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お嬢様、王都に行く

「はい、そうですよ。特にレイトさんは隠密偵察が得意でかなりの手練れですよ」


「隠密偵察とか、女の子の裸を見に行ってるだけじゃないの?」


「確かに、覗きの為に隠密偵察能力をいかんなく発揮してますよね」


「……ねぇマイシャぁ。こいつって、信用出来る?」


「レイトさんは真面目で優しい方ですよ。信用はできる方です。ただえっちなだけですけど、年頃の男の子はみんなえっちですから」


「うん、男はみんなそう。年頃を過ぎたらえっちではなくエロって言い方が変わるだけ」


 この世には基本的に男と女しか居ない以上、性欲があるのは仕方が無い。

 性欲で異性をコントロールする事も多分に必要だし、男というのは、一発やらせてやるという言葉にとても弱い。

 それで拳銃持たせて暴力団のボスに一発やってこいと言ったら詐欺だとか言い出すが、そんな事は私の知った事じゃ無い。むしろ本当にやられても困る。


「じゃあさ、こいつ、魔王退治の仲間になると思う?」


「レイトさんがですか? かみる様が誘えばきっとなってくれると思いますよ。私はこの通り、ついていくタイプなので、自分ではリーダーとか無理ですから」


「ああ……リーダーか……」


 リーダーシップというのは確かにその人次第だ。持っている奴もいればいない奴も居る。自分一人で生きていくタイプも居れば、誰かがいないと何も出来ない奴も居る。

 そして例えリーダータイプだと言っても、知能タイプも居れば暴力タイプも居るし、策士タイプも居れば金と権力タイプもいる。


 西迅家に産まれたからには凡人達の上に立つリーダーとなるのは宿命。兄妹全員がリーダーシップをもっていた。

 私は残念ながら暴力タイプだ。自分でも分かってる。イラッとするとすぐ手が出る。

 なるべく冷静であろうとはしているんだが。


「……あ……マイシャさん……と天使様」


(ああ……やっぱり頭の打ち所が悪かったか……)


 レイトは二時間もせずに意識を取り戻して、私達の方を見た。

 私を見て天使というのは、正解だとしても、普通じゃない。


「私の名前は西迅かみる。マイシャに召喚された天使だ。かみる様と呼べ」


「おお、やはり天使だったんですね。結婚して下さい!」


「天使は普通結婚しないだろう? でもまぁお前の働き次第では考えてやらない事も無い」


「マジですかやったぁ! マイシャ! 俺、天使様と結婚するよ!」


「よかったわねレイト。もう私の水浴びを見ながらもぞもぞする必要も無いのね」


「うん、これからは天使様に見せて貰うよ!」


「わかったわかった。結婚したらね。でもそれまでは見たらコロス。もぞもぞは私の見えない所でして」


「……はい。分かりました」


(おっ、わりと素直。よしよしこれで一匹手なずけた)


「結婚式は明日ですか?」


「悪魔ソールメイズを倒した時に考える。それがお前の使命だ」


「悪魔ソールメイズ……それって、この前、あやうく現世に出てこようとした強大な悪魔ですよね……」


「はい。かみる様がなんとか出てくるのを阻止してくれましたが、倒すには至らなかったのです」


「……あ、そういう事……召喚された天使様は悪魔を倒す為に……それで、俺をその仲間にしてくれるって流れで……」


「そうだ。レイトとか言ったわね。馬車馬の様に働け」


「うおおお! わかりました、かみる様! このレイト=ストライド、身命尽くして英雄道を突き進むつもりであります!」


 レイトは元気よくそう言うと、ベッドの上に上半身を起こし、胸に手を当てて敬礼をしてみせた。


「おお? レイトって意外と、熱いタイプなんだ? 隠密偵察と覗きしか出来ないコソコソした男だと思ってた」


「レイトさんは、昔から英雄とか勇者になりたかったんですよ。でも、本人はこの通り、力は全く無いので、ごろつきをやってるわけです」


「俺だって……ハウプトブルクに行って、ローグギルドに入って、一旗揚げてやろうとか思ってたんです……でも、現実は汚かった……」


 がっくりと肩を落として、レイトが語り始める。このスケベ野郎にも色々事情はあるんだろう。それぐらいは聞いてやってもいいと思った。


「ローグギルドの本性は騙し合いと盗み合い。気に入らない奴はすぐ暗殺、俺は最初に入ったローグギルドでいきなり濡れ衣を着せられて逃げてきました」


「あいつら新人の事を使い捨てにしか考えてないんだ。濡れ衣を着せられて殺されたらそれまで。濡れ衣をきせた奴が手柄。そうでなきゃ濡れ衣を着せた奴を殺すしか無い。そうやって下克上で成り上がっていくんです」


