夢ではないようです
一瞬の暗転ののち、
白亜の大理石で囲まれた部屋から一転して、
真っ暗な森のなかにいた。
しかし、これはこれですごいチートだな
パーティーメンバー以外を適当な場所にテレポートさせるって
嫌がらせし放題のクソゲーだろ!
レイドの横取りし放題じゃないか。
まあ所詮は夢だから作りこみが適当なのかな?
光源はぼんやりと白く光るノートパソコンしかない漆黒の暗闇だ。
富士演習場での演習をおもわせる暗闇だ。
大事だから2回言ってみた。
ときおりフクロウのような鳴き声が聞こえるので
まったくの静粛でもなく、生物感は感じるのが不思議と安心するが、
ノートパソコンの光に引き寄せられたのか
羽虫が寄ってきたので慌ててノートパソコンの蓋をとじると、
完全の暗闇になる。
まあ寝て起きたら夢から醒めるだろう。
明日も始発で会社に行って終電まで仕事だ。
背のうからオーストラリア製のシュラフをだす。
圧縮収納すれば手のひらにのるサイズの優れものだ。
まー変なところはリアルだがとりあえず寝よう。
・・・・
夢を見る間もなく、木漏れ日の光で目を覚ます。
さて、会社にいく準備をしないと・・・と思いながら、
シュラフからごそごそと這い出す。
シュラフ・・・布団じゃなく・・・シュラフ・・・
周りをみると、ほぼ全周をうっそうとした木で囲まれている。
うん・・・まだ・・・寝ているんだな。
・・・・
そんなわけないか。
これは、リアルに異世界トリップというやつなのだろうか?
まあ、基本2次元世界大好きなので。
耐性はあるのだろうが・・・不思議とパニックに陥らない
しかし、こう、あれだ、こういう時はあるだろう。
お約束というものが。
召喚した神様からチートとかの説明とか、
トリップ先がせめて下級でも貴族の幼児にとか・・・いろいろと。
せめて、特殊能力とか・・・、
召喚主からスタートアップ用品・・・チュートリアルとかさ。
それどころかわけわからんところへ追放される体たらくか、どんなムリゲだよと
あっ災害用の持ち出しリュックが特殊能力なのか・・・
それだとさすがに女兼だな。1週間はもたんぞ。
スマホのアンテナは予想通り0本で現状では使い物になりそうもないので。
電源をオフにし、逆にノートパソコンを起動する。
背嚢から小型のドローンを取り出し、
真上へ飛ばして上空より周囲を確認する。
東西南北はわからないが森の切れる方向を確認する。
森から出ることを優先させるとしてみよう。
大まかな方向を確認してから上下通気性のいいレインウェアに着替えて
予備に入れておいたトレッキングシューズに履き替える。
気休めにサバイバルナイフとアーミーナイフも出しておこう。
まわりからはどこのエベレスト登山にいくのだと笑われた、
総額3ケタ万円の災害用持ち出し袋が大活躍だ。
ビスケットを1枚かじってから少量の水で流し込み出発進行だ。
背嚢にむりやりくくりつけたちゃぶ台のおかげで後ろからみるとむちゃくちゃシュールだろう。まあコタツだと足が折りたためなかったので置き捨てていかなければならなかっただろうから、ラッキーと思うことにした。
さて、森の中をさまよいながらも脱出を試みていると、
3匹ほどの野兎がしげみから出てきたので、
その最後尾の1匹が足を痛めているのか動きがかなり鈍かったので、なんとか捕殺することができた、
首筋をきったウサギを木にぶらさげて血抜きをしている間に枯枝をあつめて火をつける。チャッカマソ最高!
