お嬢様、武装する
「悪魔はちゃんと討伐するわよ。そうしないと帰れないんでしょ?」
「はい。神様はかみる様が帰りたいと言ってもうんと言わないと思います」
「だいたい金持ちのお嬢様を異世界に呼ぶのが間違ってるのよ。どこで人選を間違えたのよ?」
「いえ、でも、きっと間違ってはいないんです。審判の神様はかみる様に言いました。お前がこの世界のルールになれ、と」
「そんな事、言ってたわね」
「そしてかみる様は、そんな方ですよね」
「くうぅっ……ゆえに私が選ばれし者という事なのね……」
思わずその場に四つん這いになって、やり場のない怒りに耐えた。
あの、かっちゃんこ地球儀の神様は人を見る目があった。人選に間違いは無かった。
だとして、果たして私で本当に悪魔を倒せると思っているのだろうか?
「やっぱさ、血気盛んな少年か青年を呼んできた方が良かったんじゃないかなー……後々語り継がれるだろう英雄譚の事を考えてもさー……異世界から来た勇者様はまずギャング団を作りましたとか、どうかと思うのよね」
なんて弱音を吐いてみたけど、誰も聞いてはくれなかった。
頑張れ私。負けるなかみる。西迅家の血は伊達ではない。
(この世界は女の子にとても厳しい……)
どうして箱入り娘の次女の私がこんな事になってしまったのか。
悔やんだところで明日は来ない。勝利は常に金と権力を手に入れた者にしか訪れない。
金を手に入れる努力! その金で繋がった友情! それが勝利への法則!
金の切れ目は縁の切れ目だと売れ線の少年誌も言っていた筈……よく読んでないから覚えてない。
「かみる様、元気を出して下さいね。マイシャはどこまでもお伴いたします」
「かみる様。俺もかみる様と結婚するまでは、いつでもどこでも追い続けます」
(レイトのそれはストーカーだから……)
「よーし。凹んでいても仕方が無い。私に出来る事をするのみよ! まずは金の流れを追うのよ!」
「いってきまーす!」
(これじゃ、ド○ンボー一味と大差ないなぁ……)
レイトは自分の仕事に責任を持って、アジトを飛び出していった。
そして残る私と僧侶とコボルド達。
「……結局、レイト一人に頑張らせちゃってるわね。結婚は無いけど下僕ぐらいにはしてあげようかしら」
「下僕でも十分喜ぶんじゃないでしょうか」
「マイシャって結構ドライよね」
「そうですか? 毎日裸を覗きに来て、そのあと一人でやる事やってから帰る男の子を相手に、これ以上優しくするべきですか?」
「ああ……いや……マイシャは優しいね、うん」
(覗かれているのを分かってて止めないというのは、慈悲に入るのだろうか……)
少なくとも私は嫌だった。
「あ、コボ三兄弟。コボルドスニーカーズって怖い?」
部屋の隅で謎のゲームを遊んでいる三人にそう尋ねると、彼らから笑顔が消えた。
「怖い」
「あいつらコボルド食べる」
「コボルドスニーカーズは、コボルドの皮で出来た靴って意味」
コボルドは弱肉強食において、敗者の方らしい。
「コボルドを食べるやつなんているの? 怪物?」
「オーガー! あいつら人間も食う!」
「オーガー……そこの棚にモンスター辞典があると思うんだ。買ってきておいたの。とってとって」
コボルドの一匹が棚から大きな辞典を取り出し、一生懸命抱えて運んできてくれた。
どすん、と音をたてて分厚い本がテーブルの上に置かれ、私はその図鑑のページをめくる。
「えーと……オーガーまたはオグル。身長3メートル。人肉を食べる。巨人族の一種。レイジ、つまりブチギレ能力を持っている。大体は悪」
イラストも乗っているが、カバとゴリラを足した様な姿だった。これはコボルドなんて一口で食べてしまいそうだ。しかも、こんなガタイのいい奴に、女の私がキック一発入れた所で、効きそうにない。
「まずいなぁ……こいつと戦うなら、武器が要るわよね」
「武器ってこれですか?」