(それってただのギャングじゃん……)


 要するに、ローグギルドというのは現実で言うギャング団という事らしい。

 裏世界を牛耳る事を夢見ていた私としては、どうって事の無い話だった。


「レイト、そのローグギルドの名前はなんて言うの?」


「チョーカーという名前です。コボルドがリーダーで、皆、首輪を付けています」


「なるほど……コボルドってなんだっけ?」


「背が人間の半分ぐらいの、トカゲ人間です」


「ふーん……強いの?」


「全然強くないんですが、とにかく数が多いんですよ」


「ああ、数で勝負ね……」


(ようするにチンピラの烏合の衆……)


 リーダーと幹部が強いグループは、中核のメンバーと末端の構成員が自然と寄りついてくるものだ。特に下っ端の構成員なんてトップが強くなれば誘ってもいないのに勝手に増えていく。

 強いかと聞かれて幹部が強いと答えが返ってきたら、それなりに本気を出す必要があるだろうが、強くないという以上は、小さなチンピラグループなのだろう。


 このレイトを新人に入れて、即時使い捨てをする程度だ。所詮はその程度の器量しかない、ただのタチの悪い半グレ集団だと見た。


「じゃあ明日は、ハウプトブルクって所に行ってみるか」




 次の日の昼頃、私達は『不滅(アンダイイング)なる審判者(コート)』の神様の教会を出て、王都ハウプトブルクへ向かった。

 本当は朝から出発したかったのだが、レイトが旅の準備をしたいというので、わざわざ彼の山の中の小屋までついていった。

 木々の中にある小屋は粗末で、10畳ほどの1K。風呂無しトイレ無し雨漏りしほうだいの掘っ立て小屋だった。


「この家ってさ、もしかしてレイトが自分で建てたりしたの?」


 明らかに職人が作った風には見えない、見よう見まねで作った建物の形をしたナニカの中を見回して、ここの住人にそう尋ねた。


「はい。ここは元々焼け落ちた小屋があったので、自分で建て直しました」


「元々住んでた人は、行方しれずなのね」


「火葬済でしたので、マイシャさんに頼んで供養してもらいましたよ」


「あ、そう……」


 つまり、火事で焼け死んだ人の家を自分で建て直して住んでるという事だった。

 こういう小屋は自分で建てたり、或いは誰かが建てたのを勝手に借りたりするのだそうだ。

 どこに行ってどこに住んでも金がかかる上に、どこかに住んでないと働く事もままならない私の現実世界よりは楽かもしれない。


 レイトの小屋から歩いて1時間。緑の木々が日光を程よく遮る、心地良い小道を登って小高い丘の上に着くと、広い青空の下に大きな街が広がっているのが見えた。

 王都と言うだけあって、それなりに広い。現代の小規模の都市中心部ぐらいの広さだった。街の中央には城と尖塔が経っていて、その下に城下町が広がっている。


「かみる様、どうかいたしましたか?」


「……」


 現実での知識があった私は、一度そこで立ち止まり、町並みを見据えた。

 大きな街ほど、住む所で格差がある。

 見れば右手前から右手にかけては木製の小屋の建ち並ぶ貧民街。

 左手は背の低い建物の並ぶ平民街。

 奥の右手には教会の建物が見え、それにならって大きめの建物がごちゃごちゃとひしめいている。おそらくは繁華街。

 そして繁華街の左手、城と尖塔の周りには高そうな家の並ぶ金持ち達の場所。

 左手奥はここからではよく見えない。


「街ってのはね、二種類あるの。その土地に人々が集まって、皆で作り上げた街。これは普通の街よね。もう一つのタイプは、その街や土地が人々を呼び寄せて、その街の人間になる事を強要させる大都会。街がそこに来る人々を都会人という生き物にしてしまう」


「ここは、どちらでしょうか?」


「前者だと思うけど……怖い街には見えないし」


「怖い街って、見た事が無いですね。どんな所なんでしょう」


「悪魔の住む街は、怖い街じゃないかしら?」


「そ、それはそうですね」


 その悪魔が本物か人間の姿をした悪魔か、どちらなのかにもよるのだけど……少なくともこの街にはそういった街独特の拒絶感は無かった。

 ただ、その代わりに感じたのは、あの中央に建つ城の、不自然な静けさだった。まるで深い闇を纏っている様な、無機質さがあった。


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