お嬢様とエッチ小屋
「マイシャの神様って、盗みとかは許してくれる神様なの?」
「はい。審判の神様は均衡を大切にします。盗みを犯してもお怒りにはなりませんし、盗みを犯した者を殺してもそれは報いです」
「天罰が下るって事はなさそうね」
今まで私は、金持ちという盗まれる立場にあった。
厳重な警備と完璧な監視の元、西迅家が盗難にあった事は無い。
あの屋敷の中に置かれている物は何を盗っても高く売れる代物ばかりだ。
窓にひかれているカーテンでさえ、どこかの国のアンティークで十数万はする。
しかし実は盗む事自体は簡単だったりする。
四六時中全ての物を見張っている訳では無いし、監視なんて壁周りと入り口出口付近。
泥棒の進入路さえ抑えておけば、それだけでいい。
問題は盗んだ後に法治国家では逃げられないだけだ。
「数日かけて、金持ちの住んでいる所を調べましょ。レイトは街の地図と下水道の地図を手に入れてきて」
「街の地図はすぐ手に入るよ。問題は下水道だけど、やってみる」
「マイシャと私は情報収集。さぁ、行こうか」
その日から、私達は王都ハウプトブルクの情報を集め始めた。
街の地図はすぐに手に入り、その地図に、お屋敷の場所を記していく。
その後は、数日かけてそのお屋敷の前で張り込みをし、出てきたのが男ならその後を追う。女が単なる家事手伝いで無いなら、その同行を見張るのだ。
そしてお屋敷に住んでいる者が、何の仕事をしているかを探り、日が暮れて下水道の隠れ家に戻ったら打ち合わせをする。
そんな地味な毎日を数日過ごしていくうちに、私もこの街の雰囲気が少しずつわかってきた。
「王宮従事者、ワイン屋、銀行屋、金貸し……あとの金持ちは殆ど緑竜騎士団の関係者なのね」
地図の上に記された×マークと、そこが何の建物かのメモ書き。
「王室の貴族達が参加してますからね。この街での一流って証しなんですよ」
「名家はどこでも同じか。盗めたとしても後が厄介だしパスパス」
該当する騎士団関係の建物は、横線をひいていく。
「金貸しはちょっと今の私達には早いし……っていうかこのワイン屋儲けすぎじゃない?」
「王都の一流ワインは全て、そのワイン業者の物ですし、それで儲けた利益で、酒の通商もやってるんですよ」
「越後屋かぁ。じゃあターゲットはこいつだ!」
「えっち小屋ってなんですか? とても卑猥ですね」
「エチゴヤ! えっちじゃないわよ!? エチゴって名前のお店!」
「エッチでゴーですか、ガンガンいくタイプですね」
「マイシャ……もしかして男に飢えてない?」
「ああ、えっと……時々神様に怒られます。下ネタはほどほどにって」
「エッチ小屋……エッチ小屋ってどんな所なんだろう……」
「そこの青年。妄想はそこまでにして、そのワイン業者の建物の見取り図を手に入れてきて」
「わ、わかりました」
「ほら、私の太股チラ見してないで、はやく行ってくる!」
マイシャの空耳のおかげでレイトの股間はちょっと大きくなっていた。
この二人って、くっついちゃった方が上手くいく気もするけど、恋人どうしになったら毎日サルのようにHしそうでやばい気もする。
(子供が出来たので悪魔を倒せませーん、とか言いそう……それは避けないと)
この女子校の制服も、男の視線を吸い寄せる一因だが、元々ちょっとだけエロ可愛らしくデザインしたりスカートを短くしているので、仕方が無い。
それにこの服は不思議と破れたり傷ついたりしないし、汚れもすぐ落ちるので、いつまでも着ていた。多分、魔法か何かがかかっているんだろう。
その日、レイトは帰って来なかった。
もしかしたらどこかで、欲望を満たしていたのかもしれない。
レイトの帰りを下水道の隠れ家で待っている時、マイシャが私に尋ねた。
「かみる様。私達は今、悪魔ソールメイズを倒す旅をしているんですよね?」
その問いに対し、当然だとも、と答えておいたが、今の所は生き延びるので精一杯だった。私が遊んだ事のあるロールプレイングゲームの流れとは、著しく逸脱している様にも思えるが、それはきっと主人公の選択に問題があったからだ。
年齢は12歳ぐらい、既に現代でもチート級の知識を持ち、そして異世界にきたらその世界で最強の生物をガンガン倒していく様な、スーパーヒーローを呼ぶべきだったのだ。
(まず女子高生のお嬢様って所で、キャラメイクの選択がシュミ的だよなぁ……だれが決めたんだ? あのかちゃこんの神様か?)