マイシャが悪魔退治の時につかった、ぷるぷる棒を差し出した。
「これって、このオーガーにも効くの?」
「効きますよ。神様の力でぶっ飛ばすんですから、何にでも効きます」
「そんな便利なぷるぷる棒だったんだ」
私には、長ロングサイズの大人のジョークグッズにしか見えない。
これを振り回している女子高生というのは、絵としてはどうなのだろうか。
(決して格好良くは無いなぁ……)
「もうちょっと、武器ってものについて勉強しよう……」
レイトが情報収集してる間に、本屋に行って武器の本を買ってくる事にした。
「かみる様……これは一体……」
「武器、色々買ってきたわ」
「これはリピーティングライトクロスボウ、こちらはリピーティングヘビークロスボウ、こちらはリターニングクナイ……遠隔攻撃がお好みですか?」
「剣とか持って振り回したら、ぱんつ丸見えになるからイヤ」
「既に散々、色んなものを蹴り飛ばしてませんか?」
「仕方なかったの! 武器あれば撃ってるし投げてるし! ダーツはとても得意だけどダーツって毒とか塗らないとあんまり強くないよって、この本にも書いてるし」
「『簡単な射撃武器』ですか……『基礎の剣術』とかの本は要らないんですか?」
「格闘技と暗殺術と剣術は幼少時からプロに仕込まれております」
「すごい! やっぱり、かみる様って来るべくして来られた方の様な気がします」
「でもね、それらは人間相手の知識なので、悪魔には効かないと思うの。特にオーガとかいう化け物には」
「ああ……たしかにオーガーには、射撃武器はとても良いと思います。石の壁でも壊すぐらいの腕力がありますから」
「とりあえずー、ヘビークロスボウってのは、重いから持ちたくない! このライトクロスボウにしよっと」
この連射弓は良くできていて、横についてる歯車を回してカチッという音がしたら、あとは引き金を引けば三発のクロスボウボルトが発射される。どこに飛んで行くかはわりと大雑把だけど、それは私のスキルがないから仕方無い。とにかく当たればいいのだ。
それらの武器の手入れをしていると、ようやくレイトが戻ってきた。
「うわ、すごいですね。本格的だ」
机の上に並べられている武器を見て、レイトがめずらしく普通の事を言った。
なんだか面白くない。どうでもいいけど。
「金の流れは分かった?」
「はい。いよいよ黒幕登場ですね。王室貴族の一人、ゴールドワンという男がこの王都の酒に関しての事を全て操っています」
「輸入も在庫管理も取引相手も、税制まで全てゴールドワンが牛耳っています。そしてそのお抱えの一味がコボルドスニーカーズです」
「んー……貴族かぁ……」
遅かれ早かれ派閥とやりあうのは予想出来ていたけど、日本という国に比べるとここは底が浅い。大ボスが居て、その下請けが居て、二次、三次受けがいてという重厚な上下関係によって権力者は守られるものだ。
「ここさ、王都って言うけど……この国ってどのぐらいの大きさがあるの?」
「ここは都市国家ですから、この都がそのまま国ですよ」
「あ、なんだ。そんなに小さい国なんだ。じゃあ大した事無いか」
「かみる様の住んでおられた国は大きかったのですか?」
「面積自体は、世界から比べたら小さいけど、こういう街が47個ぐらいあって、一つの国になってる」
「かみる様は、ものすごい大国から来られたんですね!」
「いや、世界はもっともっと広いから」
「じゃあ私達の世界はとっても小さいんですか?」
「世界は広いんじゃないのかなぁ? 私に聞かれてもよくわからないよう……今は、ここの王様は、それほど大きな国の王様じゃないって事がわかっただけ」
「はぁ」
私の言っている事は、この二人には理解出来ないらしい。でも私だって、世界は広いなんて幼少時に言われても、実感なんて出来なかった。やっぱりテレビとかがないと、世界がどうなってるかなんて、分からないと思う。




