3「少女との出会い」
ナイフ訓練を始めてからもう一年がたち、ようやく四歳になった。つまりは現在だ。
ナイフ使い宣言をし、ある程度の訓練を積みながらのんびり頑張っていたある日のこと、今ではかなりの魔法の技術もついて、ナイフ投げの精密さもかなりスムーズになってきた。
そんな俺に対して、修練場で突然声をかけてきたフィーネル母さんは、さらに唐突にこう言い放った。
「ハル! エメラードに行くぞ!」
あまりにも唐突過ぎるでしょう……。
◆◆◆
はい、と言う訳で私ハルは空を飛んでいます。
空はとても青く、雲一つない晴天。
お外に出ないともったいない!
……にしても高すぎるけどね。
なぜこうなったか、まず母さんの元に、かつて母さんが世界征服(笑)に乗り出した時に戦った人から手紙が届いたそうだ。
東に位置するエメラードから、この南に位置するラピスラージまで手紙が届くのは、最低でも一ヶ月はかかるのだけれど、その手紙は普通の手紙輸送量に比べて倍近くのお金が払われており、要は特急便扱いで送られてきていたみたい。
その手紙に書かれていた日付が1週間前だったのだから、間違いはないだろう。
んで、そんな急ぎの手紙の内容はと言うと、
「あいつの子供ってどんなかな~♪」
となりを飛んでいる母さんが弾んだ声で言う。
まああれだ、その手紙の内容は、友人からのお茶のお誘いだったんだ。
どうやら相手方にも子供がいるらしく、俺と同い年(肉体年齢)の女の子だそうだ。
その子の紹介もしたいらしい。
それに合わせて母さんも、俺のことを紹介したくなったらしい。
……で、待ち合わせの日はかなり近く、すでに船では間に合わなかったため、今はエメラードまで風魔法で飛んでいる。
風に押された俺と母さんの体は、前世で言ったら飛行機と変わらない速度が出ているはずだ。
ちなみにこの魔法はA級ほどの技術が問われる。
俺は自覚なかったけど、相当精密なコントロールが必要らしい。
例え飛行機と同じ速さで飛んでいるとはいえ、海を渡って違う大陸へ向かうにも時間が必要だ。
かれこれ6時間は飛んでいる気がする。
ようやく着いたころには、すでに日も暮れていた。
着いた街は夜なのに活気に満ち溢れていた。
東京ともいい勝負するのではなかろうか……。
この街は人間の住む大陸でもかなりの大きさを誇る「グラプス」という街だ。
ここの大きな見どころは、魔法使いを育成する学校、「魔法学園」があるという所だと母さんは言った。
やっぱりあったな魔法学校……。
なかでもこの街の「グラプス大魔法学園」は、大陸でも一番の大きさを持つ学校で、生徒数は5000人強。
毎年多くの優秀な魔法使いを世に送り出しているそうだ。
まあ優秀扱いされる者の8割ほどが人間の貴族の子供らしい。
金があればあるほど優秀な魔法使いを教師として雇ったりもできて、家庭教師なんかもしてもらえる。 優秀なのが育つ訳だよね。
けれど今回の目的は学園ではない。
約束のお茶会は明日。
そのため夜でも取れる宿に泊まり、約束の当日になれば、時間になるまで指定場所の周りでショッピングだ。
特に何事も無く次の日になり、俺たちは予定通り街を回っていた。
俺は母さんとはぐれぬよう手をつないでもらいながら近くの店を見て回る。
補足として、母さんは頭の角を引っ込めて、いつもの魔王っぽいマントなどを全部外していた。
角が引っ込んだことには少し驚いたけれど、そうする理由を聞くと、単純に目立って嫌だからという理由らしい。
まあ一度侵略してるしね。
俺もやり方を教わって実行している。
ちなみにこれから会う人は、侵略時に母さんと一騎打ちをし、人間ながらかなりのダメージを与えた人だそうだ。
それで気に入った母さんが強引に酒の場に誘い、友達になったとのこと。
「約束の時間まであと一時間ってとこか……ハルはどこか見たい店はあるか?」
母さんが近くに立てかけられていた時計を見て言う。
この世界の時間は地球と一緒の定義だったのでかなり助かった。
「うーん……お昼も一緒に食べるんでしょ? じゃあ特に見るものはないかなぁ」
「そっか。ふむ、それなら本屋にでも行くとするか!」
母さんが指をさす。その先には中々に大きい本屋さんがあった。
「何か欲しい本でもあるの?」
「いや、ハルが何か欲しい本でもあれば買ってやろうと思ってな」
「え、マジ?」
「ああ、別に卑猥なものでもいいから、適当に好きなもの買っていいぞ」
なん……だと……?
