5「旅立ちの一歩手前」
魔王の十柱を、七柱に変更しました。少し多すぎると思ったので
おそらく全部修正されていると思います。
シェルム達と初対面を果たしてから、かれこれ9年が経過した。
それはつまり俺が13歳になったことを意味する。
9年間、俺はそれなりに熱心に鍛錬を行った。
ナイフの練習、魔法の練習、どれも身になっていくのが楽しく、手を抜くことなど考えられなかった。
そしてついに……
「さて、お前の決断を聞こうか」
「……」
俺はルシファー母さんの玉座の前に立っていた。
13歳になった今、俺はかつて解答を渋った答えを言わなければいけない。
「このまま行けば、お前はセシルの納める学園に通うことになる。だがもちろん強制なんてしない。だからお前の考えを聞きたいんだ」
この日のためにずっと考えてはいた。
けど決心は変わらない。
「俺は――――――――旅に出るよ、母さん」
「……そうか!」
母さんは笑った。
俺はどうしても世界を見てみたい。
学園に行っても、数年後卒業すれば同じことは出来るだろう。
けど、試したい。
今の俺はどこまで行けるのか、試したい。
「それにさ、学園だったら15歳からでも入れるでしょ? それを知ったとき、改めて旅をしていいと思ったんだ」
「そうだな。お前なら途中から入学しても大丈夫だろう」
セシルさんの学校は名門だ。
当然、生徒の質もいい。
でも俺だって世界最強に英才教育を受けているんだ。
何年ブランクがあろうが、そう簡単には負ける気がしない。
「よし、分かった。ならば今は身体を休めて、最後の試験を待つといい」
「最後の試験?」
「ふっ……今に分かる」
そう言い残し、母さんは玉座から霧となって消えた。
……何その魔法、俺習ってないよ?
◆◆◆
「ふーーーー!」
場所は変わって俺の自室。
豪華な装飾が施された部屋ではあるのだけれど、壁や天井の色なんかの禍々しい部分が、見事に装飾品を無駄にしている。
まあ10年過ごせば流石に慣れるというもの、逆に壁がすごい綺麗になったりしたら、それはそれで気持ち悪いと感じるのだろう。
仕込んでいたナイフたちを外し、念のため持っていた短剣を太ももから外す。
どれも使い込まれている感じが出ており、しっかりと手に馴染む。
俺の努力が目に見えるようで、少し嬉しい。
今俺の体は、目標に到達したことで強い達成感に包まれている。
ようやく母さんに認められるくらいの強さを得られた、これほど嬉しいことはない。
けど問題はこれからな予感がする。
気を引き締めて、今は言われた通りに休もう。
◆◆◆
どれくらい寝ただろうか
起き上がって体をほぐし、異常がないことを確かめる。
寝る前に寝巻に着替えていたので、できるだけ動きやすいものを心掛けて服を選ぶ。
結局冒険者の服になるんだよね。
黒いマントの下や、少し幅に余裕のある七分丈のズボンにナイフを仕込み、短剣を背中に取り付ける。
試験って言っていた、万全を期して行こう。
王の間の巨大な禍々しい扉を開けると、一番奥にいかにも魔王といった感じで座る母さんの姿が見えた。
まあさっきも見たけど。
その少し後ろにジジイが優しげな表情で立ち、母さんの前の通り道を、残る魔王五柱の内4人が膝をついて囲んでいた。
最後の一人はいない。いつものことである。
俺はためらいなく囲まれている中心へと足を運んだ。
それを確認した母さんが、カリスマあふれる口調で俺に声を放つ。
「よくぞここまで大きくなったな、ハル。私は母としても魔族の長としても最高の喜びを感じている」
「ありがと」
堅苦しいのは嫌いだ。
「ふっ……。そして、ここまで成長したことへの褒美と、見聞を広げるという意味を込めて、お前の旅立ちを許可しよう」
「うん」
「それにしても、もしかしてこの本を買った時からそう思ってたのか?」
ガクッとしてしまいそうになるほど急にカリスマが霧散し、その手に持っているのは9年前に買った「旅」という本。
何か色々台無しだ。
「っていうか俺の部屋勝手にあさったな!?」
「うん、定期的に。な、レティ?」
え? レティも?
「はい、定期的に掃除と称し性的な本の捜索を行っております」
「おい……」
「その結果、一か月に二冊ペースで数が増えていくのが確認できました」
レティはそう言いながら、どこからか本を取り出し広げ始める。
どれも秘蔵の我がコレクションであった……。
「これは三か月前、これに至りましては2年前であり、この汚れが目立つ獣人の裸体の本は9年前から」
「やめてくれぇ!」
俺のライフが0になる! 0になる!
「不思議だな……あれからハルは一度も魔王城から出てないはずなのに……」
母さんがその辺に目ざとく気付く。
その瞬間にサタナキアとタナスが目をそらした
そんな二人が一斉に目を背け、冷や汗を流している……。
露骨すぎる…俺の協力者ってことがバレバレじゃないか!
そんな二人にジト目を向けるアガリア……さん。怖い。
「まあ大方サタナキアやタナスが協力して本を買ってきてたんだろうな~とは思ってたが」
母さんはニヤニヤしながら言う。
おい二人とも俺たちがばれないように買ってくるとか言っといて……すっごいばれてるじゃんか嘘つきぃ。
「私が話を広げてしまったのですが、そろそろ本題に……」
おっとここで出来るメイドさんのレティが軌道修正してくれた。
母さんは「ごほんっ」と一度咳払いをし、それに応じてその場の全員が姿勢を正す。
「話はそれたが、もう一度だけ聞く。お前は旅に出たいか?」
何度も答えた質問だった。
俺は魔王の息子だ。
途中で妥協したり、諦めたりすることは多分許されない。
だからこの質問は、覚悟があるかどうかを聞いてるんだろう。
「行くよ、まだ見たことないものがこの世界にはたくさんあるんだ」
この城以外だと、俺はエメラードにしか足を運んでいない。
だから、この世界をもっと見たい。
本音を言うならば、せっかくの異世界を楽しみたい。
「ハルならそういうと思ったぞ! よし! ならば試験だ!」
「よしこい!」
「旅とあれば迷宮潜りは常識だ!ということで、最終テストは――――――――――
――――――――SS級迷宮! 《魔宮》だ! 行って来い!」
「え、まじか」
嫌な予感がした瞬間、俺の視界は白色に包まれた。