討伐依頼を受けちゃいけません!
よろしくお願いします!
酒瓶を無事に回収して、ティルミちゃんをベッドに寝かしつけたあと、私は冒険者ギルドに向かった。
いやぁ、ティルミちゃんが、なかなか酒瓶を離してくれなかったから大変だったよ。
でも、無事に取り上げてやった。
ぐっすり眠るティルミちゃんは、少し泣いているようにも見えた。
一人……いや、ブラックウルフたちがいるけど、きっと寂しいんだろうね。
ブラックウルフたちがしっかり守ってくれると思うから、ティルミちゃんに危険が及ぶ心配をしなくて済むよ。
だから、心配しなくても、一人で外に出られるわけ。
いつも通り、ぼっちで冒険者ギルドに向かうのであった!
わたしがなぜ、律儀に冒険者ギルドで仕事をしているかというと、遊ぶための資金集め。
派手に奪ってもいいんだけど、それだと犯罪者になっちゃうしね。
犯罪者になったら、わたしがこの世界を楽しめない。
ルールはしっかり守りましょうってね。
『ベルゼ様って、本当に悪魔ですか?』
いや、私は悪魔だからね。
ただ、虐殺とか、酷い事をするのに飽きてしまった、心優しい悪魔だからね!
『いや、虐殺とかに飽きたって言っている時点で、心は優しくないんじゃ……』
ぐはぁ、ベルフェに正論言われた気がする。
『ふふ、ベルゼ様がかわゆす。
もっと楽しくお喋りしましょうよ!
もっと私を構ってちょ』
あ、冒険者ギルドに辿りついた。
だから、もう黙ろうね、ベルフェ。
『うう、いつも通りのお約束、ありがとうございます……ぐすん』
これで、ベルフェが黙るでしょう。
冒険者ギルドで、ラピスお姉ちゃんやミランダお姉ちゃんと話している時に、ベルフェが喋りだすと、邪魔なんだよね。
話があっちこっちでされて、よくわからなくなる。
『ベルゼ様が、私をそんな風に思っていたなんて……』
はいはい、ベルフェは無視無視っと。
冒険者ギルドの中に入って見ると、ラピスお姉ちゃんが食事をしていた。
なんか、お肉っぽいものを、パンと野菜で挟んだ食べ物を食べている。
うん、とっても美味しそう!
「ラピスお姉ちゃん、おはよう!」
「あ、ベルゼちゃん、おはよ~」
「あれ、この前一緒にいた、ほかの冒険者は?」
「ちょっと聞いてよ。みんなひどいのよ!」
「どうしたの?」
「私の冒険者ランクってDなんだけどね。
ほかのみんながCランクになっちゃったのよ」
「うんうん、それで、それで」
「それでね、私は捨てられちゃったのよ……」
ん? 捨てられた?
一体どういう……ああ、なるほど。
王都の冒険者ギルドは、Cランク以上か学校卒業並びに在学生のみしか依頼を受けられない。
その分、質と報酬がいいんだね、きっと。
で、ラピスお姉ちゃんだけが、ここに取り残されて、ほかのみんなは王都に行ったと。
哀れだな~ラピスお姉ちゃん。
「私も、もう少しでCランクになれるのに。
みんなひどいよ」
「ねぇ、ラピスお姉ちゃん。
大人の定義って知ってる?」
「私の話……ちゃんと聞いてた?」
「うん、聞いてたよ。でも関係ないよ。
捨てた奴らなんて忘れてしまえばいいの!
そんな酷い人より、Cランクになって、もっといい仲間を見つけて、見返してやるほうが楽しいの!」
「そうね。そうよね。私、頑張ってみるよ。
んで、大人の定義だっけ。それはね、年齢と仕事よ」
あ、やっぱり年齢は関係してくるんだ。
でも、仕事をすれば大人の仲間入り。
ん、よくわからない。
「年齢は二十歳以上になったら大人だね。
だけど、仕事をしていない人たちは、おっきな子どもって世間一般的に言われているの。
だって、仕事をしていない人を大人と認めるわけにはいかないでしょ。
で、子どもでも仕事はできるのよ。
仕事をしている子供のことを、大人子どもって言うのよ」
「そんなものなのかな?
