2「剣と魔法」
あれから、俺が心から母さんの息子になってから、早4年がたった。
4年間で俺はたくさんのことを教えてもらった。
主に母さんの部下たちから。
俺の住んでいる魔王城には、魔族が数百人暮らしている。
それは世界の大半の魔族がここにいることになる。
魔族というものは元々スフェールの中でもかなりの強さをほこる種族だ。
単純に体も魔力も、人なんかと比べれば頑丈で、豊富。
怪力などを持つ種族からすれば、魔族の筋力も大したことなくなるが、それでも魔力でねじ伏せることが出来る。
もっとも、どの種族でも鍛え方次第で魔族を圧倒するそうだ。
もちろん反対に魔族も鍛え方次第では無敵になれる。
俺は魔王の種を持っていたとしても赤ん坊だから、歩けるようになる前からめちゃくちゃ勉強した。
魔王ルシファーを支える六柱による英才教育を受けたんだ。
まずこの世界に存在する戦闘術、魔法と剣術だ。
二つを同時進行で学んでいった。
魔法を教えてくれたのは、魔王の五柱の一人、アガリア。
アガリアは母さんに負けず劣らずの美貌の持ち主で、紫髪の長髪が美しかった。
そしていつ見てもローブを着ているから、もうザ・魔法使いって感じ。
アガリアの授業の様子を紹介しよう。
「ではハル様、まず魔法の種類について学びましょう。」
「種類?」
「はい、魔法には、それぞれ属性魔法、無属性魔法とあり、属性魔法は単純に火や水、風に雷と言ったようなものを扱う魔法です。無属性はそれ以外になります。身体を強化する魔法も無属性です」
「へぇ……」
「次に魔法のランクです。ランクは全部で7段階、E・D・C・B・A・S・SSの7段階です。」
「SSランクが一番強いの?」
「その通りです。ただしSSランクは――――――」
俺は毎日こうして授業を受けた。
アガリアの専門は属性魔法だったから、それを熱心に教えてくれた。
そのおかげもあって、3歳の時点でAランク魔法を使いこなせるようになっていた。
ちなみにAランクの属性魔法は、使いどころ間違えたらとんでもない被害が出るレベルだった。
この世界ではCランク魔法を使いこなせるようになれば「魔法使い」を名乗れるようだ。
アガリア曰く、俺はもう高ランクの魔法使いとしてやっていけるとのこと。
身体に恵まれていて、SSランクを扱うことが出来る先生についてもらったとは言え、やっぱりうれしい。
学校の授業のように、学ぶ科目と先生を変えて、俺は順調に魔法を覚えていった。
世渡りの仕方を五柱の一人、魔族なのに神官の格好をした女たらし、サタナキアが。
無属性魔法を、五柱の一人であり、青い髪のメイドさんであるレティが。
無属性魔法には生活に必要なものも多くあり、これだけで相当便利なことが出来るようになった。
他の魔族たちも、暇があれば多くのことを俺に教えてくれた。
教えてくれた魔族たちは、俺を「ハル坊ちゃん」と呼び、めちゃくちゃ可愛がってくれる。
とてもいい人たちで、俺にとってはみんな家族みたいで毎日が楽しかった。
いい先生に恵まれ、俺は属性魔法をAランク。
無属性魔法はBの上まで習得した。
そして剣術、教えてくれたのは五柱の一人、タナス。
背が高く、顔も少々中性的で、美男子という感じの赤い髪の青年だった。
だけど筋肉は引き締まっていて、初心者目から見ても美しい。
そんな訳で剣術を学び始めたはいいものの……。
「うーん……ハル坊ちゃんはあんまり剣術の才能自体がないかもね~。」
「うぇ!?」
突然タナスがそう言い放った。
確か3歳くらいの時だ。
改めてはっきり言われるとショックを受けたけれど、実は才能がないのには気づいていた。
何というか……剣が一向に手に馴染まないんだ。
「2歳くらいから振り始めたのに、未だ馴染まないっていうのは割と真剣に才能の問題だと思うよ?」
「……でも一応魔王の種を俺持ってるんだよ?」
母さんの部屋には常に禍々しい剣が置かれていた。
どうやら母さん愛用の剣らしい。
そしてそれは母さんが、魔王が剣術を使うということに繋がるんじゃないだろうか?
母さんが使えるなら、その種を受けた俺だって扱えるんじゃないだろうか?
「いや、ルシファー様は剣術全く出来ないよ?」
「……はい?」
「だって剣術なんか使わなくても、あの剣を魔王の力で一振りすれば立ってられる奴なんてそうは居ないからね。そもそも剣術を扱う必要がないんだよ。」
母さんパネェな。
それから数週間剣術の練習をしたが、一向に上達しない。
そこで俺は発想の転換をすることにした。
「剣術が使えないなら使わなきゃいいじゃない」
と言う訳で、俺は剣術の練習をやめた。
でも勘違いしないでほしい、別に諦めたわけじゃないんだ。
ほんとだよ?
それでも真っ当に使えないならば他の手段を取るしかない、ならばこの世界ではじゃどうな戦い方に手を出してみようじゃないか。
さっそく三刀流に挑戦、しかし上手く口で剣を持てず断念。
断念したあと、特に意味もなく10本近い剣を用意した。
俺はそれを城の庭に並べてにらめっこする。
とりあえず数が多ければいいってもんじゃないことはすぐわかった。
無属性魔法である「キネシス」で浮かせて弄んでみるけど、元々こういう使い方じゃないためか、動きが鈍いし到底戦いじゃ使えない。
また俺は発想を変えた。
今度はナイフを十本、それらは長くても30センチに届かないほどの長さで、剣に比べてこう言っては なんだけれど、やっぱり見劣りしてしまう。
まあいい、実用性を選ぼう。
俺はナイフをキネシスで浮かせると、少し離れた位置にある剣術の訓練用案山子に向けて、両手で一本ずつ掴みとり、投げた。
魔族の腕力で投げられたそれは確かな威力を持って案山子に向かい、深くその刀身をめり込ませる。
だがそれも一本だけ。
もう片方は案山子の横を掠めて後方の地面に刺さっている。
「うーん……命中率は悪そう。でも陽動にはなる……かな?」
なにも真っ向からナイフで戦う必要はないんだ。
相手に接近するときや、逆に距離を取る場面じゃこのナイフだけでも十分かもしれない。
それに常にこうして浮かべておけばやり方次第で防御にも使えるし、今のこの小さな体なら、むしろ剣よりもナイフで懐に飛び込んで戦うほうがはるかにマシかもしれない。
「よし、俺はこのスタイルで行こう」
こうして俺は、憧れていた剣を捨て、とことん現実的だったナイフを選ぶのだった。
糸ってかっこよくないですか?
次回はヒロイン(一人目?)が登場です。