4.おれ氏、仏となる。
4.おれ氏、仏となる。
「ナンマンダーナンマンダーみんな成仏しろー大成仏ダー」
おれは適当に念仏を唱える。
墓所は光の柱となり、無残な実験で死んでしまった彼らは天に帰った。
カキンっ!
[「魂術」の熟練度が溜まりました。「魂術」はスキル「仏法の真理」に進化しました。]
情けは人のためならず。
彼らを救ったことが、おれに新たな力を与えてくれたようだ。
「仏法の真理」はブッタも助走をつけて殴るような仕打ちを受けた人々を救ったものが得るとされる神級スキル。「魂術」への完全耐性に加え、自己の魂を法の外側へと離脱させる「解脱」を得る。これさえあれば、ラグナロクで世界の法則が乱れても安心!
上位のスキルや能力ほど、説明がはっちゃけて行くのはどういうことなんだろうか?
ありがたく読ませてもらっているけど、どうせ読む人いないとか思って適当になったんだろうか?
まぁ、とりあえず不利益は無かったようだ。
「ほねのお兄ちゃん、ようじはおわったの?」
誰もいないはずの墓地で女の子の声がする。
成仏の光が収まった。さっきまでは確かにいなかったが、小さな女の子がそこに立っていた。真黒な長髪に赤く輝く丸い瞳、半透明の身体で10cmほど宙に浮いている。
ちなみに全裸。
「ああ、終わったよ。ところで君はどこから現れたんだい?」
「最初からいたよ。お兄ちゃんに取りついてたんだけど、さっきはがされちゃったの……。
リリーのこときらいになった?」
「嫌いになってないよ。取りついているのは気が付かなかったけれど、はがされたのは新しいスキルを得たからだと思うよ」
「リリーのこときらいじゃないなら、いっしょにいてもいい?」
幼女と一緒は歓迎すべきことだが、明らかに普通じゃない。
とりあえず、ありとあらゆるスキルと技能でようすをみよう。
氏名:リリー・カースワード(呪言の悪魔)
種族:邪神 年齢:?才(精神年齢:6才)
身長:120cm 体重:0.1kg
魔力:8不可思議
スキル:「呪言」「憑依」「透明化」「物理完全無効」「暗黒魔法」「魂術」
個体情報:検体8号だった少女。進化の秘法を探るための検体だった。
あらゆる呪いと邪法を施されるも死亡。その後、墓所の呪詛を糧に邪神となった。
5年前に墓所に落ちてきた魔力値の膨大な骨に取りついてお昼寝するのが最近のマイブーム。
邪神様でした。
なるほど、5年も取りつかれていたとは……。
まぁ、5年も取りつかれてて何ともなかったんだから、とくに問題ないか?
「いっしょにいてもいいよ。おれは和絃っていうんだ。よろしくな」
「ワイト?変な名前だね。モンスターみたい!
リリーはね、リリーだよ!」
そのまま日が暮れるまでリリーはしゃべり続けた。
6歳児が5年も話し相手がいなかったんだからそうなるのも仕方なかったんだろう。
話をするというのは重要なことだ。
リリーの話から、スキルの鑑定では分からない事がたくさんわかった。
リリーが死んだのは推定8年前。教会は少なくとも毎週20名程度の検体を使用している。
毎週20体ほどの検体にされた人の遺体がここに葬られるそうだ。
おれの番号が3000番台のため逆算すると概ね3年になるからな。
つまり、今の検体は6000は確実に超えているってことだ。教会の連中は何がしたいのやら。
リリーは母親とセットで拉致されて検体にされたようだ。
邪神になっても精神が狂っていないのは母の愛って奴だったのかもしれないな。
日が暮れたころ、おれは何ともなかったが、リリーは腹が減ることが分かった。
リリーの食事は魂か魔力だそうだ。
おれに取りついていた5年はどちらも食べ放題だったらしい。
ありがとう「瞬間回復」さん、あなたがいなければおれは幼女に食べられて死んでしまったことでしょう……。
ちなみに、リリーにむしゃむしゃされて魂を食いつくされると、さっき成仏させた怨霊になるらしい。
「仏法の真理」を得てから、リリーが憑依出来なくなったらしいので、どうやって食べさせようかと思案していると。
「取りつかなくてもさわればたべれるよー」
とのことなのでおんぶして、食事させながら移動することにした。
おれに睡眠いらない事は分かってたし、リリーは透明になれるから、見た目は歩く骨だけだからね。
今考えると、夜に集落に向かったことは思慮が浅かったとしか言えない。
しかし、ユーレイ(邪神)といえども小さい女の子と野宿(寝ないけど)というのは、日本人だったおれにはかなりの抵抗があったということを言い訳としてここに残しておく。