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お嬢様、エロオヤジと再会する


「街から少し離れた所にワープしました。戻る時も同様に呪文を詠唱する時間が必要で、輪の中に入って貰わないと、ワープできないから気をつけて下さい」


 あらかじめ注意事項を私達に伝えた後、バニティは私達の姿を消す魔法をかけて、街の側まで近づいた。物陰から邪教達の様子をうかがうが、どうにもまともな営みはしていない。


 人々はおそらく一日中、この巨大な悪魔の彫像に向かって祈りを続け、そして一定回数か一定時間お祈りをすると、彫像から去り、自分達の作業に戻る。作業は食事を作る者、日用品を作る者、そして麻薬を作る者など分業制で、金を払わなくとも支給してもらえるが、その代わりに無償で労働をしなければならない。


「バニティってネクロマンサーだけど、ああいう邪教って詳しいの?」


「いいえ? 悪魔崇拝は全然違います。ゾンビが出てきたら、私の領分ですけどね」


 見渡す限りはゾンビは居ないが、ある意味では当たり前だろう。だってゾンビ薬を作る人達がゾンビになってしまったら意味が無い。


 あちこちから立ち上る黒い煙が、人々を腐敗させるゾンビ薬だと分かっていても、今の私達の目的は、神様の命によりどこかに囚われている天使様を助ける事だった。バニティの透明化の呪文はとても便利だったが、街の側まで行くと、団体で行動するのは難しくなり、レイトが先に進む事になった。


「行ってきますね」


「久しぶりにごめんね、斥候役をお願い」


 レイトのローグとしての腕は全く衰えて無く、透明化の呪文を受けつつも、壁から横道へ、横道から反対側の路地へと素早く移動していく。そして安全が確認出来ると、そこまで私達は一人ずつ移動していった。


 街の中は迷路状にはなっておらず、彫像の周りに建物が建っているだけのシンプルなものだった。だから、その建物の裏側にさえ入れば、こそこそと奥へと進む事が出来た。


 そうして辿り着いたのは、彫像の裏側にあたる部分で、そこには地下へ降りる階段があり、修行僧らしく坊さん達が中から出入りしていた。この中に入りたいのだが、これでは全く隙が無い。


「どうしましょうか。さすがにこれは……」


「ある程度、魅了してしまいましょう。そうするしかありません」


 バニティはそう言うと、入り口付近の修行僧に呪文をかけた。すると魔法がかかった者の額の辺りにルーン文字が浮かび上がり、歩くのを辞めてその場に立ち尽くした。私達は姿を消したまま、魅了した一人に対し二人がすぐ後ろについて、彫像の中へと入っていった。私達の姿は見えず、魅了された修行僧がお辞儀をしてくれるので、下へ降りる階段は、ギリギリの人数で狭いながらも、なんとか通り抜ける事が出来た。


 階段を降りきると、小部屋に出た。その小部屋からそのまま前に進むのが順路だが、右と左には小さな部屋があった。


「こっちへ」


 バニティがそう私達に言い、魅了をかけた人達と共に、小部屋の中に入る。小部屋は儀式用の小道具がおかれた倉庫だった。その中に入ると、いきなり、魅了していた修行僧がうめき声を上げて倒れ、死んだ。


「えっ? えっ?」


「私の魅了魔法は強力ですが、効果が切れると、その者は死の世界に送られます。意志の強い者は耐える事も出来ますが、大抵はこの通りです」


「そんな怖い呪文なんだ……」


「私に善を求めないで下さいね」


 そう平気で言ってしまうバニティに対し、やれやれという顔をすると、シズカも困った顔をしていた。バニティはまだ知らないが、私もシズカも到底善人とは言えない部類の人間だった。


 再び透明化の呪文をかけ、レイトが先行する。隠れていた小部屋を抜け、更に階下へと進むと、どうやら地下墓地になっている様だった。


「ハウプトブルクの地下と同じ、古い地下墓地です」


「あのミイラのある迷路か……迷いながら行くしかないのね?」


「はい。あの時は奥へ進むレバーがありましたが、今回は何があるか想像もつきません」


「久しぶりに冒険者っぽい事してるわね。頑張って先に進もうか。どこかに天使様が囚われているんだし」


「はい」


 レイトは私に、冒険者になりたいという夢を語った事がある。

 あれから色んな事があり、随分逞しくなり、彼女も一応出来た……事にしておく。

 奥へと進む時に、ちら、と見えたレイトの横顔は、私と始めて出会った時に比べて、とても大人びていた。もし、彼の性格を知らなければ、心を惹かれる女性も居たかもしれない。或いは彼の性格など全く気にしていないなら。ユミルは言わないだけで、本当はレイトの事が好きなのかもしれない。好きでもない男に身体を触らせたり手を握らせたりはしないだろう。


(もしレイトが死んだら、ユミルは泣いてしまうだろうか?)


 と考えた時、レイトの死に顔を見たくない自分が居た。

 好きかどうかとは別の次元で、私は彼が死んだらきっと泣くだろう。

 私は小さく息を吐くと、気合いを入れ直して、今、自分の身の回りにある危険に注意を払うことにした。

 小部屋から先に進むと、土塊の壁手出来た地下墓地だった。しかしここにはミイラはなく、不思議な鉄か石で出来た悪魔の像が横たわっていた。おそらくは棺桶なのだと思う。

 地下墓地は以前と同じく、あちこちで行き止まりになり、何度も道を戻る事になった。修行僧達も、この地下墓地の中をあちこち彷徨い歩き、そして地上に戻っているらしい。

 もしかしたら奥へ行く道は無い? と疑い始めた時、レイトがありました。と小声で呟いた。

 ある行き止まりの壁が少しだけ斜めになっている。様子を見てみると、そこは回転扉になっていて、どうやら一人ずつ、この地下墓地で巡礼を終えた者が入る様だった。


 次の修行僧の後について、レイトが回転扉の中に入っていったのだが、すぐに出てきて私達の方に戻ってきた。


「いました! 天使様が、大変な事になってます!」


 そのレイトの慌てぶりに、中では一体何が起こっているのかと思い、私達はぞろぞろと回転扉を開けて中に入ってしまった。


「ここは……」


 いつか見た、洞窟の中のような湿った岩の壁。暗い洞窟。光る壺。じめじめとした床。そして、見覚えのあるローブ姿の男がそこにいた。

 私がマイシャに呼ばれて初めてこの世界に来た時、この薄気味悪い洞窟の中に来た。


(あのオヤジ……なんて名前だったっけ……)


 悪魔ソールメイズを召喚しようとしていた魔法使いがそこに居た。あの時、とどめをさしていれば、もしかしたら、そこで話は終わっていただろうか。


 そのオヤジの前には大きな鉄とも岩とも分からない扉があり、内側からドン、ドンと何かが叩いていた。

 叩かれる都度に扉は開こうとするが、開かない。それは羽を持った天使が扉に貼り付けになり、両手両足に鎖を繋がれて扉を塞いでいるからだった。

 扉の向こうから開けようとすると、繋がれた天使の手足に鎖が食い込み、綺麗な天使の顔が苦悶に歪む。

 異教徒達は扉の向こうにいる『主』を呼び続けていた。はやくその天使の両手足を引きちぎり、門を開けてこの世に来て下さい、と。


「……こいつは、やるしかないな……久々に、ぶっつぶすしかないね」



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