お嬢様、ランニング・ウィズ・ゾンビーズ
メフィットが三匹しか居なかったのは、発見が早かったためか、それとももうどこかへ飛び去ってしまった為か。私達にそれを確かめる術は無く、沈んでいく船と犠牲者達にせめてもの手向けとして、祈りを捧げる事しか出来なかった。
「あの船がどこから来たのか、もしそれがこのルダって所だとしたら、厄介な事になるかもしれないわね」
「街がゾンビで一杯になってるかもしれませんね」
メルりんの言葉に、飄々とマイシャはそう答えたが、周りの者は当然ため息をついていた。
探知機の方角、そして方位磁石はほぼ同じ方向を向いていた。この先に港町ルダがあり、そしてそこにドラゴンシャードがあるという事だった。
ゾンビ船とすれ違ってから丸一日して、目的地であるルダ港のある島が見えてきた。島自体は大きいが、港町の大きさはそれほどでもないらしく、遠目からでは見えない。夜に近づいて、ゾンビだらけだったら嫌なので、港がギリギリ見えるぐらいの所で停泊し、朝を待つ。
日が昇り、メルリエルが見張り台に登った後、船をゆっくりと港へと近づけた。港には船はなく、空の桟橋が二つ伸びていた。船着き場は無人。その向こうに、焼け崩れた小屋が見えた。この時点で既に絶望的な雰囲気は十分にあった。
今の所はゾンビの姿は見えない。しかし人の姿も見えない。この街もルーゲンフォークと同じく、波止場と街の間には大きな門が建てられていた。海賊達に攻められた時、街を守る為だった。
「どうします?」
「いきなり船を接舷させるのは怖いから、まずは様子を見に行ってくる」
私とシズカ、マイシャとシルメリルが小舟に乗り込み、ゾンビ達と戦う事を覚悟しながら、船着き場に上陸した。
波止場の小屋は全て焼き払われていた。その小屋の中を見ると、焼死体があった。しかしこの焼死体が元々ゾンビだったかどうかはわからない。
単なる火事なら、死体を放置はしないだろう。もし海賊等に襲われたのなら、こうなる可能性はある。
(もしも……ゾンビ薬のせいだとしたら……?)
その答えは門の向こうにあるだろう。私達はお互いの背中を預け、周囲のどこから敵が出てきても対処出来るようにしつつ、街の門の所まで行った。
門の向こうには、街の大通りが見えていた。そこに人影は見えないが、火事で燃えた形跡もなかった。何が起これば、このような事になるのだろうか? 一瞬にして人が居なくなったらこうなるのだろうか?
門の側までついた私は、2メートルはあるだろう大きな門扉を押した。門扉は鉄の柵で作られていて錆びてはおらず、ぴかぴかと陽光を反射している。軽く押すと、キィという金属音をたてて門はゆっくりと開いていく。
この程度の軽い門で防衛の役に立つのだろうか? と疑問に思いつつ、空いた門をくぐって街の中に入った。
人気はなく、風の通る音しかしない。建物はまだ風化などしていないのに、人間だけが居なかった。いや、人間だけでなく、動物も。
「一度戻って、探知機を持ってこよう」
ここまできて、不気味さ以外に異常がなかった事から、最悪の事態は避けられた様だった。つまり、いきなりゾンビとメフィットが居てバトル開始、とならずに済んだという事。
船に戻り、ユミルから探知機を受け取るも、桟橋に船を着けるのは避けた。もし化け物達が居た時に、船に乗り込まれる事の方が怖い。
ユミルも一緒にいくと言ったが、安全とは到底言えない雰囲気だったので、待って貰う事にした。
そしてもう一度、探知機を持ちながら、街の中へと入る。
門を潜り、探知機を見ると、しっかりと左前の方を指していた。左右に動かしても同じ方向を指すという事は、かなり近いらしい。
無人の街ならそれでもいい、こんな不気味な所からは、頂く物を頂いてさっさと帰りたかった。
大通りを早足で駆け抜け、探知機がほぼ左を向いた所で角を曲がる。この先にドラゴンシャードがある筈……というべきか、あった。
「あれだ!」
路地の先に小さな噴水があり、その噴水の飾りに、青く光る宝石が輝いていた。噴水の側までかけより、探知機を動かして、確認する。探知機は間違いなくその宝石を指し続けていた。
「よし、これを貰って船に戻ろう」
私は宝石に手を伸ばし、軽く持ち上げると難なく宝石ははずれた。しかしその瞬間、ドクン、という空気の震える音がして、私達は皆、周りを見回した。
「な、何……この感じ……」
ドクン、ドクン、と空気が脈打っている。私がこのドラゴンシャードを引き抜いたからだろう。しかし、何が起こっているのか。
「とにかく船に!」
何かが起きる前にこの街を出よう。そう考え、細い路地を戻り、大通りに出た時だった。
「うわあああ!!!!」
通りはゾンビ達の群れで埋め尽くされていた。
路地裏から現れ、窓から現れ、ずるり、ずるりと、何も見ていない目でこちらを見ていた。どこか遠くの方で、教会の鐘がなりひびいた。ごおおぉぉぉぉん……という鈍い音。
その音が鳴り響くと同時に、ゾンビ達は突然、私達にむかって駆けだして来た。
「にゃにぃぃぃ!!!!」
「ひぃぃぃぃ!!!」
さすがのマイシャもこれには驚いて、目を丸くしていた。
大量のゾンビが、オリンピック選手の様に、両手を大きく振り上げて、全速力で襲ってくる。これほど恐ろしい光景を見た事は無かった。
「来ないで来ないで来ないでーーっ!!」
もう金持ちとかお嬢様とか、そういうレッテルを全てかなぐり捨てて、半泣きになりながら、片手でぷよぷよ棒を振り回しつつ、大通りを港の方へと走る。
周りではマイシャが呪文を放ち、シルメリルがゾンビを切り裂き、シズカが前方で血路を切り拓きながら走っていた。
実は、このぷよぷよ棒がぼよんと当たれば、ゾンビは光に還元されてしまうので、振り回している限りは私が一番安全なハズなのだが、そんな事実より大量の死体がハッスルして追いかけてくる事の方が怖すぎた。
「いやあああ! ひぎぃぃぃ!!!」




