最悪な寝起き
火花荘の大家である草口達也の朝は早い……というか何かしらの音で強制的に目が冷めるのが常であり、今日の音は爆発音であった。
「連続で音がしないってことは、まだ安全圏か」
今までの経験上から爆発音一回は、まだ大丈夫だと予測する。
とはいっても必ずしも、そうという訳ではないので用心の為にも畳の床に無造作に置いてある悪趣味な絵柄の盾を手に取る。
殆どの魔法を遮断する魔王の盾とかいう名前の代物である。
「うわ、焦くせぇ」
脳内の危険度が一つ上がる。
ほんの一息でも空気を吸ったら肺の中が一瞬で爛れる毒素が充満している可能性がある。
一月前はそれで危うく死にかけたのだ。
部屋に戻って原付ヘルメットの横にあるドクロを象った兜を頭に被る。
これで毒素の方は安心である。
「……一応、鎧も着けておくか」
何が起きるか分からない為に黒と赤を基調とした中々にごつい鎧を体に着ける。
見た目の割に軽くて丈夫なのが売りである。
「よしっ」
気合を入れて部屋を出て、廊下を歩く。
中世ヨーロッパのような城の廊下を歩き続ける、その間にも三回爆発音が聞こえたのがまた恐ろしい。
(危険度がみるみる上がっていくな)
盾をしっかりと握りしめ原因だと思われる部屋に続く階段を登りきると、メイド服に身を包んだ女性が廊下に立っている。
褐色肌に銀髪が生える中々に美人である。
「おはようございます、達也様」
「おはようさん、サラ」
知った顔であるので軽く挨拶をして横を通ろうとするとサラは横に移動して道を塞ぐ。
「ん?」
反対側を通ろうとすると同じように移動して通せんぼする。
また、反対側に行くと同じようなことが起きる。
その場で反復横とびを始めると向こうもその速さで左右に移動しはじめる。
しばらくの間、その場で横とび続けてみると先にこちらが息切れを起こし、呼吸を整える為にしゃがむ。
一方で向こうは涼しい顔で髪も乱れてはおらず、犬に似たふわふわした尻尾が左右に揺れ楽しんでいるのが分かる。
「……通して欲しいんだが」
「達也様を通すなとご命令されたので」
「誰に?」
「メサリア様です」
「そのメサリア様は何をやっているんだ?」
「秘密です」
顔の表情を変えず淡々と告げる。
「どうしても通さないのか?」
「はい、ご命令ですから」
「ジャーキーやるから通してくれ」
「……」
頭に生えている犬耳がぴくっと動くのを見逃さない。
「……ちなみに、一本じゃない三本だ。どうする?」
「いくら達也様のお願いでも、流石にジャーキー三本で命令を破る訳にはいきませんので」
「それは、残念だ」
来た道を戻る振りをしながら続ける。
「コンビニで買えるとはいえ、高いやつなんだがな」
そう言い終えた、その瞬間に一陣の風と共に目の前にサラが立っていた。
「かしこまりました、どうぞ付いてきて下さい」




