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お嬢様、神様に会う


 エロじじいの意識は飛ばしたから、とりあえずこいつは良しとしよう。

 あとは魔方陣から出かかっているトカゲっぽい人形だった。


 あんまり触りたくなかったけど、とりあえず、もう出てこないように頭を抑えてみる。

 すると、ずぶずぶと下へ押し込む事が出来た。


「……ナ……ニ……ヤ……ツ……」


 破れたスピーカーから聞こえてくる雑音のような声で、目の前のトカゲ男が話す。

 きっとマイクもスピーカーも壊れているんだろう。

 そのまま、ぐいぐいと押し込もうとした時、そのトカゲが片手を伸ばしてきた。


「あっ!?」


 トカゲ男は長く黒い手を伸ばすと、私の胸をむんずと掴んできた。

 男らしいまでにおっぱい鷲掴みだった。


「こっ、こっ、こいつ……」


 今まで生きてきた人生において、ここまで堂々を胸を揉まれた事は無かった。

 さすがに全身が硬直し、自分の胸が触られているという感触に意識が集中する。

 途端にトカゲ男の手はずるり、と私の胸から滑り落ち、その手が魔方陣の中へと戻っていった。


「クソ……ツカム……トコロモ……ナイ……タイラナ……カベ……」


「んんなああんですってぇぇぇ!!!」


 あろう事か、この私のDカップの胸を掴んで揉んでおきながら、掴む所が無い平らな壁とか言うとは。もし私がAカップだったら悶死している所だった。


「地獄へ堕ちろ! このセクハラ野郎!!!」


 持っていたぷるぷるお仕置き棒で思いきり頭をぶっ飛ばした後、足で頭をガンガン踏みつけて、底へと沈めてやる。


「ググッ……ウウ……マ、マダパワーが……クソ……コヤツメ……」


 そう最後の言葉を残して、セクハラ悪魔は魔方陣の中へと沈んでいった。

 途端に魔方陣が明滅し始め、円周状におかれていた壺みたいな物が光を発する。

 何事かと周りを見ると、どうやらあの悪魔は私に一矢報いようと、この部屋にある小汚い壺を爆発させるつもりらしかった。


「爆発します! 勇者様! 私のおそばに!!!」


 慌ててマイシャの所まで行くと、彼女は私の身体を庇うように抱きよせる。

 彼女の身体自身から、白いオーラの様な光を発し始め、私達を包み込んでいく。


「にゃ、にゃああぁ!!!」


 マイシャの言う通り、目の前の魔方陣が爆発し、壺の中の何か汚い液体が中に飛び散った。

 魔方陣から垂直に紫色の光が立ち上り、天井を崩壊させていく。

 爆発音と振動に、私は耳を塞ぎ目を閉じて耐える事しか出来なかった。

 白い光の中で私の身体は軽くなり、そして心そのものを何かに掴まれ、無理矢理に引っ張られた様な感覚に、気分が悪くなった。




 その時、私は初めて、自分が本当に異世界に召喚されたのだ、という事を知った。

 私の身体は天高く舞い、眼下には広大な森が広がり、遠くには険しい山が見えた。

 そしてその山の近くには、ゲームで見た事のあるドラゴンらしき怪物が飛んでいた。


 このまま落ちていけば、死んでしまう。

 落下するスピードで息が上手く出来ず、呼吸困難になりかけていた。

 両手で口と鼻を押さえて、なんとか息をしようとするが、うまく出来ない。

 酸素が薄すぎるのかもしれない。


(いったい何なの……これは……どうしてこんな事に……)


