森を抜けて
グロ注意です。
ロードスの森に差し掛かってから、薄暗い森の中の行軍がつづく。
2頭立ての馬車ならばすれ違いができる簡単な石造りの道が延々とつづく。
時折、獣の鳴き声、木の枝が風の為こすれあうざわめき、路面をふみしめる足音がひびきわたる。
大多数を占める農民兵に与えられる、食事はわずかである。
1日で黒パンが1個とわずかな干し肉と
水源の汚濁も予想以上にひどいために、1日で与えられる水も限られているため、
足取りは決して軽くはない。
中軍の騎乗の貴族だけは血色がいいが・・・
時折、巨木の倒木が行く手を遮り、それの撤去でかなりの時間を割いてしまう。
昼間はまだいい、夜になると頭上から糞尿など汚物をつめた透明な袋が頭上から落ちてきて荷駄をぐっしょりと穢している。
全体的に汚物による異臭がひどいが、
体を清めるための水もないために異臭とそれに引き寄せられる、蠅、ダニ、のみに全軍が苦しめられている。
体中がかゆいため無意識にかきむしってしまいあちこちから血がにじんでいる。
今朝支給された固い黒パンも糞としょうべんのにおいにまみれているため、口に入れた瞬間におぞ気を感じてしまう。
まあ、それも1日2日で慣れてきたのかにおいも感じなくなってきた。
しかし、朝起きるとやはり糞尿がまき散らされている。
いったいどうやっているのだろうか・・・
まわりの者の一部から腹痛、発熱を催すものが頻発してきた。
食あたりと、擦過傷の傷口が化膿してしまったようである。
消毒する水もないために化膿した場所を洗うこともできない・・・。
しかし、歩みをとめることもできないので、重いからだを引きずるようにして前にすすむ。
部隊長である、村長の息子がみんなを励ます。
「アマデウス公爵領の村ならば、たくさんの食糧ときれいな水がある。
ロードスの森を抜ければすぐにある。そこまでがんばろう」
彼も外にさらされている肌はあちこちがただれているが、
持ち前の明るさで俺たちを鼓舞してくれる。
ロードスの森を超えるまでにあとどのくらいかかるのだろうか・・・。
貴族と違いおれたちには天幕などはあたえられていない。
糞尿にまみれた毛布をからだに巻いて夜露をしのぐだけだ。
今日もあちこちでバシャバシャと透明な袋が落下してくる。
不思議だ・・・
野営の前に木の上を調べてなにもないことを確認しているのに。
朝になれば全体が糞尿にまみれている。
躰、荷物にびっしりと虫がへばりついている。
ブンブンブン・・・
羽蟲が耳にさわる・・・。
躰を洗いたい・・・。
街道をすこしでも外れるとあちこちに、
落とし穴があり、
ご丁寧なことに肥溜めのように糞尿がいれてある。
アマデウスの指揮官はどれだけ糞尿が好きなんだろうか・・・。
今日もあちこちで倒木が行く手を遮る。
重い・・・
ふんばるとその瞬間に尻から放屁と共に水のような汚物が漏れてしまうようで、
力がでない・・・
これが、太陽の下の行軍ならば、陽の光で乾いてくれて、多少はしのぐことができるだろうが、
昼間でもうすぐらい森の中、
じめじめと一度濡れたものは乾くことはない。
王都をでてから14日ようやく、
ロードスの森を抜けることができた。
ほとんどの農民兵は劣悪な糧食と下痢のためにがりがりにやせ細ってしまっており、
歩くこともつらそうなものが大半であった。
すでに、彼らは森の中での限界の状態のため、
この先のアマデウス領の村に住む、
おなじ農民から収奪し食料を得て、
ゆるされる略奪だけが心の支えであった。
「男は殺せ!女は犯せ!富を奪え」
極限の行軍のため理性はうすれすでに人間をすてているかのような心理状態である。
先遣部隊がようやくロードスの森をぬけてすぐの村を囲み異常をかんじる。
あまりにも静かなのである。
人だけでなく、牛、馬、鶏・・・生物の気配がないのである。
村の周りの畑はきれいに刈り取られ、
麦わらすらのこされてはいない。
それどころか、なぜか川はひあがり、
ほんのわずかなにごった水だけがちょろちょろと流れているありさまである。
おそるおそる村に入ると案の定村には
人ひとりおらず、
住居は残されているがもぬけのからである。
それだけでない・・・
井戸から水をくみだすとあろうことか、
森の中でさんざん苦しめられてきた糞尿のにおいで飲むこともできない。
ただ、わずかではあるがねずみだけが、
このなにもない村に取り残されていたので、
ネズミ一匹いないという表現はつかわないでいいのだろう・・・。
いや、むしろねずみだけは異常に発生しているように感じる。
なにか、嫌な予感もするのではあるが。
飢えた兵たちはこの大量に発生しているねずみをとって、
飢えをしのごうとやっきになっているが、
いくら大量のねずみとは言ってもすべてにいきわたるほどの数ではないために、
あちこちで奪い合いのいさかいが起きている
あろうことか、その争いにわれわらのような農民兵だけではなく、
われわれよりも体格的にも血色的にも秀でた、
兵士も加わっているのである。
地獄や煉獄というものがあるのならばまさにいまこの村の光景ではないであろうか。
その夜から、ねずみをくらった農民兵や兵士が、
ことごとく高熱とつよい嘔吐と下痢にさいなまれることになった・・・。
最後まで読んでくださいましてありがとうございます。