でも、お酒とかは、二十歳以上だよね?」
「ん、違うわよ。
大人になったら飲めるの。
つまり、仕事をしていれば、大人の仲間入り。
仕事をなくすと子どもに逆戻り」
「ややこしいよ……
よくわからない。一体どうしてこんなルールになっちゃったのかな」
「ああ、それはね。神様のお告げだよ。
この世界を作った神様が提示したルールにしたがっているのよ」
あ、神様が馬鹿だったのがダメだったよ。
しかもこの世界を作ったとか、嘘言っちゃってるし。
いや、わたしがダメにした世界を、ここまで修復させたんだから、作ったと言っても過言ではないかも。
「なんか、謎が深まったような気がするの。
でも、ありがとう。ラピスお姉ちゃん。
私も、お仕事してくるね!」
「はい、いってらっしゃい。
怪我だけには気をつけるのよ」
「は~い」
私は、ラピスお姉ちゃんに手を振ったあと、受付に向かった。
いつも通り、常時依頼の魔物討伐をやろうとしたんだけど……
「ベルゼちゃん。あなたはこの依頼を受けちゃいけません!」
いきなり、ミランダお姉ちゃんに怒られた。
なして?
私は、依頼通りに魔物を討伐しただけだよ。
まぁ、討伐しているのは、わたしが作ったウルフゾンビなんだけどね。
悪いことしていないのに、怒られる。
世の中理不尽で溢れているよ……
「あ、理不尽に怒られているって顔している。
でもね、ベルゼちゃんが狩りすぎるのがいけないのよ」
「え、どういうこと?」
「ベルゼちゃんが、生・態・性を壊すレベルで狩りをしているからいけないのよ。
しかも、他の冒険者が魔物不足で仕事を失くす。
みんなが迷惑しているの」
「あう、普通に狩っていただけなのに、こんなことになるなんて……」
「まぁ、ベルゼちゃんが異常な狩り方をしているのが原因だけど、とりあえず討伐依頼は受けちゃダメ。わかった」
「うん、わかったの……」
仕方ない、常時依頼じゃない、討伐依頼を受けよう……
「常時じゃない討伐依頼が……ないだと!」
「当たり前じゃない。ベルゼちゃんが狩りすぎるんだから。
ほれ、ベルゼちゃんはこの依頼を受けなさい」
ミランダお姉ちゃんが渡してきたのは、常時採取依頼の用紙だった。
用紙を渡してきたミランダお姉ちゃん、ニッコニッコニーって感じだった。
あれ、私が震えている。こ、これが恐怖か!
「わ、わかったの。常時採取の依頼を受けるの。だから、だから笑顔で睨むのもうやめて!」
そう、ミランダお姉ちゃんの顔は笑顔だけど、目が笑っていなかったのだ。
ドスの効いた睨みは、悪魔の私でさえ震え上がらせる何かがある。
やべ、ちょっとちびりそうだった。
ミランダお姉ちゃんは怒らせないようにしよう。
「じゃ、じゃあ、いってきま~す。ミランダおねえちゃん」
「はい、いってらっしゃい。怪我だけはしないようにね~」
ミランダお姉ちゃんのせいで震えてしまった体にムチを打ち、私は笑顔という名の仮面をかぶって、必死に冒険者ギルドを後にするのだった。
『ベルゼ様、大丈夫ですか?』
うん、全然大丈夫じゃない。
今日のミランダお姉ちゃん、マジで怖かった。
いや、マジで怖いんだよ。ミランダお姉ちゃん。
ああ、なんだろう。ベルフェに心配されるんなんて、私、もうすぐ消滅するんじゃないのかな。
ああ、外に出たっていうのに、止まらない震え。
ガクブル……
絶対に、絶対にミランダお姉ちゃんを怒らせるようなことはしないぞ。
私は、そう心にいかったが、果たしていつまで覚えていられるのか。
次回に続く!
『一体誰に言っているんですかぁ』
はて、誰に言っているんだろう。けど、言わなきゃいけない気がしたの。
なんでだろう、なんでだろう。不思議だな~
読んでいただきありがとうございます!
次回もよろしくお願いします!