お嬢様、異世界に招かれる
「なにこれ、デザインを著しく間違えた液晶テレビ?」
テレビならテレビで、見る側にもっと優しくしてやれ。と思いつつ、水晶の中に何が映っているのかをよく見ようとした。
すると、少女の声が聞こえてきた。
「……助けて……勇者……様……」
「……異世界の……方……」
そういう台詞が聞こえて、子供向けのテレビなんだろうなぁと思いつつ、首を傾げた。
「最近はこういうのが流行ってるの?」
その最近とはいつ頃で、一体どんな客層で流行っているというのか。
異世界の勇者なんて、今時パソコンつけたら一杯いるだろう。と思いつつ、水晶の中を更にのぞき込んだ時。
「んんんんっ!?」
酷い目眩に襲われて、私はそのままその場にひっくり返ってしまった。
自分が無様に転んだ、というのは分かったし、視界がぐるんぐるん回ったのも分かったが、全く身体の感覚がなく、痛みもなかった。
私は、異世界に召喚されてしまったのだった。
――なぜゆえに?
「うう……ここは……?」
「お目覚めになられましたか、勇者様!」
気がつくと、薄暗い洞窟の中に倒れていた。
まだ頭がくらくらして、立てそうにない。
目の前を見ると、一人の女の子が立っていた。
年齢は私と大差ない様に見えるが、着ている服は明らかに安物の布っ切れを、継ぎ接ぎして作ったコスプレ衣装だった。
「ここはどこ……あんた誰……」
「私は審判の神にお仕えしている僧侶、マイシャです。ここは悪魔ソールメイズの神殿です」
「……は?」
答えになっていない。ただでさえ頭がくらくらしているのに訳の分からない事を言われて、ひどくむかついた。
「あああ? 何? 何がどうしたって?」
頑張れ私、こんな事でいちいち怒ってはいけない。
相手はきっと現実を直視できない可哀想な女の子なのだ。
貧乏は時として人の心を破壊する事を、私はよく知っていた。
「勇者様、大丈夫ですか? 少しの間召喚酔いが続くと思います」
「……そう……もう一度……聞くけど、あんたは誰?」
「私はマイシャです」
「……マイシャ。それは、芸名とかハンドルネーム?」
「……なんですか? それは……」
「だから、あんたの本名は?」
「マイシャです! 審判の神にお仕えしている僧侶です」
「審判の神? 僧侶? あーーーーーーーーーー」
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
何かが私の中で破裂しようとしていたが、私はそれを必死で押さえ込んだ。
まず全てを受け入れよう。そこから少しずつ、目の前に居るアホの子をなんとかしよう。
「マイシャ、マイシャね。僧侶なのね」
「はい、そうです。混乱されるのも無理は無いと思いますので、簡単に説明します」
「……うん……そうして……」
「地獄から復活が悪魔しようとしてるのもう無理!助けて!いやああああ!!」
「まずお前が落ち着けやああああ!!!!」
「ひぎぃ!! 手遅れまであと数分も無いんです! 悪魔が出てきちゃううう!!」
マイシャという女の襟首を掴んで前後に揺すると、泣きながらそんな事を言う。
「悪魔って何なの? どこにいるの? どうすればいいの?」
「この洞窟の通路を進んだ先に、ジャッカスという悪い召還師が居て、悪魔を召喚しようとしているんです」
マイシャが指さした方には、暗い洞窟の通路が続いていた。
「もう魔方陣も完成して、悪魔の壺も満たされていて、今にも出てきそうなんです」
「とにかく悪魔をなんとかすればいいのね」
「お願いします、私も手伝いますので!」
とりあえずはこのアホの子を落ち着かせる為にも、言う事を聞いてみる事にする。
(最近の体験型アトラクションとか、そういう系? 凝り過ぎなのよ、ここまでする?)
洞窟の壁はまるで本物の岩で出来ていて、湿っていて気持ち悪かった。
制服にスニーカー姿なのに、どうしてこんな洞窟の中を歩かなきゃいけないのか。
色々と不満はあるけど、まずその悪魔? というのをなんとかするしかない。
「うっわ、趣味サイアク……」
洞窟を出るとそこは小さな広間になっていて、地面の上には赤く光る魔方陣が描かれていた。
正面の奥には小汚いハゲたオヤジが居て、呪文を唱えている。
B級のホラー映画でこんなのを見た事があった。
魔方陣の中心からは既に、何か黒いトカゲの頭部みたいなのが出てきている。
「何か武器とかないの? これ倒せば良いんでしょ?」
「はい、勇者様」
「なに? このぷるぷるした棒」
それは80センチぐらいの長さの、ぷよんぷよんとした棒だった。ちょっと見間違えるとアダルトでエッチなイケナイ棒にも見えかねない。
幸い、色は白く光っているので、白く光るぷるぷる棒、で済んでいた。
「聖なる祝福の力をもつお仕置きスタッフ棒です」
(仕方無い。とりあえず、あのお経みたいなのを唱えているハゲからなんとかしよう)
「おいおっさん」
「ん? 何だこの女は? 私の名はジャッカスだ。貴様、どこから入って来た?」
「あそこしか無いだろうが、他にどこか出口があるの?」
「うぬぬ! あと少しでソールメイズ様の召喚が完成するというのに邪魔しおって! 死ね! 小娘!」
「小娘って誰にむかって言ってんだこのジジイ! 西迅かみる様とよべや!」
「ぐうほっ!!! ブッフゥー!!」
いきなり他人を小娘呼ばわりしたあげく、両手を伸ばして身体を触ってこようとしたので、思いっきりお仕置き棒でぶんなぐってやった。
おっさんは三回転ほどきりもみ回転をして、横の方に吹き飛んでいく。
「くっ……下着を見せて油断させるとは、このあばずれめ……」
「私のぱんつ勝手に見てんじゃねぇ!!! このエロ親父め!」
床に手をついて、起き上がろうとしたハゲオヤジの所まで一足飛びに駆け寄ると、二度と口がきけないように三度ほど上から真下へお仕置き棒でボコ殴りにした。
ジャッカルとかいうオヤジが白目を剥いて倒れたのを確認した後、なんとなく、その白目で下からぱんつを覗きながらニヤついている様に見えたので、もう一発殴っておいた。