったらさっさと終わらせるしかない。

 ゲーム勝負とやらはファルフナーズに任せて良いみたいだし、先に帰ってようかな。


「いや、勝負するのはおぬしじゃ。姫巫女が選んだ使いの者じゃからの」


 俺がやるのかー……

 使いの者って何だよ。

 ファルフナーズが俺のメイドだろー?


「それで、何で勝負すんの……するのですか?」

「そうじゃな、シンプルにおぬしの世界にあるカードで勝負するかの。シシシ……」


 3老女神は椅子に座りローブのフードを脱いだ。


 !?


 そんな……まさか


「これ、このトランプで勝――」

「スクネ婆ちゃん!!」


 喜びの余り俺はテーブルの上から婆ちゃんに飛びつく!


「な、なんじゃ!? 突然老婆に抱きつくでない!」

「婆ちゃん! スクネ婆ちゃんだ! 会いたかった!」


「こりゃ! 人違いじゃ! 離せ、苦しいぞえ!」

「いいや、どう見てもスクネ婆ちゃんだ! 7年前に死んだ山形のスクネ婆ちゃんだ!」


 嬉しい!

 亡くなる時に見送れなかった。

 ずっと心に引っかかってた!


「何度も仏壇に語りかけたのに、ちっとも会いに来てくれなくて! でも仕方無いよな! こんな所で神様やってたんじゃあ忙しいよね!」

「ち、違うと言うておろうに……」


「そんなにマサト様の御祖母様に似ておられるのでしょうか……?」

『似てるどころでは無いな。瓜二つである。何せこの我も御祖母殿に買って頂いた身故。そのご尊顔、忘れようも無い』


「ええい! やめよ、やめよ! こりゃたまらんのじゃ!」


 ドムンッ!


「うわっ、スクネ婆ちゃんが爆発した!? 婆ちゃん大丈夫!?」


 手ではたはたと仰いで煙を晴らす。

 見回すと他の2人の老婆も煙に包まれていた。


 煙が晴れて、そこに居たのはスクネ婆ちゃんでは無かった……


「ふう、これで分かったじゃろ。ワシはスクルド。おぬしの祖母では無いのじゃ」

「ば、婆ちゃんが……子供に戻った!?」


「戻ったのでは無いわい。ワシらに肉体的年齢は無意味なのじゃ。老婆の姿は単なる役作りじゃ」

「婆ちゃん、俺はやっぱりあの婆ちゃんの姿が一番好きだよ。割烹着の姿が最高だよ」


「マサト様、余程御祖母様を慕われておられたのですね」

『うむ。主は御婆ちゃん子だったのである。休日のたびに父上殿に帰省をせがむほどであった』


 それから小一時間かけて、ノルニル3姉妹は俺のスクネ婆ちゃんとは関係無いと説得された。

 3人とも子供の姿になってしまって……嘆かわしい。


「くっそー、紛らわしい顔するなよな。違うなら違うって最初に言えよ」

「ずっと言ってたじゃろうが! 何と手のかかる坊やじゃ」


「まあでも考えてみれば納得だぜ。俺のスクネ婆ちゃんはもっと凄い超神になってるはずだからな!」

「無礼も極まる奴じゃな……」


「申し訳ございません、スクルド様。マサト様は御祖母様の事を思えばこそなのですわ」

「まあ良い。人前ではずっと老婆の役で通してたから、この体は少し違和感があるがの」


「何だよー 人違いだとしても、せめて婆ちゃんの姿になっててくれよー」

「お断りじゃ。またおぬしに抱きつかれたらたまらんからの」


「いいじゃんかよー 抱きつくくらい。久しぶりに膝枕してくれよー」

「久しぶりも何も無いのじゃ。初対面じゃ、初対面」


 ちっ、神様のクセにサービス精神てもんがありゃしない。

 何だあのちまっこい子供の姿は。

 もっと癒しと慈愛に満ちた婆ちゃんの姿をしてれば良いのに。


「もう良い。ともかくカードで勝負じゃ」

「あー、やる気出ねーなー……スクネ婆ちゃんに会いたいなあー」


「なんだか私も祖母に会って甘えたくなって参りましたわ」

「だろー? やっぱ人間、爺ちゃん婆ちゃんが大好きなんだよ」


「ちっとも話が進まんのじゃ……」

『主に代わってお詫び申す。許されよ、スクネ……いや、スクルド様』


「ともかくダンジョン・オープナー! カードで勝負じゃ!」

「若返ったやつはせっかちでダメだな。仕方無い、勝負するかあ」


「ようやくなのじゃ……これほど疲れる人間は初めてじゃ」

「あ、でも勝負中は昔みたいにちゃんと『マー君』って呼んでくれよな」



「早くも負けを認めたくなってきたのじゃ……」

「スクルド様! ファイトっ! なのですわ!」



 応援するほう間違ってない?

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