お嬢様、冒険の仲間を捜す(予定)
歓楽街に入ると、学生服姿では目立ちすぎるので、麻で作った地味なフードを頭からかぶっていく事にした。
様々な酒屋があるが、どれも所謂、赤提灯系飲み屋であり、酒と料理を提供する店ばかりだった。しかしながら娼婦達が居ないわけではなく、それらしい格好をしながら街角に立っているのが見える。
冒険者の男達がそれらの女性と路地裏へと入っていくのを見ながら、どこの世界でも似た様なものだと再確認する。
そしていくつかの酒場をはしごして、冒険者という人間達を探してみたのだが……。
(なんて言うか……違う)
そう感じて、誰にも声をかけなかった。
酒場での流れというのはこんな感じだ。まずしんみりと、酒と料理を一人で食べる。酒場のあちこちには、同じ目的で仲間を捜す為に来た奴らが居て、それぞれ一人で座っている。
そのうち景気のいい顔をした客が入ってくる。何かをして儲けた奴だ。そいつが仲間と共に今日の英雄譚を自慢げに話す。ただし200%ぐらい大げさに。そしたら、お前は凄腕なんだなと言いつつ、一人で飲んでいた奴が声をかける。そこで馬があえば、そのまま飲み交わし、一緒に旅をしようじゃないかという事になる。そりが合わないなら、さっさと席を離れる。
時には一人で飲んでいる奴に、他の誰かが声をかける事もあったが、大抵はうまくいかない。それぞれの目的が噛み合わないからだ。
そんな中、とりあえず軽食とジュースを飲みながら暇を潰して聞き耳を立てていた。しかし、一体誰を仲間にすればいいのか。どうしていい気になってる奴のご機嫌を私がとらなきゃいけないのか。
ここに金があるから、てめーらは大人しく私の言う事を聞け、というのが私のやりたい事だった。マイシャの様に懇願して力になって下さい、というのは私の性格では出来なかった。
(時間の無駄だ……かえろ……)
と席を立った時、一つだけ有益な情報が耳に入った。
「メルリエルって娼婦は気をつけろ、偽物だぞ。金だけとって逃げるから騙されるな」
娼婦の中にもそういう詐欺師は当然居る。女が手っ取り早く金を稼ぐには娼婦まがいの事をすればいい。ただし、捕まったら何をされるか分からないが。
(メルリエルか……金が必要なら、ここにあるよお……)
「レイト。今のメルリエルって女について、調べてきて。私は酒場を回ってそいつが居ないか見回ってみる」
「わかりました。かみる様」
二手に分かれ、私は酒場を回ってみるも、手がかり無し。それどころから女一人で歩いていると、いくらでも声をかけられる。勿論私一人ではなく、他の女達も男達の呼びかけを無視していた。
「ねぇ、あなた。私と組まない?」
「ある酒場で一人で暇を潰していると、珍しく女性が声をかけてきた」
「仕事の内容は?」
「男達を色仕掛けでさそって、お金だけ頂いちゃうの」
「……メルリエルならお断りだ。名前がばれすぎてる」
「ああ……あの子は幻術師だから、なんでもやり放題なのよ。魔法使いって良いわよね。私は普通の女だから、誰かと組むしかないのよ」
「ごめんね、今日は仕事で来てるから。空いてる時にまた誘って」
「あら、その可愛らしい顔で何の仕事?」
「スニーカーズのお手伝い」
「ス、スニーカーズさん……ね……お邪魔しました……」
その言葉を出しただけで、美人局はさっさと退散していった。メルリエルが幻術師だという情報が手に入ったのは幸運だった。なるほど魔法で客を騙して、その間に逃げてしまうのだろう。そんな事をされたら、客の方だって警戒するのは当然だった。
夜も更けてきて、酒場のいくつかは閉店し、冒険者達と思われる武器を携えた人達も少なくってきた。あとは朝まで飲むコースの客が残るだけだろう。これ以上ここにいても仕方無かった。
(レイトはまだか……先に帰るか)
ぐるり、と辺りを見回してみて、レイトの姿が見当たらないのを確認してから、歓楽街を出て地下のアジトに戻った。
