そして世界は暗転した
『勇者は美しい金髪の長髪をなびかせ
光の力をまとい魔の者の王を・・・』
「この先は、古の書の損壊が激しい為
読解することができないが、
そちらのお方が勇者様ということは
この、古の書からも間違いはなかろう、
ならば、貴様は何者だ!」
えっ・・・と・・・
この人たち・・・なに、
わけわからないことを言ってるんだ?
それに、いったいここはどこだ?
俺、浅見光男はごくごく普通の中小零細ブラック企業に勤めている。
前職は某自衛隊で10年ほど在職していたが、
演習にでると1ヶ月程度ネットから切り離される生活のため、
その間、当時はまっていたMMOラインエイジのレベル上げができなくなるので、
勢いでさくっと退職してしまった。
まあいざ退官してから現実に気づいたのだがシャバの勤務時間って、
前職の夕方17時のラッパがなったらご苦労様でした!のような、
平常時は定時勤務当たり前などとは程遠かった。
そんな現実に打ちひしがれている普通に上げ厨のサラリーマンだ。
いつものように終電で自宅に帰宅し、
寝る前に最近始めたネトゲの素材集めのレイドボス戦をやりながら
災害時持ち出し用の背のうに詰め込んであった
そろそろ消費期限がつきそうなチョコレートをつまみに
影虎の名水仕込みをちびちびのんでいた。
俺は甘いものをつまみに普通に酒は飲める。
このゲームは遊びじゃないと言うプレイヤーもいるらしいのだが、
プレイ中の飲酒くらいは許してくれると思いたい。
・・・ところまでは、確かに覚えているんだが
今の俺の前には、6畳一間のはしっこに鎮座していた、
ちゃぶ台とノートパソコンとふたのあいた災害持ち出し用の背のうは小脇にあるのだが、
昭和臭を感じさせる砂壁の一室が、
なんということでしょう推定36畳の純白の大理石でかこまれた部屋にグレードアップしてしまっている。
そして俺の右手1.5m程離れたところには、
きっと俺と同じ顔をしているとおもわれる、
金髪ガン黒鼻耳ピアス(ちらっと舌にもキラッとしたものが見えた)の男が
まわりをキョロキョリしながら呆然と立ち尽くしている。
しかし確かに俺は、ファンタジー系のRPGは好きだが、
こんな中途半端なファンタジーの夢を見るとは・・・、
最近はネトゲへのオンも1日に4時間(睡眠時間は2時間だが)くらいしか出来なかったし、
よっぽど、あれ、だったのかな~とぼんやり考えていると、
「おい!聞いているのか!
お前は、なんなんだ、何故この召還の儀で
勇者様と出てきたんだ!」
俺たちに正対している男たちの中央にいる偉そうなイケメンが、
今にもつかみかかりそうな勢いで俺にどなりつけてくる。
いかにもなブロンドのやや巻き髪で、群青に近い青い色の瞳、日本人的にみれば普通にヨーロッパ系のイケメンだ、
白い詰襟で、肩口に金のモールをしつらえた、
英国王室関連のニュース以外の日常ではなかなか見ない恥ずかしい格好をしている。
「は・・・はぁ・・・」
とはいえこの状態で一方的に矢継ぎ早にまくし立てられても、
突然こんな場所に誘致されたこちらとしては、
まったく答えようがないというのが正直なところだ。
まあ、寝落ち中の夢なんだろうな、
きっと、通勤途中に読んだ異世界トリップ系のネット小説で読んだ印象が残ってしまっており、
夢に出てきちゃったんだろうな、うんそう決めた。
となりの勇者(?)とよばれている男の方をちらっと見ると
俺のほうを流し目でニヨニヨと見下している。
俺だけ責められている構図がうれしいのだろうか、性根の腐ったヤンキーゴリラだ。
俺はちゃぶ台の前であぐらをかいているので、
標高差1メートル強という高い位置から
見下ろされる位置関係には確実になってしまうのだが。
さて、どう言ったものか、
しかしこちらからは何も言いようがないというより、
さっぱり状況が呑み込めない。
だが黙っていると目の前の金モールの偉そうな男は、
どんどんと険しい表情になってきている。
まったく状況がつかめていないが・・・
ここは下手にでても相手が気を使ってくれそうもないと思われたので、
「まあ、ぶっちゃけていいますと、
そちらが、ミス召還をして、
無関係な私を巻き込んだのでは?