結局、レイトがワイン店K&W一家の見取り図をもって帰ってきたのは、次の日の昼過ぎだった。
「なんとか、手に入りましたが、ちょっっっとやばかったです」
「トラブルでもあった? それとも何かしくじった?」
「このワイン店、チョーカーと繋がりがあったんですよ。屋敷の中にこっそり入って見取り図をとってこようと思ったら、見知ったコボルドが居ました」
「それで一目散に逃げて来た、と」
「はい。これが見取り図ですが、チョーカーを刺激したかもしれないです」
「……これもいい機会か。チョーカーってどこにいるの?」
「え? あの……下水の奥にアジトはありますよ」
「……ぶっ潰しちゃおっか!!」
「いきなりですか!」
「レイトが見つかったのもタイミングだと思えば、これが成り行きってやつよ」
私がレイトとマイシャに、チョーカーぶっ潰し作戦を伝えると、二人とも二つ返事で答えた。
「かみる様。無理な時は逃げましょうね」
「当たり前よ。死んだら意味無いわよ」
「じゃあ……手筈通りに……」
やり口は簡単。レイトは私とマイシャを捕虜にしたと言って、手土産としてチョーカーの所に行く。ボスの所まで通されたらボスを倒す。以上。
レイトに連れられた私とマイシャは、全身を軽く縛られ、手もロープで繋がれていた。
その状態で下水道の中を歩くと、ヤジが飛んでくる。
特にチョーカーのアジトに近づくにつれて、コボルド達の数が増え、道の脇からもトカゲ人達が顔を出してきた。
「レイトだ。何しに戻ってきた?」
「こいつ。まだ生きてた。こいつ、チョーカーの金を盗んだ奴」
とコボルド達に言われ、レイトは頭を下げながら歩く。
その姿を見て、この小さいトカゲ人達がそんなに怖いのかと疑問に思った。
トカゲっぽい奴と言えば、あの悪魔の方がよっぽど怖そうに見えた。
「今日は、ジーベックの旦那に手土産で……」
「人間の女か。エルフの女もか」
「はい」
そんな質問をコボルド達とかわしつつ、下水道の突き当たりまで来た。
「おう……レイトか……何の用だ」
そうドスをきかせて喋ったのは、黒いサングラスをかけたコボルドだった。
彼の周りには雌のコボルドらしき生物が居て、ご機嫌をとっている。
この突き当たりの部屋は、もうグッチャグッチャのゴミ倉庫で、その中でジーベックというコボルドは壊れかけのベッドを占領していた。
「先日の詫びと言っては、何ですが……女を二人捕まえましたので、奴隷にどうかと」
「ふん……エルフと人間か……」
ベッドの上から降りたグラサンコボルドが、まずはマイシャの近くへいき、片手でマイシャのあごを掴んで品定めをする。
そして次に、私の足下に来ると、まずはスカートの中をのぞき込んだ。
「!?」
「この衣装はいい。異国の踊り子の服か。これは高く売れそうだ」
おそらくは、覗きとか下着を見るとかの下心ではなく、この衣装自体に興味を持ったらしかった。
そして近くの木の棚の上によじ登ると、私の顔より少し高い所から、見下ろしてくる。
「人間の女……それにしては随分と軟弱だな。どこかの貴族か?」
「はい、金持ちの令嬢です」
「ふぅむ。これは高く売れるな……うむ、よし、レイト。今回だけは見逃してやる」
やはりこの世界、個人的な情欲よりもまずは金。
そういう意味では、このジーベックはプロだった。