8.マルタの賢王
8.マルタの賢王
おれとリリーは透明化を使いながら、リーナを先頭にマルタの門をくぐった。
結界はあったが、リリーを抱っこしたままならスル―できたから問題なかった。
「ここがマルタよ。わたしの雇い主はあの館にいるわ。」
「ではこのまま向かうのか?リリーは昼寝しているが、今回の用には関係ないから問題ないだろう。」
「間者が堂々と会いに行くわけないでしょ。宿の部屋のカギ穴に割符をさすと、夜に向こうから転移を使える魔術師が迎えに来るのよ」
「転移を使える術者は貴重だと聞いたが?」
「わたしの知る限り、転移を使えるのはこの町の彼だけよ。高位の属性魔法だというのは彼から聞いたの。真偽は分からないわ」
「結局、元素魔法を極めたが転移魔法は習得できなかった。本当に上位の属性魔法に転移が存在するのか、おれは疑問だ」
「あなた、意外と魔法マニア?」
「かもしれない、魔法というよりも、分からない事を分からないままにしておきたくないだけだが」
「そう。宿はあそこよ」
「なるほど、3重に結界がはってあるし、建物には崩壊の罠が仕掛けてあるな。あとは、読めない魔力の文字がけっこうある。おれは外で待っていたほうがよさそうだ」
「そうなの?知らなかったわ」
「全面的に信頼されているわけではないのだな」
「そりゃ、間者ですもの」
リーナと宿の前で別れ、おれは宿の読めない魔法文字?らしきものを眺めることにした。
日が暮れる頃、おれは宿の魔法文字をあらかた読みつくしていた。
スキルとして得る前でも、少しずつ慣れて、ある程度読めるのだ。
「謎は、全て解けた!」
おれの持つすべての隠密系能力を発動させながらなので、おれの魂の叫びを聞き届ける者はいない。
宿の魔法文字は、転移魔法の仕掛けでした。
この転移魔法は、あらかじめ転移先と転移元に魔法陣(宿程度の大型住宅サイズ)を用意しておかなければならず、発動も方角によって発動できる時間が限られている(東への転移は午後3時前後15分しか出来ない等)というイメージよりも遥かに使い勝手の悪いものだった。
「拍子抜けだな。」
カキンっ!
[解読に慣れました。スキル「解読」を得ました。
「解読」は「解析」に統合されました。
知覚系スキルが統合されました。スキル「神知」を得ました。]
「神知」、複数の知覚能力と一定以上の解析技能で発生すると言われる。
周囲の全てを神の如く見通すと言われるが、得たと言われる者は例外なく精神を苛み死んだとされる。
たぶん、人間だと知ってしまう情報が多すぎて、脳がつぶれてしまうんだろうな。
なんというデストラップなんだろう。
カキンっ!
[情報過多に慣れました。「高次元思考」を得ました。
「神知」が「高次元思考」に統合されました。
条件を満たしましたので、神級スキル「全知」を得ました。]
「高次元思考」は時間よりも高い次元まで存在次元を上げることで得ることができる。
4次元的な量や時間に制約されず思考が行える。最高位神の必須技能。
「全知」は全てを知ることではなく、知ることができるようになること。
知らなくて済むことを知らないものは全知とは言えない。
うむ、哲学だな。
たぶん、解析がパワーアップしたと思っておくのがいちばん平和だろう。
唯一うれしいのは、カキンっ!をスル―できるようになったことだね。
いや、けっこうこれうるさいのよねー。
全知で全てを知ってしまったら、おれがおれではいられない事を知ってしまった今、この力は視界の中の物に限定して使うとしよう。
まぁ、それでも十分強すぎるけどね。情報に関して負けること無いからな―。
そうこうしているうちに、リーナに迎えが来たようだ。
壁越しに見る感じ、白髪にめっちゃ長いひげ生やした、どう見ても仙人みたいな爺さんだ。
あっ、透視はけっこう初期からありましたよ。リーナの鎧の中は胸がきつそうでした。
使った転移を全知で見てみたが、やはりさっきのしょぼい魔法陣による転移だった。
まぁ、転移先の次元より高次元で思考できないと、転移先を計算できないから、その代用で魔法陣使ってるって時点でニュートンやアインシュタイン顔負けの大天才であることは間違いないけど。
でも、おれは自在に転移使えるけどね!
知らない場所には行けないけど……
爺さんとリーナが転移したから、おれも追いかける。
どうやったかって?
