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まさかの自転車

 第三回勇者召喚式。そう書かれた弾幕が広間の中央の柱に張り付いていた。皺一つない弾幕が、なぜかすごくかっこよく見えた。

 

 俺の名前は竜崎勇大(りゅうざきゆうだい)。昨日死んだ。

 あれは確か、就職面接帰りだった。大学4年生になりたての俺は、人一倍就職に憧れていた。社会の為に身を粉にして働き、苦労した分だけ給料を得る。その達成感を、子供の時から味わってみたいとばかり思っていた。言ってしまえば、職業なんてなんでもいい。俺は働いて、金を得る…その気持ちよさを味わえれば幸せなのだ。

 昨日はとある中小企業の就職面接に行ってきた。結果は…まだわからないが、たぶんダメだろう。花粉症のせいもあって、くしゃみを連発していた俺は、数回目の鼻水を面接官の顔面にぶっかけてしまった。いやあ、あの時は焦った。同時に花粉を恨んだが、文字通り目に見えない花粉に対する怒りなど、鼻水をかけられた面接官の怒りに比べたらチンケなもので…。

 俺は面接官に帰れと言われ、渋々帰ってきた。まあ別に、あの会社でどうしても働きたかったわけじゃないから、そんなに落ち込んでもいない。まだ時間もあるし、じっくりと自分に合った職業を探してみよう。どんな職業でも良いとはいえ、自分に合った職業であることに越したことはない。


 だが俺の夢は、一瞬にして砕け散った。俺は面接の帰り道、自転車に轢かれて死んだ。自動車ではない。自転車だ。このショボさが分かるか?車に轢かれて死ぬとか、火事に巻き込まれて死ぬとか、通り魔に刺されて死ぬとか、そんなんじゃない。俺は自転車に轢かれて死んだ。

 すぐに病院に連れていけば助かったらしい。しかし、俺を轢いた犯人は自転車を置いて逃走。結局、俺が別の誰かに発見されたのはそれから1時間も後だったらしく、救急隊が駆け付けた時には既に絶望的な状態だったらしい。


 未練タラタラだった俺の元に、一筋の光が舞い降りた。その光は確かに言った。


『未練はあるか?』


 俺は答えたかったが、声は出なかった。


『言わずともわかる。お前には、働くことへの興味がある。働くことで快感を得ようとしている。それが、私にはわかるのだ』

 

 快感…というと、変な性癖のように聞こえるからちょっと嫌だが、間違ってはいない。働き、金を得ること。それが俺の野望。


『お前を、生き返らせることが出来る』

 

 おいおい嘘だろ?


『嘘ではない。先日死んだと報道された桜島昭信。奴も私の力で生き返らせた』


 桜島昭信…当時の内閣総理大臣だ。確かどこかの国への移動中の飛行機の中で、ハイジャック犯に拳銃で撃たれて死んだ。即死だったらしい。


『奴もまた未練を残し死んだ。私は、お前や桜島昭信のような未練を残して死んだ者の魂に語り掛け、生き返らせることを”仕事”としている』


 仕事…ね。給料でも出んのか?


『無論、元の世界に生き返らせることはできない。お前が生き返り、第二の人生を歩む世界は、また別の世界だ』


 異世界って奴かな。


『そこでお前には、”勇者”として働いてもらうことになる』


 勇者?おいおい、俺は選ばれしものか?まあ、こんな綺麗な光の塊が言っているんだ。それに俺は死んだ身。今更疑おうとは思わない。にわかに信じがたいのは事実だけど。


『お前に拒否権はない』


 その言葉の直後、その光はさらに強い光を発し、やがて俺の視界いっぱいに広がり、俺を包み込んだ。




 

 これが、俺が今この場にいる経緯だ。

 ここは見知らぬ大広間。金色の装飾が美しく、城の中の大広間のようなものを連想させる。中央の柱には、”第三回勇者召喚式”と書かれた弾幕。柱の後ろには、柱を中心に左右対称に置かれた荘厳な階段。階段はさらに上の階へと続いていた。


 何より驚いたのは、今この場にいるのが俺だけではないということだ。俺以外にも、大勢の人がいる。数える気にもならないが、ざっと見で200人以上はいそうだ。


「未練タラタラだ~って叫んでたら、気付いた時にはここにいたんだよ!」

「私昨日、マフィアに手を出したの!そしたら銃で撃たれて――――――」

「なんだよここ!」


 各々が好き勝手喋っている。予想だが、ここに顔見知りは一人もいないだろう。おそらく今喋っている奴らも、お互い知らぬ者同士。しかし、境遇は似ているのかもしれない。未練タラタラ、死んでからここに来た…そんな会話がチラホラ聞こえる。

 これって、俺も今のうちに喋っておいた方が良いのか?


「エブリワン、静粛プリーズ」


 おじいさんの声が響き渡った。見ると、弾幕の張ってある中央の柱の人が立つスペースに、王様っぽい爺さんが立っていた。赤い服に金色の冠。これを王様と呼ばずになんと呼ぼうか。


「ようこそ異世界へ。私はこのアデレス王国の王、ジャドー=アデレス21世じゃ。ナイストゥミートゥー」


 なんだこの爺さん、やけにテンションが高い。

 それにしてもここはやはり異世界。アデレス王国というらしい。そしておそらく、このアデレス21世と、あの光の声の主は別物だ。


「説明は大方ここに来る前にジェスチャーされてきたのぅ?私が説明するのは、エブリワンが勇者になるということへの説明じゃ」


 勇者…勇者か。


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