 薄れ行く意識の中で、白い大きな鷹が私の方に飛んできて、その鋭い爪で身体を掴んできた。そこで私は気を失った。




「勇者様……勇者様……」


 聞き覚えのある声に呼び起こされて、目を開ける。

 今度は洞窟ではなく、真っ白な世界だった。

 地平線もないただの白い空間の所々に、黒い壁が立っている。


 身体を起こしてみると、マイシャがいて、隣に地球儀の様な機械が置かれていた。

 かちゃこん、かちゃこん……。

 その地球儀の中から何か機械が動いている様な音が聞こえてくる。


「今度はどこ……私、死んだ……?」


「いいえ、勇者様は見事に悪魔ソールメイズの召喚を妨害できました!」


「あ……そう……」


「見事な働きじゃった。テレポートがもう少し遅れていたから、二人とも消し飛んでおったな」


「神様、ありがとうございます」


「……神様?」


 今の老人の台詞は、マイシャの隣の地球儀から聞こえてきていた。

 私は左目を半ば閉じて、片眉を潜めてなんのことやら? という顔で地球儀を見る。


「こちらは審判の神様です。この世の死と生のバランスを司る神様です」


「はぁ……そう……」


 神様という存在を初めて見たけど……大したものではなかった。

 というか壊れかけの地球儀では、説得力というものが……。

 いや、今はもう、そんな事はどうでもいいか。


「えーと私は……悪魔を退治したから……帰ってもいいのよね?」


 マイシャというこの女に助けてと言われて、やれる事はやった。

 これ以上私に出来る事は無い。金持ちで名家のお嬢だが勇者の血はひいてない。


「西迅かみるどの。そなたがこの異世界へ召喚されたのは偶然ではないのだ。そなたは元の世界ではただの人間では無かった筈だ」


 かちゃこん、かちゃこん……。

 爺さんの声と重なって、機械の動く音が聞こえてくるのが何か気になる。


「まぁ……そうね」


「代々続く名家の血を引き、絶大な力とカリスマを持ち、実行力に長け統率力もある。運動神経も善く眉目秀麗、凡人とは一線を画す存在ではなかったか?」


「そ、そんな所かもしれないけど……」


「私は審判の神。言わばこの世の掟。この私に導かれたという事はそなたの役目は一つ。この世界のルールはそなただ!」


 ここまで美辞麗句を並べ立てられて悪い気はしない。でも、私には現実世界というとても大切な、こことは違う世界があった。私はその世界のルールになるべくして産まれてきたお嬢様なのだから。


「褒め殺しはその程度にして、家に帰して。学校に行かなきゃいけないの。私ね、あんたの言う通り、名家のお嬢様なの。だから遅刻とか絶対ダメなの」


「すいません、かみる様。悪魔ソールメイズを倒せたわけではないのです。だから、まだ帰って頂いては困ります」


「えっ? あれでまだ死んでないの? あれ以上の事は私には出来ないわよ?」


「あと少しでした。ソールメイズは身の危険を察して、あの洞窟ごと爆発させ、カミカゼストライクでかみる様の命を奪おうとしたのです」


「そ、そう……それならそれでいいじゃない。他の勇者を募って、頑張って倒しに行くといいよ。私より役に立って、こういう異世界で役に立ちたい人はいっぱい居るから」


「私は別に、異世界で伝説とか作らなくてもいいの。現実世界で普通につつがなく暮らすだけで、わりと伝説級な存在になれるし、裏世界とか牛耳ってみたいし、格好良く無くても良いから誠実で私の言いなりになる男が居たら、結婚して働かせるつもりだし」


「悪魔ソールメイズを倒すまでは、元の世界へ戻る事は出来んぞ」


 目の目でかちゃこんかちゃこん言いながら、他人事の様にそう言う神様が、なんとなく腹がたったので小突いた。


「なんかムカツク。その音がムカツク」


「おお、この神をも恐れぬ所行。そなたなら出来る筈じゃ。死の悪魔、ソールメイズを倒し、この世界に平和をもたらせてくれ」


 もう一回軽く小突いた時、目の前の景色が変わった。


「…………ふぅ……」


 ため息しか出なかった。結局元の世界に戻れなかった。よく分からないどこかの世界で悪魔を倒せと言われて拉致られたわけだ。ちょっと頑張れそうになかった。


 見回すとここは小さな教会で、むかつく事に壊れかけた地球儀が彫像として祭壇の上に祀られていた。


(かちゃこん、かちゃこんと音のしてた、あの壊れかけの丸いのは、本当に神様だったのね……)



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