「あるの!? ……じゃなかった! いらないよ、そんなの」
こちとら幼稚園児と同い年じゃボケ。
「ハルのいた世界ではどうなのかは知らないが、こっちの世界では普通にあるぞ? 基本的にどの本屋でも手軽に買える」
なにぃ!? なんていい世界なんだ!
「それにハルは確か17歳で転生したんだから、今21歳。溜まるものもあるだろう」
ねぇよそんなもん。
ピクリともしないから。
「……」
だが否定はしきれない。
アガリアやメイドのレティを見ていると、ムラムラしてしまうのは男として仕方がないと思う。
息子はまったく反応しないんだけどね……俺の息子も転生しちゃったからね! なんつって!
つまんな。
けれどこっちの世界のエロ本という物にも興味がある。
まさかアガリアやレティにエロ本の代わりになってくれとは頼めない。
てかそんな誰も頼めるわけないだろ。
と言う訳でいいのがあったら買ってもらうとしよう。
仕方なくね。
理由が雑? こまけぇことはいいんだよ。
結局買ってもらったのは面白そうだった「英雄物語」という冒険小説と、将来旅とかもしたいな~と言うことで「旅」というそのまんまの本を一冊。
そして「獣人族の生態が載っている本」を買ってもらった。
ちなみに正式名称ではない。
この本はあれだ、やっぱりネコミミうんぬんは萌えるよね!
よーく考えたら、俺母さんに所持エロ本を把握されてんのか。
え、なにそれやだ。
「よし、そろそろ行くかぁ!」
豪快に叫んだ母さんの手を握り、約束の店へ歩き出す。
本を選んでいたらすっかり時間になってしまっていたのだ。
時間少し前に着いた約束の店は、とにかくおしゃれで豪華だった。
こりゃ相手方相当金持ちだな
ま、母さんとまともに戦える実力があれば、金がない方が不思議だけどね。
この世界の強い者はギルドとかからも引っ張りだこらしいし。
中に入ると、とても可愛いなウエイトレスさんが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ! 二名様でございますか?」
「いや、待ち合わせだ」
「かしこまりました! お名前を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
「ルシファー」
「ルシファー様ですね! えっと……VIP席にいらっしゃる「セシル・エルリント」様との待ち合わせでお間違いないでしょうか?」
「ああ、その人」
「かしこまりました! それではこちらへどうぞ!」
そう言って案内されたのは、ファミレスのような店内ではなく、とても豪華な装飾のされた名前の通りVIP席だった。
席と言うよりは室だけれど。
「ごゆっくりどうぞ!」
ウエイトレスさんはそう言って仕事に戻っていった。
そして、その部屋に居た二人のうち、大人の金髪超絶美人でダイナマイトボディを持つ女性が口を開いた。
「久しぶりね、ルシファー。元気してた?」
「久しぶりだなセシル! そっちこそ元気してたか?」
二人とも嬉しそうに話しだした。
相当楽しみにしていたみたいだ。
そんなセシルと呼ばれたダイナマイトボディさんが、俺に気づいた。
「あら、そちらの子は?」
「ん? ああ。この子は私の息子のハルだ」
「ハルです。今年で四歳になりました」
四歳(大嘘)。
「まあフィーネルの息子!? しかも家の子と同い年じゃない! ほら「シェルム」挨拶しなさい」
セシルさんが促すと、それまでちょこんと座っていた女の子が口を開いた。
「シェ、シェルム・エルリントです……四歳です」
少し緊張した趣きで答えた少女、シェルム。
母親譲りっぽい綺麗な金髪を持っていて、子供ながら将来確実に美人になることがわかる顔立ちをしている。
ぶっちゃけ、この子が成長したら、完璧に俺のストライゾーンを貫いてくる
そんな予感がした。