6.魔王の生贄
6.魔王の生贄
わたしはリーナ。
今日で、この辺境を去るはずだった教会の神官戦士(間者)だ。
昼に見たスケルトンがなぜか深夜に集落に現れた。
確かに、ただのスケルトンだったはずなのに……、今は明らかに高位の悪魔を従え、遠征で見た大神をはるかにしのぐオーラを背負っている。
これでは神話に出てくる魔王そのものもではないか……。
どうして最後の日にこんな物に出会わなければいけないのか―――いかん、涙でそう。
「止まれ!何者だ、なんも目的でここにやってきた!」
魔王が悪魔と何かしゃべっている。
意味のわからない言葉だ。伝説にある魔人語か?
考えていると、悪魔がこちらの言葉で話しだした。
「我が名はワイト。魔法でこの姿にするために来た。敵意はない。」
衝撃が走る。よくわからんがこれでは宣戦布告ではないか!
あまりの威圧感に半数が離脱してしまった。
あっ、あいつはいつも言いよってきた貴族の三男!
わたしのためなら死ねるのではなかったのか!?
「ふざけるな!ワイトとやら!そんなことさせるものか!」
精一杯、虚勢を張って叫ぶ。
あっ、少し漏れた。涙出てきた……。
そんな私を見ながら、やつらは楽しそうに話している。
最初から私たちなど、何の障害にもならないと確信しているのだろう。
あれだけのオーラを背負う存在にわたしの聖剣は果たして効くのだろうか?
恐怖で漏れそうなのを必死に我慢しながら、そんなことを考えていると悪魔が私を指さして話し始めた。
「ワイトはおまえを求めている」
周囲に先ほどの比ではない衝撃が走る。私には電撃が走った。
全身鎧の友、常着簡易トイレよ、ありがとう。
周囲からの視線が戦友を見る目から、生贄を見る目に変わった。
ああ、分かっているとも、私が犠牲になってこの存在を集落から遠ざければいいんだろう?
わかっているさ。クソが!
こんなことでわたしの人生は終わってしますのか……。
「いいだろう。ただし、今すぐここから離れ、王都へ向かえ!さすれば私はおまえの物となろう!」
せめてもの意趣返しで、戦線離脱したやつらをこいつに追わせてやる!
魔王は拍子抜けするほど素直に王都へ向かうことを承諾した。
悪魔が私に告げる。
「案内を頼む。長い旅になるだろう」
ああ、我が人生ここについえるのか……
人は絶望の中でも笑えるらしい。泣いてもいるけど。
「せいぜいよろしく頼む」
最後の意地で吐き捨てたセリフは彼らを笑わせただけだった。
こうして、私は魔王の生贄として王都への旅が始まった。
リリー「ちゃんとほんやくできたよー!ほめてほめてー!」
ワイト「いいこいいこー。たかいたかーい」
言葉の壁は厚く高い。