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井戸の蓋  作者: と〜や
2/4

母校

 十年ぶりに訪れた母校は、昔よりさらに近代化されていて、周りの土地まで買収して拡大されていた。昔はなかった体育館も、プールもできていた。

 そういや募金のお願いとか来てたっけ。金がないから全無視してたけど。

「こっちだ」

 平井の誘導に従って俺は教員棟の玄関で靴を脱いだ。

 入り口でなんか書かされて、ネームタグを首から下げる。まるでどこぞの企業の入門手続きと、もはや変わらないんだな。昔は卒業生はフリーパスで構内に入れたのになぁ。

 それにしてもさすが私立、金かけてる。廊下でさえエアコンが聞いてて涼しい。通った頃にはなかった鉄筋の教員棟、実験棟。それらを物珍しそうに眺めながら、記憶にあった木造校舎の位置を重ねて行く。

 購買のあった木造校舎ももちろん潰されている。

 階段を上がって三階に上がると、平井は躊躇なく職員室の扉を開いた。

「こんにちはー」

「お久しぶりです」

 夏休みだというのに、教師の出席率がいい。今日は登校日じゃないはずだが、やはり教師に夏休みはないのだろうか。

 顔見知りの教師は残念ながら今日は来ていないらしい。見覚えのない若い先生や白髪頭の先生ばかりだ。

「すんません、校長先生は?」

 近くの先生に聞くと、どうやら校長室にいるらしい。

 僕らは四階に上がった。

 校長室はさすがの平井もノックした。返事があって、足を踏み入れる。

「お久しぶりです、紫村先生」

「おお、君らか。悪いね、わざわざ呼びつけて」

 いえ、と言いながら、俺は十年ぶりの紫村先生を観察した。さすがに苦労してるのだろう、顔の皺も増え、白髪の量もごっそり増えている。髪の毛の量は昔と大して変わらずふさふさだが。

「で、問題の井戸ってのは?」

 先生は窓際に立つと俺らを手招きした。

「あれだよ」

 そこには――昔と変わらず赤銅色の分厚い鉄板の乗った井戸の跡があった。

「この間、合宿していた子たちがあれを見たらしくてね」

 十二年前と同じものを、と先生は言外に匂わせる。

「合宿って、あの茶室、まだ残ってるんですか?」

「ああ、あの一棟だけはそのまま残してるんだよ。まあ、エアコンとかは入れてあるけど、ほぼ昔のままだ」

「それ、先生もみたんですか?」

「……そうなんだよ。ちょっと前に夜中までここで仕事していたらね、いきなり重たいものが転がる音がして、気になって下を見たら……」

 両手をぶらっと垂れ下がらせて、先生は青い顔になっている。

「で、見に行ったんですか?」

「いや……他に誰もいなくてね、警備員を呼んでから見に行ったんだけど、何も変わってなかった」

「警備員がきたのはどれくらいあとですか?」

「三十分ぐらいだったと思う」

「その間、ここから見てたんですか?」

「……まさか、呪われたらどうする」

 意外とこの先生、呪いとかお化けとか信じる人らしい。

「他にはありませんか? そういった噂」

「グラウンドの火の玉はもう最近はしょっちゅうだねえ。お盆も近いし。木造校舎が減ってからは他の目撃話は聞いてないけど」

「……分かりました。それで、俺らはどうしたらいいんです?」

「夜に様子を見まわって貰いたいんだ。昔と同じように茶室と風呂は使えるようにしてあるから」

「わかりました」

「えっ、俺は家すぐそこだし……」

「……一人で見回りさせる気か。何かあって俺が死んでもいいってことだな?」

「わ、わかったよ。付き合うよ」

「すまんがよろしく頼む。必要なら鍵と、セキュリティキーを準備しておこう」

 及び腰な平井と俺は、茶室に泊まることになった。

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