爺さんの転移魔法を逆算しただけだよ。
全知さんマジイケメンです。
転移先は雇い主の屋敷の地下、出入り口のない部屋だった。
つまり、転移がなければ入れない部屋ってことだ。
リーナはキツ目の金髪美女に教会に潜入してからのことを報告していた。
おれやリリーのことを聞いても金髪美女は眉一つ動かさなかった。
「リーナよ、長い間お疲れ様でした。教会の不正は掴めなかったのだな?」
「しかし!教会の非人道的な行いは明らかにできるはずです!これで教会に対して圧力をかけることは出来ないのですか!?」
「リーナ、非人道的なことは間違いないが、その程度のことは国主導の研究部門でも行っている。言い逃れの手段もいくらでもあろう。」
「ですが!」
「おまえは教会をなめすぎだ。おまえが辺境に送られたのは、間者であることが疑われていたからだ。集落におまえの言う魔王が現れた時、逃げた者の中におまえを監視している者がおった。その者はフーリン老により処理されたが、教会はすでにあの集落を滅ぼしている。」
「集落がすでに……」
「信じられないかもしれんが、フーリン老の報告だ。」
「わたしが、疑われたから……、あの集落は滅ぼされたのでしょうか……?」
リーナはすっかり落ち込んでいしまったようだ。
「リーナ嬢、あなたのせいではありません。もともとあの集落は滅ぶよう決まっていたのです。あなたを監視していた者を尋問しました。」
「教会は何のために、あの集落を滅ぼしたのでしょう?」
「過去の証拠隠滅と新魔術のテストのためだったようです。あなたの報告にもあったように、あの集落の墓地は教会によって殺されて者たちの集積場でした。そこを勇者を用いた新魔法の試験場として過去の罪もろとも吹き飛ばしたのです。今あの場所には深さ100mほどのクレーターがあるだけですよ。」
「そんな魔法が……、教会の手にあるというのですか?」
「はい、今回のことで我々国王派は完全に崩壊しました。武力面で圧倒的力を見せつけられ、政治的立場を失ったのです。近日中に王は崩御され、傀儡の王が立つでしょう。」
「リーナよ、我々はすでに負けたのだ。わたしはまだ、あきらめるわけにはいかん。しかし、おまえまで巻き込みたくは無い。おまえを好いているという骨は、すでにフーリン老でも捕捉できない。おまえを守ってくれるだろう。な?自由に生きてくれ。」
「あのものは確かに、わけがわからないほど強いし、話してみると意外とやさしいし、回復の時あったかくて頼りになりますが、しかし……!」
食い下がるリーナに金髪美女はいう。
「リーナよ、多分だがあの骨はここにきていると思うぞ?」
「え?」
「リーナ嬢もまんざらではないようですな。なかなか男性とお付き合いしませんので、興味がないのかと心配しておりましたが、趣味が特殊だっただけのようですな」
フーリン老がちゃかす。
ここらで出ていかざるを得ないのかね。
あと、多分だが、あの金髪美女の「な?」はおれに言ってんだろう。
「リーナのことはお任せください。必ず守ります。」
姿を現したおれに少しだけ、驚いた顔をした金髪美女とフーリン老。
速攻で鑑定飛ばしてきやがった、この二人!
偽装してスキルを「世紀末覇者」「勇者王」にしといてやったぜ!
フーリン老、めっちゃ目見開いとるーwww!
金髪美女は気絶したな……。
あれ? なんかおかしい。
自分に全知っと。
個体名:ワイト
種族:究極完全生命体 年齢:無
性別:無(元男)
体重:不定 身長:不定
スキル:「何事にも慣れることに慣れた」「全知」「高次元思考」「究極完全体」「万能創造」
状態:「魔力制御OFF」「ステータス偽装」「世紀末覇者オーラON」「勇者王オーラON」
個体情報:ギリギリ生命体で踏みとどまっている何かよくわからない者。
高次元世界に転移してスキル統合すれば新たな創造神兼破壊神が誕生する。
なってもいいのよ?by創造神&破壊神
元男ってなんか誤解を生みそうな表記何とかなりませんかね。
ああ、ステータス偽装で作った(笑)設定が現実のものとなってしまっていたんだね。
それに魔力駄々漏れで耐性ない金髪美女が失神して自分で作った水たまりに墜落してしまった。
いやはや、失敬失敬。
スキルがけっこう統一されてすっきりしたね。
以上、ステータス確認終わり!
「リーナ、共に来てくれないだろうか。わたしは、初めて会ったときから、君のことを好きになってしまったようだ」
「ワイト……、行っていいのだろうか?世話になった祖国も、雇い主たちも捨てて……。私は……」
「君ははじめから自由だ。共に来てほしい」
リーナは黙ってうなずいてくれた。
意外とチョロインだったのか……。
さて、勢いで告白っぽいことしてしまったが、どこに連れていこう?
とりあえず、上空に転移して雲の上で話すか。
こうして、ステータスからのメッセージをスル―して、リーナとリリーを連れて旅立った。
ここからが、ようやくおれ達の旅の始まりなんだろう。
ちなみに、マルハの賢王ってのは、フーリン老の宮廷魔術師時代のあだなだったらしい。
王国であだなに賢王ってのはいろんな意味でヤバそうだけどね。