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井戸の蓋  作者: と〜や
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発端

「なあ、知ってるか?」

 悪友の平井が枝豆を片手に口を開いた。今日はいつもの居酒屋でなく、故郷の駅前にある、友人がやってる小料理店だ。

「なんだよいきなり」

 俺は次に頼む日本酒を選びながら聞いている。

「おまえ、卒業してから母校に行ったか?」

「いや?」

 平井と俺とは中高大と、合計十年間の同級生である。出身地もそれほど遠くなく、中高時代、越境通学していた俺は電車通学、平井は徒歩五分の距離だった。

 放課後はよく平井の家に集まって色々遊んだものだ。悪戯もいっぱいしたっけな。

 高校卒業後はそっち方面に行くきっかけもなく、近くを通ったことすらない。

「この間の連休にちらっと遊びに行ったんだけど、その時に紫村先生に捕まってな。紫村先生、覚えてるだろ?」

「ああ」

 古文担当のおっとりしたナイスミドルだった。女子にも男子にも結構高評価で、嫌ってる奴はいなかったと思う。

「今は高等学校の校長先生だ」

「へえ。まあ、人望あったしな」

「いや、どうもあの先生、理事長の血筋だったらしいよ。理事長が死んで、跡継ぎ騒動があったらしいんだけど、結局あの先生が理事長職も兼務してるって」

 なんだ、結構どろどろしてたんだ、あの学校。表向きそうは見えなかったんだけどなあ。教員も生徒もわりとおっとりした学校だったし、まあ私立だったから授業料は高かったけど、居心地は悪くなかった。

「で?」

「なんでか知らないんだけどさぁ、おまえを呼べないかっていきなり言われたんだよ」

「……はぁ?」

 俺の学生時代は比較的波風も立てず、成績も中の中、取り立てて悪評もなければ好評もない、中庸な学生だったはずで、あの先生ともあまり接点はなかった。まあ、女学生の中にはあの先生が好きで、事あるごとにアタックしてたのもいたんだけど。

「なんで今さら俺を呼び出すわけ?」

「んー、なんでも怪談話がどうのって」

 俺は平静を装って日本酒の追加を注文し、徳利に残っていた酒を杯に流し込む。

 怪談話……引っかかることがないわけじゃない。

 十二年前の夏のことだろうが、それをなんであの先生が知ってるんだ?

「確かさぁ、おまえ、文芸部だったよな?」

「……昔の話だな」

「だから昔の話をしてんだろうがっ。おまえにもらった文芸部の冊子、俺まだ大事に取ってるんだぜ?」

 頼むから可及的速やかに廃棄してくれ。そして記憶からも抹消してくれ。

「高校一年のときだっけ、合宿したよな。面白そうだから俺もついてったの、覚えてる」

 ……ああ、覚えてる。あの年は文芸部員の人数が足りなくて、国語の成績のいいやつ何人かにヘルプ頼んだんだよな。でも平井はろくなもん書き上げなくて、部長に端から没食らってたんだよな。

「茶道部の部室借りてやったな」

 当時の俺らの校舎はまだ半分以上が木造で、その一角に茶道部専用の広い茶室がしつらえてあった。三十畳敷の和室なんて、普通の学校にはないよな。布団もかび臭いけど二十組あって、学内での合宿にはよく利用されていたのが分かる。

 茶室のカーテンがあちこち破れてて、夜になるとその隙間から外が見えて気持ち悪かったのもよく覚えてる。

「で、風呂が用務員室の横にあってさ、風呂もらって帰る途中の道が木造校舎の外をぐるっと回らないと帰れなくて、懐中電灯がなかったら足元踏み外しそうなくらい真っ暗だったよな」

「ああ」

「その途中でグランドの方が見えるんだけどさぁ、あっちっていろいろ噂があったろ? 鬱蒼と木が茂ってるし、築百年とかいう講堂とか木造のクラブ棟とかあってさ。火の玉の目撃証言多かったよな」

 そうだった。よく肝試しにも使ったコースなんだよな。グランドの辺りは元々墓場で、学校を作る時に潰したとかで、学校自体が有名な肝試しスポットだったし。

「その途中に井戸があったの、覚えてるか?」

「ああ」

「俺らが通ってた頃は鉄板の蓋がされてたよな。この間行った時は木造校舎は一棟だけ残して全部鉄筋になっててさ。でも、あの井戸はそのままそこに残されてて、ちょうど教員棟から見下ろせる場所にあるんだけど」

 大体何が言いたいのか分かった。

「……出たんだそうだよ、また」

「何が」

 努めて平静を装って。

「幽霊がさ」

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