正直いいまして、私はあなた方に拉致監禁されたうえに、
勝手に言いがかりをつけられているとしか言いようがないのですが」
多少大人げないとも思ったが、このわけのわからない奴らは上司でもないし、
もちろん取引先であるはずもない。
上から目線で怒鳴りつけられる筋合はもちろんない。
こちとら、きちんと納税、勤労、教育の三大義務はやっているたとえ相手が政治家だろうと選挙で落としてやるという気構えくらいは持っている。
もしヤクザ屋さんだったら目線を外して小さくなるのは当然だ。
「なっ・・・」
金モールの偉そうなイケメン(自己紹介さえされていないので名前もわからん)が、
左隣の灰色のローブ姿の銀髪の男をの方をギロっとにらむ
「ご・・・ごほん」
わざとらしく、こぶしを口元によせて咳払いをしながら、
ローブ姿の男は一瞬・・・二瞬・・・・いや、長考モードにはいったように考え込んでいる。
・・・が、一向にもどってこない。
心なしか、汗をだらだらかいているようにも見えるが・・・戻ってこない。
「おい、ランス!」
おそらく、この部屋にいるなかでは、
もっともこらえ性がなく沸点が低そうな
金モールの偉そうなイケメンが再度、噛み付きそうな顔でどなりつける。
「申し訳ありません、レオンハルト王子・・・
やはり、当初申し上げたとおり、
古の書の欠損がはげしかったためのイレギュラーな自体が起こってしまったのではないかと思われます。」
「なっ・・・!」
レオンハルト王子と呼ばれた金モールの偉そうなイケメンは呻いた。
「ですので、私としては召還の儀はお待ちくださいとご進言したのですが・・・はい・・・」
おおい、じゃあ何か、お前はそんな適当な召還をしておいて
一方的にこっちを怒鳴りつけてたんかい?
「まあ落ち着けレオン、実際には勇者様は召還できたんだから、
むしろランティスはよくあのぼろぼろの書で呼べたとほめてやっても言いと思うぞ。」
俺の右隣の勇者(笑)よりもさらに長身(目測220cm)の割には、
さわやかそうな赤髪イケメンが王子をたしなめた。
どうやら王子がランスと呼んだ男はランティスという名前らしい。
というより、こいつら方向性はまったく違うが、
イケメン揃いだな、
俺様王子様に、豪快だがさわやかな騎士、気弱な魔法使いか・・・
あとは怜悧な眼鏡優等生な宰相の息子と、わけわからない小悪魔双子あたりが出てきたら完璧な布陣だな。
ファンタジーな夢かと思ったら、
悪役令嬢とかも出てきそうな逆ハー乙女ゲーな夢かよと内心毒づいた・・・
てか、こんなやつらが出てくる乙女ゲーなんかやったかなー。
学生時代に腐った妹から押し付けられたのでも思い出したんかなー?
あっこれも通勤中に読んだネット小説が元ネタか・・・安心、安心。
やっぱり夢だったか。
「しかし、アルツ、じゃあこいつはどうすればいいんだ」
こほんと、わざとらしく咳払いをしてから・
「とりあえず、勇者様は別室でおもてなしをして、
その間にそいつの今後の処遇を決めればいいんじゃないかな?」
(こっちはそいつ扱いですか、そうですか・・・)
侍女らしい女性に先導されて
金髪ゴリラは退席した。
そして、俺とえらそうな3人組が残された
こほんと、咳払いをひとつしてからアルツが俺に語りかける。
「さて、正直言いまして、わが国は危急存亡の状態です。
国境は魔王領と接し国内の緊張はピークに達しております。
周辺国もわが国とは決して友好的な状況になくまったく余力がございません!」
は・・・はぁ・・・
そういわれても困るよな、一般兵で働けとでもいいたいのかな?
衣食住さえ何とかしてくれればそれはそれで働くんだがな。
「というわけで、そいつには退席してもらおう。
おいランス!ランテレしろ・・・」
「えっ・・・ちょっ・・・おまっ・・・?」
その瞬間、世界は暗転した。




