お嬢様、突貫する
ルーゲンフォークの母国の帝国はアーティファクターの支援を受けながらも、ゾンビの襲来を止めきれずに廃都と化した。そしてメルカデはソールメイズに対し果敢に攻撃を仕掛けていたが、その攻撃点は最大限に達しようとしていた。
兵法において、防御と攻撃は、攻撃側の方が圧倒的に有利とされる。
防御は相手の攻撃に対し、ひたすら攻撃を受け続けるだけであり、反撃に出ない限りはいずれは崩壊する。しかし、攻撃側がその経済力や物資面において、継続的な攻撃が不可能となった場合は、事実上そこからは敗北の道を辿る事になる。
そしてメルカデがこれから行う戦法は当然ながら、最大の攻撃力をもってソールメイズの防御戦を突破する、という最後の一撃だった。
それこそ、神々が待っていた『その時』だったのだろう。
「メルカデが全力でソールメイズに攻撃をしかけた時に、私達も乗じます。私達の目的は一つ。西迅かみるをソールメイズと戦わせる事です」
ミンスミートが目を開け、そしてシェルターを開き、トラスホープを元の世界へと戻す。
久しぶりに見た空は、真っ黒で分厚い雲に覆われていて、気温はとても低かった。
次元の狭間の間で、様々に改良を加えられたガスター号に、次々に船員達が乗り込んでいく。
この出航が最後の出航になる筈だった。そしてユミルも共に乗り込むと、
「ガスターX、発進してください!」
と私に言った。
(とうとう、胃に良く効きそうな名前になってしまったなー)
そう思いつつ、私はガスターX号の発進を命じる。
「よし、ガスターX、発進!!」
正面のドームの隙間から、いきなり高速で飛び出したガスター号は、今までより更に速く空へと滑空していた。甲板には魔力でシールドが張られ、風防の役目を担っていた。そうしないと、全員が甲板から吹き飛ばされそうな勢いだった。
おそらく現代の旅客機並みの速度は出ていたかもしれない。
ほどなくルーゲンフォークの街が見えたが、ハウプトブルクよりは尖塔が残っているだけマシ、程度の壊滅状態で、人の姿は見えなかった。その代わりに、街の上空には無数のメフィット達が舞っていて、あろうことか小さな火球や雷を撃ってきた。ただのメフィットではなく、更に強い悪魔へと進化してしまったらしい。
ルーゲンフォークから北上し、かつての異教徒達の都グロットに行くと、そこには街は無く、巨大なクレーターがいくつも大地にあるのみだった。メルカデの戦艦が本気で街を壊滅させたのだろう。力の誇示としては十分だった。
そこから私達は三日月島へと向かう。
以前にミンスミートを助けてグロットから撤退した時、黒い光が三日月島へと落ちていた、それがソールメイズの影響だという事は想像出来た。だからこそ調査を後回しにしたのだが、今、ようやくその全貌を見る事が出来た。
三日月島の中心には、ハウプトブルクで見た様な火山口が口を開けていて、そこに巨大な悪魔の姿があった。
ゴールドワンは城一つの大きさだったが、ソールメイズは、島一つの大きさだった。
さすがはボス格という感じだった。
その周りには50艇近くのメルカデの飛行船が待機していた。おそらく全ての船艇を結集して、決戦を挑むつもりなのだろう。それで負ければ、この世界の負けという事だった。
異世界ファンタジー的な物語としては、冒険者が頑張って迷宮をくぐり抜けて、ボスへと辿り着くのが王道だと思うが、どうみてもそんな雰囲気は無かった。
いや、大抵は復活を遂げる前にそれを食い止めるから、少人数で対処出来るのであり、復活してしまうわ、大悪魔当人が異世界からこの世界を滅ぼしに来るわで、まさしく全てが手遅れの状態だった。
「…………」
「かみる様……」
マイシャとレイトが、不安に満ちた声で私の名を呼んだ。
「私より、お前達の方が大変だよ」
「私達の使命は、かみる様をソールメイズの所へお連れする事です」
この現状を見る限り、それすらも至難の事だった。
一体どうやって、私をあの化け物の側へと連れて行くのか。その後どうやって、皆はあの化け物から逃げるつもりなのか。どうみても片道切符でしか無かった。
ただ、今の私には怖いという感情は無かった。その感情はトレイマスの時に捨ててきてしまった。
今は、あの巨大な悪魔に対して、どれだけの効果があるかどうか分からない、神様のぷよぷよ棒を振り回して、精一杯殴るだけだった。
「メルカデの戦艦達が突撃する! 我々もソールメイズにギリギリまで近づくぞ!」
レイカーがそう叫び、レバーを前へと倒す。急加速したガスターXがメルカデの戦艦達にならんで、悪魔へと突進していた。
並ぶ戦艦達は、ガスターXの主砲より遙かに強い大砲でソールメイズを攻撃する。しかし、その多くは周りを飛び交うメフィット達に当たり、ソールメイズにまで届いていなかった。
ガスターX号も、ガスターキャノンを放ち、前方を邪魔するメフィット達の群れを焼き尽くす。彼らが反撃し、火球や雷、氷の弾を撃ってくると、それをメルリエルやバニティが防いでいた。
メルカデの艦船も、帰る事など考えず、ソールメイズに一撃を与える為だけに突撃していた。その甲板に無数のメフィット達が襲いかかり、乗員をかみ殺し、戦艦を大破させていた。それでもたった一発でもソールメイズに弾を撃ち込めたなら、彼らは本望だった。
なんと馬鹿馬鹿しい行為だろうか。かすり傷一つ追わせるか追わせないかの為に、命を無駄にして突撃していくのだ。
ガスターX号に襲いかかってきたメフィット達は、レイトやマイシャ、シズカやシルメリル達が白兵戦で応戦し、怪我を負っているにもかかわらず、アイゲルフも戦いに加わっていた。
目前に迫るソールメイズは、山のように大きかった。いや、山よりも確実に大きかった。
どこまで近づけばいいのか? 正面から近づいても、手で振り払われるだけにしか思えない。そうなれば、やれる事はただ一つ。頭の上から私が一人飛び降りて斬りかかるのみだった。これもまた馬鹿げた話だった。
この異世界に来た時から馬鹿げていたし、持っている武器も馬鹿げているし、ビッグになっていく過程も馬鹿馬鹿しい成り上がり人生だった。
「ソールメイズの真上へ。そこで私は飛び降りる」
私がその覚悟をしていた事は、皆も承知していた。
レイカーは無言で舵を取り、三日月島の上空、ソールメイズの頭の上へと向かう。
他のメルカデの船艦は、空中で爆散しながらもソールメイズへと肉薄し、その身体に激突して大爆発する艦艇も見えた。
ここで死のうが、負ければ後でもっと酷い死に方をする事になる。それが彼らの覚悟だった。
神々は、その犠牲を必要な物として、静観しているだけだった。
『その時』は神様が助けてくれるのではなく、この世界の住人自身が切り拓かなければならず、そして、彼らは単なる捨て駒でしかなく、本命はこの私一人だった。
そんな事も知らず、メルカデの軍人達は命を空へと散らしていた。
私に言えるのは、その散らした命を無駄にはしない、という気持ちだけだった。




