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お嬢様、旗揚げする

「そうですかい、それはどうも」


 レイトはそう言うと、私とマイシャの枷を外す。

 全身を縛っていた縄も、手首を縛っていた縄も、一瞬ではずれて地面に落ちた。

 最初からその様に、レイトが縛めに細工をしておいてくれた。


「ん? 何だ? 奴隷を自由にしてどうす……ホッゴォォォオ!!!」


 女の絶対領域をちらちらと見ているジーベックを、思い切りサッカーキックで蹴り飛ばしてやると、コボルドはまっすぐぶっ飛んでベッドにぶつかった。

 壊れかけているベッドのバネでぼよん、と中途半端に天井へと跳ね上がるとパイプに頭を突っ込んで動かなくなった。


「ヤッ!? 奴隷が!!」


「おい、奴隷が暴れ出した! はやく取り押さえろ!」


 そう言って、隣の部屋から5、6匹のコボルド達が飛び出して来た。それぞれが錆びたナイフを手にして走ってくる。きっとこの頭の悪い連中には、誰かを取り押さえるなんて器用な事なんて出来ないだろう。息の根を止めるのがせいぜいに見えた。


(あ、ちょっとマズいかも……)


 何か手頃な武器は無いかと当たりを見回す私の側に、マイシャが駆け寄ってくる。


「ブレード・バリア!」


 そう叫んだ彼女が身体の前で手を掲げると、私達の周りを取り囲むように、いくつかの魔法の剣が宙を飛んだ。


(本物の魔法だぁ……初めて見た)


