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お嬢様とガスター・テン(号)

 レイトとユミルが開発を始めてから二日後に、ドラゴンシャードから魔力を引き出す装置が出来た。二人は喜んで、そのままその場で倒れる様に寝てしまった。

 そして目が醒めると今度は、装置が安定するかどうかを調べる為に、そこから三日間は何もせず、二人は機械とにらめっこしていた。

 とにかく機械の側から離れないので、皆が心配して食事を用意するが、食べている間も計器類から目を離さないので、やり過ぎだという声も出ていた。


「ヲタクって言うの。もうああなると、自分が納得するまで動かないのよね」


「それって病気ですか?」


「近い物はあるわね……」


 魔力の供給が安定して行える事が確認出来ると、今度は技師の爺さんと共にあれこれ言い合いながら飛空艇への取り付けを行っていた。しかし、それはやはり簡単にはいかないらしく、最後には船の外装部分を外してまで改造していた。


 爺さんは最大限に気を使い、二言目にはまず休め、とにかく休め、風呂入れ、と言って居たが、ユミルは全然聞いてなかった。

 彼女が言うには、この飛空艇はとてもすごい技術をもった誰かが大改造を行ったもので、ユミルでもよくわからない装置が組み込まれているらしかった。それでこの何日も計器を見ていたのだそうだ。つまり、納得がいってないという事だ。


 しかし、それらの装置が何の為につけられているかを、全て調べていたら、いつ飛ばせるようになるかわからない。との事で、爺さんは、まずはごく普通の飛空艇として飛べる様にして、そこで一休みしろと言うと、ようやくユミルは納得してくれた。

 外板が元通りにはめ込まれてから数日後、レイトとユミルは完成したと言い、皆の前で試運転を行う事になる。


「……今でも浮いてるけど、また何か違うんだよね?」


「はい。これは単にここのドックが船を支えているだけです。今から、この船自身が飛びます。それじゃレイト、動力を入れて!」


 甲板の上にいたレイトが手を振ると、姿を消す。

 そして最初にビリビリビリと、静かな電気音のような物がすると、次にごうん、ごうん、と低い機械音がしはじめた。


「わあ、綺麗!」


 修理はうまくいったらしく、船にはドーナツ状の光の輪が現れた。まるで火の輪くぐりをしている様な状態だったが、これで正解らしい。


 船全体がゆっくりと浮き始め、そしてゴゥンゴゥンという機械音が規則正しくドックの中に響いた。


「正常に操縦できるかどうかテストしてきます!」


 レイトがそう叫び、また、甲板のへりから姿を消す。

 飛空艇がゆっくりと前に進み出し、そしてドックの外へと出て行く。

 陽光を浴びた船の一部が、光を反射してキラキラときらめいた。


「ああ、あれは、太陽電池だったんだ! 何なのかと思ってた、すごいなぁ」


 ユミルのその目は、本当に嬉しそうに自分の手がけた船を見ていた。


「あの船、名前を付けないとね」


 私がそう言うと、ユミルは首を振った。


「名前、ついてました。操縦席の所に。ガスターっていう名前なんです」


「へぇ、ガスター号っていうんだ。格好いいね」


「正式名称はガスター・テンらしいです。10番目の船らしいですね」


(……胃薬……)


 思い当たる名称が別にあったが、それは言わない事にした。


 ドックから出たガスター号はゆっくりと前進し、左右に舵がきく事を確認した後、ゆっくりと後退しつつ、ドックの中に戻ってきた。


 ドックの所定位置まで戻り、着艦するとドーム内は拍手喝采になった。


「レイト、ユミル、よくやったね! もうこの船に乗っていけるの?」


「はい、でも飛空艇は着艦場所を選びますので、どこでも行けるという訳では無いですよ」


「つまり、空を飛べるだけで港とかにはいけないって事?」


「はい。だから荷物の積み卸しとかは難しいですね。人間だけなら、魔法使いがテレポートすればいいんですが」


「メルりんってテレポートできるの?」


「ええ、私一人なら」


「うう、個人用か……」


「レイカーさん。船の操縦の仕方を説明しますので、舵をお願い出来ますか?」


「俺に出来るのか?」


「はい、操縦自体はほとんど船と同じです。舵輪とエンジンの出力制御レバーだけです」


「あとはエンジン技師になりたい奴をみつけて、教育しなきゃならんな」


 皆がそれぞれ自分勝手な理由をつけて、飛空艇に乗り込んでいた。

 本当はみんな、早く乗ってみたいだけだったのはバレバレだった。

 そして一番乗りは私だった。


「飛んで! 早く飛んで!」


「かみる様、落ち着いて下さい。まだ、皆さん、自分の持ち場さえわかってません」


「仕方無いなぁ……船長室はどこー?」


「こちらです」


 シズカに連れられて、最後尾の船長室に行くと、広くて豪華な部屋だった。


 複数のソファとテーブル、壁にはいくつもの額縁と棚、そして一番奥の窓際には天蓋付きのベッドがついていた。こんな狭い部屋で天蓋付きというのが無駄すぎて面白かった。


「うわっ、この部屋すごい! なんでこんなに綺麗なの?」


「元々海賊船ですからね、船長は特別なんですよ」


 部屋に入ってすぐ左手には酒瓶を並べる棚があったが、残念ながら私には無縁の物だった。シズカが平気で酒を飲んでいたのが、ちょっと大人びてて羨ましかった。


「かみる様は、お酒を飲まないんですね」


「私の住んでる世界では、国の法律で20歳を越えるまでは飲んじゃダメなの」


「どうしてですか?」


「さぁ? でも、子供が酒を飲んで暴れるってのも、見てていい気持ちはしないし、それでいいかなって」


「……確かにそうですね。子供がお酒を飲むと、言う事を聞かなくなりますから、その国の法律は正しいと思います」


 船長の寝るベッドに身を横たえると、窓から空が見えた。とても良い気持ちで、しばらくそのままそこで休む事にした。シズカは気を利かせて、そっと部屋を出て行った。

 そのまま日が暮れるまで寝ていると、逆に海風で寒くなってきた。窓はカーテンをひけば閉じる事が出来たが、そうすると室内が真っ暗になってしまう。


 闇の中を手探りで扉を探し、ドアを開けて、外へと出た。夜の間もずっと、ドーナツ上の魔法の輪は綺麗に光っていた。エネルギーは無限だというので、つけっぱなしでもいいのだろう。その涼しげな光を背に、甲板へとおりる。それぞれの持ち場での勉強は終わったらしく、ガスター号にはエンジニア達しか残っていなかった。レイトとカミルはあの太陽電池を繋げようと頑張って作業を続けている様だった。


「かみる様、今後の予定についてご相談したいのですが」


 シルメリルがそう言い、私を連れてアジトのリビングへと戻る。


「飛空艇が使えるのなら、この海図を元に、更に遠い国まで行く事が出来ます。飛空艇なら地上も飛べますから、陸地の地図を手に入れるのもいいと思います」


「ソールメイズがどこに拠点を作っているか探す為にも、地図は要るわよね」


「いよいよ、海を越えて、世界規模かぁ……ルダみたいな街が無いといいんだけど」


「そうですね。それを願って、世界を旅しましょう」



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