アジトに戻るとマイシャがコボルド達と部屋の掃除をしていた。
「コボルドは掃除が得意じゃない。何かをとってくるとか、何かをやっつけるとか、そういう仕事もしたい」
「そのうちそういう仕事もあると思いますから、今日は掃除をして下さい」
「はーい」
これはこれでうまくやれている様だった。
「マイシャ、ただいま」
「おかえりなさい、レイトさんは一緒じゃなかったんですか?」
「ちょっと情報を仕入れてもらってる。戻るまで待つしかないね」
今日は帰らないかもしれない、と思いつつアジトで待っていると、皆が寝静まった明け方頃にレイトは帰ってきたらしかった。
鍵の開く音と扉の開く音が聞きつつ、ウトウトとしていた。
身の危険を感じたら飛び起きるつもりでいたが、そのような気配はなく、翌日までそのまま寝てしまった。
「おはよう……帰ってたんだ?」
「かみる様、おはようございます。えーと、色々あるので、朝食の後にでも」
「うん」
このアジトから出て、少し町の方に歩けば、身体を洗う事が出来る場所がある。勿論、周りからは見えまくるので、こそこそと物陰に隠れながら身体を洗うのだが、それでも近場にこういう場所があるのはありがたかった。一通り身体を洗ってアジトに戻ると、レイトがまずこう言った。
「お金を払えば公衆浴場がありますよ」
「マジで!? なんでそれを言わないの!」
「すいません、言えば良かったですね。普通の人はわざわざお金を払ってまで湯浴みなんてしないんですよ。治安も悪いし男女共同ですし、貴族達が騒ぐ所ですからね」
「貴族達ってお風呂で騒ぐの?」
「火をくべて石を焼いて、そこに水をかけて水蒸気を部屋中に満たすんです。その中でお酒や食事をしながら、身体を洗いあったりするんです」
「サウナなんだ……しかも混浴で洗いっことか……無いなぁ……」
それでも風呂という物があるのには驚いた。
「ええと、幻術師メルリエルについてなんですが……」
レイトが集めてきてくれた情報は、多岐に渡り、とても細かい物だった。
まず、常に魔法を自分自身にかけていて、本当の姿を見た者が居ない。
当然、色気のある美女に変装して、男を誘い、どこかの個室に入ると、幻術を使って惑わされている間に有り金全部盗んで逃げてしまう。
メルリエルという名で客引きをする事はなく、ローグギルドのコボルドスニーカーズ達に盗品を売りつける為、身元がばれている。
スニーカーズ達はメルリエルが稼ぎ手なので、詐欺行為は放置し、逃げる時は助ける事もある。
「まーた、ギャング絡みかぁ……結局は、そうなのよねぇ。金の裏には悪い奴がいるのよ」
「これは確かな情報ではないんですが、そのメルリエルが働いている理由は金儲けではなく、何か弱みを握られているかららしいです」
ワイン業者と密輸にも絡むスニーカーズ。そして詐欺の娼婦にも絡んでいる。
チョーカーはコボルドのごろつき達に過ぎなかった。盗みや嫌がらせ、コボルド達が乱痴気騒ぎをするのがメインだった。
時には無抵抗な弱い都民を狙って殺しもしていた様だが、冒険者達の様な手練れ相手にケンカを売る事は無かった。と三人組からは聞いている。
それに比べると、スニーカーズは本格的な裏業者だった。
「コボルドスニーカーズのパトロンは誰なのかを調べよう」
「つまり、金の流れを追いますか?」
「そうね。酒の密輸と、その酒がどの酒場に流れているか。娼婦達をまとめている奴がきっといてアガリを集金してるはず。それらの金が誰かに流れていると思うわ」
「かみる様はすごいですね。どうしてそんなにお詳しいんですか?」
「……この世界に来なければ、その道のプロになろうとしていたからよ」
「はぁ……そうだったんですか……それでなんだか悪魔を討伐する目的から、ちょっとずつ寄り道しちゃうんですね」




