お嬢様、大金を盗む
見事に門前払いをされてしまったが、今度はそうはいかない。脅して金を取るのはやめにして、一夜明けたら金庫の中の稼ぎを全部頂く。これこそローグギルドって奴だ。
金庫の中が空っぽになったのを見た時、あのオヤジは顔を真っ赤にして怒り出すだろう。
それを想像するだけでも愉快だった。
「では、売り上げが入る三日後に、盗みに入りましょう」
「OKボス。コボ達はなにをすればいい?」
「えっと……コボ達は……お留守番かな?」
「わかった! お留守番! 留守は俺達が守る!」
「おー!」
可愛いんだけど、全く頼りになりそうにないこの三匹のコボルドは、彼らなりに頑張るつもりらしかった。
(とりあえず、レイトよりは強いみたいだし……)
それからその日ぐらしをしつつ三日後、盗みに関しては私とレイトで入る事にした。
マイシャは一度教会に戻って、身支度を調えたいと言って戻っていった。
決行日の夜中。ワイン屋の裏の扉からレイトが鍵を外して地下倉庫に入る。
地下倉庫には売れば高値になるワインがずらりと並んでいたが、今日はそれが目的じゃない。
倉庫の中を忍び足で歩き、そして家の中へ通じる扉を開ける。
部屋の中に明かりは灯っていない。人気もない。まずは一階に出て、様子をうかがう。
どの部屋にも人が居ないのを確認してから二階へ。
二階には家族の住む部屋が二つあり、その一つから明かりが漏れていた。女性が計算をする声が聞こえてきている所から、帳簿でもつけているのだろう。その前を音を立てずに通り過ぎ、三階への階段を昇る。
しかし、ここでレイトが待て、と私に指示をした。
階段を昇ると、微かにキィと床板がきしむ音がする。その音が帳簿をつけている女性に聞こえてしまうのだった。
今は気付かれていない。このまま女性が眠るのを待つか、或いは女性を気絶させてしまうか。しかし、気絶させてしまうと盗人である私達に関する情報を与えてしまう事になる。だから、そのまま三階の階段の登り口で待つ事にした。
「!!」
二階で待っているといきなり扉が開き、中からカンテラを持った女性が廊下に姿を現した。万事休す。こうなったら女性を気絶させるしかない、と身構えたが、女性は階下へと降りていく。
もしも彼女が三階へ昇ろうと、こちらを向いていたら私達は見つかっていた。
帳簿をつけている女性が居ない今が、階段を昇るチャンスだった。
体重を乗せると音がするので、階段の端ギリギリにつま先をのせ、なるべく音がしない様に気をつけながら三階へ昇る。
三階まで昇ると扉が一つあった。このワイン屋の店主の部屋だった。
レイトが鍵を開けて、先に中に忍び込む。そして安全を確認してから、私にも入る様に指図する。
ワイン屋のオヤジはよく眠っていた。
このオヤジは朝早くワイン農場へ働きにいく為、今時が一番深い眠りについている時だった。
金庫は、オヤジの部屋の端においてあるタンスの引き出しの中だった。
豪華なタンスの一番上に、鍵付きの開き扉がついている。
まずはそれを開けると、両開きの扉の中には、100枚ほどの紙幣と宝石箱があった。
(宝石も盗りますか? かなり溜め込んでると思いますよ?)
(いや、宝石は要らない。金だけにしよう)
目的を終えた私達は、元通りにタンスの扉を閉め、下への階段は使わずに窓の鍵をあけて、外に出た。
下に戻って女性と鉢合わせするのはまずかったし、あの女性が二階と一階を往復していた間は盗人なんて居なかった、という証言にも繋がる。
私達は窓縁からとなりの家のベランダに飛び移り、そこからその家の屋根に登ると、まんまとワイン屋のオヤジの家を後にした。
「こいつはすごい! 140万ほどありますよ! これだけあれば5年は遊んでくらせます」
「へぇ、随分溜め込んでたんだな。さぁ、明日になって、オヤジが驚くのが楽しみだ」
なんて気楽に考えてたのだが、数日後、私達はとんでもないニュースを聞く事になってしまった。
「K&Wのオヤジが殺されたそうです」
トラスワンのアジトに帰ってきたレイトが、悲痛な顔でそう言った。
「誰に? どうして?」
「コボルドスニーカーズっていうローギグルドがあるんですよ。このスニーカーズとネックハンガーズってギルドはかなりヤバイギルドなんですが……」
「俺達が盗んだ金は、酒の密輸をして得た金だったみたいです。そして酒を密輸したのはコボルドスニーカーズというローグギルドです」
「私、ローグギルドって、もっとクリーンなイメージがあったんだけど、この街のローグギルドってほとんどギャングなのね」
「うーん、どうでしょう。まず王都ってのがまずいんですよ。とても広いから一つのローグギルドではとても支配下にはおけない。そして王様と貴族達がいるからローグギルドが裏世界を仕切る訳にもいかない」
「ああ、結局は裏世界の話になるんだ」
「コボルドスニーカーズは酒場関係を仕切っていて、ネックハンガーズは暗殺とか裏世界のプロです。麻薬や奴隷商売にも手を出してます」
「私達が金を盗んだってのは、ばれてない?」
「ばれてたらもうここに奴らが来てますよ。ばれてないからオヤジが詰め腹を切らされたんでしょう」
「じゃあ、この金は遊びに使うんじゃなく、コボルドスニーカーズをやっつける為の軍資金にしないといけないね」
「や、やっつけるつもりなんですか!」
「そりゃあ、この街の裏世界を支配下におく為には、倒すしかないし」
「……あの、かみる様……」
聞き覚えのある声に振り向くと、マイシャが帰ってきていた。
「あ、お帰り。戸締まりしてきた?」
「あの、えっと、そんな事より……悪魔ソールメイズを倒すという話はどこへ……」
「だから、もっと強固な組織を作るのよ。コボルド3匹じゃ、まだ戦力不足でしょ?」
「えっと、あの、冒険者を捜した方が、いいのではないですか……お金も手に入った事ですし……」
言われてみれば確かにそうだ。
街の悪をやっつけて構成員を増やすより、傭兵を雇った方が即戦力が手に入る。
「マイシャの言う通りだな。よし、この金は酒場に行って冒険者を雇う資金にしよう」
「よかった! お願いします、かみる様!」
そもそも、教会でマイシャと話をした時も、街の酒場で冒険者を捜そうという事になっていた。
それをすっかり忘れてローグギルドなんか立ち上げてしまった。
ギルドとしては金持ちから大金を盗むという仕事をやってのけたが、そのおかげで街の裏世界に足を踏み入れる事になりそうだった。
(ごめんなさい神様。かみる、ちょっと調子に乗ってました)
そう反省しつつ、下水道から表に出て歓楽街へと出る。
マイシャはアジトで留守番を頼んだ。一緒に連れてきたら、誰彼構わず声をかけそうで怖かった。私は自分の気に入らない奴に合わせてやる程、心は広くないのだ。
(……という事は、私はレイトとマイシャの事を気に入っているのかな……)
それは気に入っているというのではなく、ギリギリで我慢しているだけの様な気がした。