こういう時はジッポとかの方がかっこいいのだろうがやはり楽ではある。
パチ、パチ、パチ・・・
まさかこの歳になってこんなレンジャーまがいなことをさせられるとは思わなかったわ。
レンジャーでウサギの直火焼き食うかしらないけど。
ガサガサガサッ
さっきのウサギよりも大きな音が茂みから立つ。
俺は腰からサバイバルナイフを抜き放ち音の方向に正対すると、
一人の傷だらけの男が、女を背負い藪から身をのりだした瞬間にこちらへ倒れこんできた。
男はうめき声をあげていたが、女はすでに息耐えているかのようにぴくりともうごくことはなかった。
「お・・・おい!」
声をかけるが反応はない。
女は外傷はみうけられないが男の方がかなり深い傷を負っているようだ。
正直言って貴重な水を消費をしたくはないが、目の前に死にそうな人間がいてガン無視できる日本人はやはり少ないだろう
ペットボトルの水で傷を洗い流し、消毒薬をぶっかけてから三角巾で圧迫止血をしてからステリストリップで傷口を簡易縫合する。
女の方もかなり息は細いがまだ息絶えてないようだ。
とにかく血止めをしてから応急処置をする。
「くそっ、異世界トリップするくらいだったら回復魔法くらいつかわせろや!」
悪態をつきながらも、手当をする。
よく見ると二人とも狼のような耳がついておりしかも、腰にはしっぽのようなものがぶら下がっている。
かといって、毛深いかといえば東洋人の俺からみれば白人のように産毛が濃いかなというレベルではある。
男の方はひげ面ではあるが、ひげが薄い俺からしてみればワイルドでうらやましいな・・・ちくしょう
ひとしきり治療をしてから、体の汚れをウェットタオルでふき取りサイズはあわないが新品の下着をきさせて、女をシェラフにおしこみ、男をブランケットでくるんだところで一呼吸つく。
あとは、圧迫した個所を定期的にゆるめて壊死をふせぐくらいしかできん。
専門知識があるわけでもないし、しょせんファストエイドキットレベルあとは本人の運と体力次第だな。
とりあえずうさぎ食うかと焼きかけのウサギを手にとりやわらかそうな箇所をナイフでそぎ落としてから
残った箇所にかぶりつく調味料をつかっていないので、決してうまいものではない。
ホップかせめて炭酸で流し込みたいところではあるが我慢、我慢。
すでにあたりは薄暗くなってきているのでもう1泊は必要かな。
時間的にはまだ夕方にもなっていないのではないかという体感ではあるが、
陽の光のとおりづらい樹海のなかでは暗くなるのが早いだろう。
男の腰にぶらさがっていた皮袋の中身は水のようなので
コッヘルにかけて先ほどそぎ落しておいた肉と塩を入れてたき火にかける。
水筒などではなく皮袋に水を入れるのが俺のいた世界とは異文化だと感じさせる。
逆に水漏れをしない革袋ってなかなか手に入れられないのだが俺達には。
「火を絶やすとまずいから枯葉と枯れ枝をあつめてくるか」
近場から枯枝をあつめてくると、シェラフがごろごろところがっている。
中で暴れているのだろうか
「うーーうーーーだしてーーーーー」
日本語!
まず思ったのがこのことである。異世界語でペラペラやられてボディーランゲージだけのコミュニケーションだと、
さすがにストレスがマッハになりそうなのでこれは助かる。
「こ・・・こら暴れるな!」
かるく怒鳴りながらシュラフのチャックを下すと、
先ほどまで気をうしなっていた女が睨みつけるように俺を見た瞬間に、
耳がぺたんと倒れておびえたような表情にチェンジする。
「・・・に・・・人間・・・」
泥と埃で薄汚れてはいるがほんのり赤みがかかった金髪すこし釣り目の薄茶色の大きな瞳、ぷっくりとした唇のこの世界の美醜はわからないが、
美少女と呼んでいいだろう。
「んっ・・・そうだが、まあ、そっちの連れらしい男共々助けてやったんだから礼くらい言ってもらってもいいとは思うが、
それとも、担がれていたということは浚われていたのか?
それならばさっさと逃げた方がいいぞ」
「え・・・え・・・・ロ・・・ロバート・・・」
女は目を白黒させながら俺が火をつついていた細木でさした方向でブランケットにつつまれた男の方を見る。
痛み止めのロキソニンが聞いているのか、
最初に見つけた時よりはおだやかな呼吸をしているようだ。
腹に物がはいっているかわからないので胃にはけっして優しくはないとは思うが。
シェラフから抜け出して男の方にかけよろうとするのを軽く制止する。
「知り合いのようだな、止血と簡単な応急処置しかしてないからうごかすと傷口が開くぞ」
「あ・・・う・・・うん」
最初より警戒心がとけてきたのか少しだが耳が立ってきている。なんというかわかりやすいな。
「でも、なぜ人間が私たちを助けてくれるの?」
「ああ、すまんがここに来てから、まだ、わずかというか昨日突然この森に投げ出されて、
この国の政治形態とか人権関係はさっぱりわからないんだ。
とりあえず、塩しか味付けはまったくないのでうまくはないが肉くうか?」
「え・・・いいの?」
まあ、腹が減ってはまとまる話もまとまらないだろうしな、
「ほら、毒は入ってないぞ」
コッヘルから直接ひとかけらの肉をとって自分の口にいれて咀嚼する。
うっすら塩味のおかげかさっきの味無しの焼肉よりは食べやすい。
くんくんと鼻をすこしならしたてから、寝ている男の方をチラッとみてから、
手渡したコッヘルの蓋を直接手に取ろうとして顔をしかめる。
「熱!」
「直接持つとさすがに熱いと思うぞ、取手を持て取手を」
すこし顔を赤くしてからうつむき加減でこちらに背を向けて食べはじめた。