 魔法の剣に切られたコボルドは、すぐにぎゃあ、と悲鳴を上げて倒れるか、慌てて逃げ出していく。

 弱い、あまりにも弱すぎる。タチの悪い子供より弱いし不良高校生の方がよっぽど怖い。


 魔法の効力がきれて、剣のバリアが無くなった頃には、コボルド達はあらかた逃げてしまい、腰を抜かして怯えている者が数名だけ残っていた。


「……チョーカーって、これで終わり?」


「いえ、用心棒が一人居ます。そいつがちょっと強いかも」


 レイトがそう言うと、下水道の奥から一匹のコボルドが姿を現した。そいつもボスと同じ様なサングラスをしていて、ショートソードを構えている。


「よくもやったな。お前、殺すー」


 精一杯のドスを聞かせて、そう言い、コボルドが私に突進してくる。

 先ほど武器を探していて目を付けていた鉄パイプがあった。私はそれを掴むと、思いっきりその横っ面をぶっ叩いた。


「ピギュアアァァ……!!!」


 コボルドの持っていた剣は確かに怖かったが、あまりにもリーチが違いすぎた。

 子供が布団叩きを持って殴りかかってくるのを、鉄のモップで迎撃するようなものだった。勿論、子供相手にそんな事をするのは、人間のする事じゃない。


「レイト……こんなのに負けたの? マジで?」


「いゃ、あの……かみる様。かなり強いですよ……相手がショートソード持って斬りかかってきているのに、冷静に一撃でしとめるなんて……」


「……そう? そんなに難しくなかったけど……」


「さすがかみる様。異世界から来られただけの事はありますわ」


「……一応は剣術は仕込まれたけど、今のはそれ以前の問題だった様な……ま、いっか」


 ボスのジーベックと、その親衛隊5匹ほど。そして用心棒のナントカって名前も聞いてないコボルドを倒した事で、ローグギルド・チョーカーは壊滅した。


「ちょろい! ローグギルドってこんなものなの!?」


「かみる様。これからはコボルド達のボス。コボルド達は言う事を聞く」


 慌てて降参したコボルド三人組が土下座して許しを求めて来た。


「あは、そんな風に大人しくしてると可愛いね。キミタチ」


 とりあえずボス格二人は樽の中につめて蓋をして、下水に流してしまった。

 残った元チョーカーの構成員のうち、二匹は残念ながらブリードバリアで切り刻まれてしまったが、三匹はこれで私の手下になった様だった。


「さて、これでワイン屋を襲うにあたって、邪魔する奴は居なくなったのね」


「そうですね。チョーカーを倒したと言ったら、向こうからお金を出してくるかもしれませんよ」


「ショバ代って奴か……よし、盗みよりその方が効率がいいし、脅してみるか」


 レイトの提案にのって、私達はワイン屋K&Wのお屋敷を尋ねてみた。

 下水道を出て街の路地の裏手に出ると、そこから地図を頼りに商店街の近くまで向かう。ワイン屋は商店街の中でも繁華街寄りにあった。

 他の人達が住む建物に比べて随分と大きな三階建ての石組みの建物だった。その扉をノックすると、扉を開けて男が出てきた。


「あんたがワイン屋の店主? 私達、チョーカーって奴らを黙らせてきたんだけど、ちょっと話をしてもいい?」


「ああ? チョーカーだと? 金はこの前払ったばかりだろうが!」


 小太りのオヤジは扉から出てくると、顔を真っ赤にして怒り出した。


「お前ら図に乗るなよ? 小遣い程度の金で大人しくするって言うから払ってやってんだろうが。これで十分だろうが、とっとと帰りやがれ!」


 と言うと、三枚の金貨を投げつけられた後、大きな音を立てて扉を閉められてしまった。


「ああ……ショバ代ですらなく、小遣いせびりに来てただけだったのね」


「その様で……」


「レイト! 本当にあんた、あのコボルド達に負けたの? そんなに弱いの!?」


「かみる様。この際白状します。俺は戦いはまるっきり駄目なんです。鍵開けと罠解除は出来ますが、戦いでは何の役にも立ちません」


「……そっか。でも、レイトは調査とか備品の調達とかは手際良いし、誰にでも得意不得意はあるわよね。そういう事にしよっか」


「ありがとございます、かみる様! 是非結婚して下さい!」


「まだその話続いてたの!? 結婚の話は悪魔を倒してからだからね!」


「そうですね。俺、頑張って悪魔を倒す為のお手伝いをします!」


 レイトは悪い奴ではない。本当に弱いみたいだけど、真面目なのはいい所だった。


「あ、これでローグギルドを一つ倒したんですから、旗揚げをしませんか?」


「おお、いいねぇ。じゃあ何かチーム名を考えないとね」


 私が気をよくしてそう言うと、レイトが名乗りを上げた。


「一つ、自分にアイデアがあります」


「何かある?」


「はい。トラスワン――こいつは本物だ。という意味です。かみる様の事です」


「トラスワン……いいね!」


「俺、かみる様を初めてみた時に、天使か何かだと思いました。この世界には存在しない美しい女性だって思ったんです。そしてここのチンピラコボルド達を一撃で倒してしまった時に思いました。この人はホンモノだ。本当に別の世界から来た神か何かだって」


 こうして私達は王都ハウプトブルクの地下にトラスワンというローグギルドを設立した。

 現在主要構成員は三名。そしてコボルドの部下が三匹だった。




 その日から、ローグギルド・トラスワンの活動は忙しくなった。

 まずは、このとんでもなく汚い部屋の掃除だった。


 部下のコボルド達は、綺麗にするのはやだーと言っていたが、負けじと私も、汚いのはやだーと言い返して黙らせた。

 要らない物はどんどん捨てて、広い部屋にして、それから必要な物を置く。

 チョーカーが使っていた倉庫の中も、うんざりするほど汚くて、腐った何かが詰まっていたり、白骨化した元仲間らしきコボルドが入ってたりしたが、それも全部引っ張り出して捨てた。


 そして整理整頓してみると、随分と機能的なアジトが出来上がった。

 メインホールにはテーブルを置き、ハウプトブルクの地図を貼り、そして壁際には武器と屋筒を並べた。

 元々倉庫だった部屋はレイトの作業室として、色々な小物や薬をつくる為の場所にした。

 これで体裁は整った。さて次は……。


「あのワイン屋のオヤジから、金を盗んでこようかね」


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