静寂がつらいです・・・
アイリスさんと起居する初期期間の最終日の7日目、
いつもならば、早朝から狩場に出かけてのレベリング作業にいそしむ予定ではあったのだが、
なぜか、眼前には領城がそびえたっている。
大きさ的には熊本城くらいであろうか、
つくりは普通に石造りの西洋風の城である。
この世界に来て見たかぎりでは機械設備等は進んでないと思われるので、
築城にはきっと多くの人力を要したことだろう。
「ミツオさんこちらです」
アイリスさんに先導されるような形で門を通り抜ける。
衛兵としてフルプレートをまとった騎士が左右におり、
かしこまった礼をするが、きっと俺ではなく実力者の娘であるアイリスさんに向かってのものだろう。
公爵領でこの大きさだと王城ならばどれくらいの大きさなんだろう。
呼び出されて頬りだされたのが胡散臭い1室しか知らないので想像もつかない。
まあ、大理石張りの部屋という段階であの部屋も十分ゴージャスではあったが。
ひときわ大きくいかつい構えの石造りのドアをぬけると、
さすがに謁見の間とはいかないが、
公爵夫妻と思われる豪奢ないでたちの一組の男女と、
その後ろにカイゼルひげを蓄えた美中年が待ち構えていた。
まずの一声は美中年からである。
「そなたがミツオか、話はグラードとアイリスから聞いておる、
本日はごくろうであった。」
「はっ」
すまん、アイリスさん聞いてない。マナーも聞いてない。
失礼な言動をして無礼打ちは勘弁よ・・・。
力いっぱい、念を送りながらも片膝を突く形で精いっぱいかしこまる。
背中の背のうがずしっとくる。
さすがに120リットル満載である。
中腰のこの体勢だとかなりきつい。
というより、背のうをしょったまま貴族の面前にっておかしいよな、
途中で誰かインターセプトしてくれよ。
おかしいだろ、おかしいよね、これが常識なのかよ。
違うよね。
内心はグルグルまわっているが、一応神妙な顔をしている。
沈黙が重い。
どうせなら何も言わずに帰らせてくれないものだろうか。
むしろ、突然なぜ呼ばれたと言いたいのだが言えないのは日本人的に間違ってないはず。
「さて、今日突然呼び出したのは、アイリスから話は聞いたが、
そなたはなかなか変わった魔道具をもっているようだの」
斜め後ろに控えるカイゼルひげがそう切り出す。
魔道具・・・この背のうだろうか・・・
これを取り上げられたらきっと俺は死ぬ。
この世界でまだそれほどの生活力を持っているとは到底思えない。
衣食住がこれの中には詰まっている。
これを渡せと言われたらどうやって逃げればいいんだ。
「魔道具ですか?」
「うむ、なにやら自動的に動作する棋譜をもっていると聞いておる。」
「は、はあ」
どうやらパソコンにインストールしてあるALL warのことを言っているようだ。
パソコンをとられるのは業腹ではあるが、
ALL warならばタブレットにインストールしてから渡せば翌日には補充されるはずなので、
構わないだろう。
操作性はノートよりは悪いだろうがまあそれくらいは我慢というか
ノートの操作性を知らなければ苦にはされないだろう。
「はい、実際の地形や、戦力などは簡略化されますので再現性の保証はできませんが、
ご覧になられますか?」
「う・・・うむ、是非それを披露してくれぬか。」
カイゼルひげの斜め前の男性が身を乗り出すように言ってくる。
おそらく偉い人なんだろうがそれほど上から目線ではない。
俺としてはすでに1週間はこの公領のギルドでお世話になっているので、
召喚された王都での皇太子からうけたような超上からの物言いでも文句は言えない気もするのだろうが。
そんなことを考えながら、がさごそと背のうからタブレットとノートパソコンを取り出し、
ALL warのデータをメモリ経由でタブレットに移行する。
ALL warはインストール作業不要のレジストリに優しい使用なので、
データフォルダごとの移動で普通に起動する。
タブレットが情弱乙となかまからけなされた、窓タブレットなので特に簡単な作業でいける。
「準備ができましたが、操作はおそらく私かアイリス嬢でなければまだできないと思われますがいかがいたしましょうか。」
「うむ、ちこう寄れ」
公爵が不思議そうな顔をしてこちらに声をかけてくる。
まあ、こんな板のようなものが棋譜というイメージはなかったのだろう。
アイリスさんを先に行かせて公爵たちの方へ向かう。
「では、多少みづらいかと思われますが後方より画面を見てください。」
ソフトを起動してタップ操作で仮想モードを開く。
夜な夜なアイリスさんと検討しながら作った公領のマップが広がる。
まあ、所詮10インチではあるのでかなり小さい画面ではあるが・・・。
「お・・・おおおお・・・・」
なんか公爵らしい人が感動してるのがわかる。
肩越しから超身を乗り出してきている。
どうせなら、公爵夫人に身を乗り出してきてもらえると俺的には役得なのだが。
「両軍の部隊の規模がわかりませんのでここでは自動的にセットさせていただきます。」
アイリスさんからはおそらく公爵軍は2500程度、王軍は5000程度の規模になるのではないかと言われていたので、
自動振り分けの2500対5000で配置をする。
「今回はこういった自動割り振りの設定をさせていただきましたが、
詳細設定をしますと歩兵部隊、槍部隊、弓舞台、などなど細かい部隊配分等の配置を行うことは可能です。」
「う・・・うむ・・・」
なんか言葉が少なくなっているが気にしないでおこう。
「では自動戦闘モードにて戦闘をおこなわせましょう。」
画面では小さいユニットが移動をはじめ散発的な戦闘を行っている。
兵力差があるために予想通り王軍の方が優勢に戦闘を進めていくのはまあ予想通りであろう。
「い・・・いや・・・わが軍の精強な部隊なら2倍程度ならば・・・」
などと、公爵らしい人がぶつぶつつぶやくが、
いあ、自分の国の錬度を戦力に加味してどれだけの国家が沈んでいったことかと。
王軍WINと画面に表示されて戦闘は終了する。
おそらく字は認識できないだろうが、
グラフィカルなわかりやすい表示なのでこちらの世界の人でも起こった内容自体はわかるだろう。
しーーんと部屋の中が静まり返っている。
声をだしていいのだろうか・・・
俺的にはこのような無礼なものを見せおって成敗してくれるとか、
逆切れされて人刀沙汰にされるのは避けたい。
静寂がつらい・・・お腹痛い・・・・実は脇の下がじゅぶじゅぶに汗をかいているのは内緒だ。
その静寂を破ったのは俺の隣でずっと黙ってみていた俺のおつきの教官様だった。
「ご安心ください、わたしも最初この画面を見たときは愕然としましたが、
必勝の策をミツオ様がすでに用意して出さっています。」
突然『様』づけでドヤ顔をしているアイリスが口火を切った。
年末年始休みが終わって、
正月進行の仕事が始まりました。
締め日とかが通常月と違ってつらいです。
誤字、脱字、言い回し等ご指摘等ございましたらお教えくださるとうれしいです。




