神様
サラ女王との謁見が終わり、王宮の廊下をダンと歩いていた。出立が明日になったため、部屋に戻るところだった。
そこに前方から手を振って走ってくる雪が見えた。
「武蔵くーん、そっちは終わったのー?私のギフト、すごいよー」
女王との謁見の最中、雪には王宮礼拝堂に行ってもらっていた。雪のギフトが何か調べるためだ。雪の後ろから神官が追いかけてきた。
「雪さーん、説明がまだ終わっていませーん」
どうやら、説明を聞くのに飽きた雪が逃げ出したようだ。武蔵はため息をついた。
「ま、その、あれだな。お前の彼女は自由奔放だな」
ダンが笑いながら言った。武蔵は頭を抱えた。
「冗談はやめてください。ただの幼馴染ですから……」
そんな会話をしていた二人の元に、雪がたどり着いた。軽く息を弾ませていたが、言いたいことがあるため、目は輝いていた。
「私のギフト、二つあって、一つは人間以外と“話す”ことができるんだって。これで殺人事件の真犯人を凶器から聞き放題だよ」
「身近に殺人事件が起きてたまるか。それと警察のお仕事を横取りするな」
雪のボケに軽くツッコミを入れた。雪も武蔵と同様に二つのギフトを持っているようだ。物から話が訊ければ、この世界での活動に役に立ちそうだ。
「で、もう一つは何だった?」
ダンが興味深げに聞いてきた。
「何かできるわけじゃないけど、“神様”の御加護だって」
雪が胸を張って答えた。
「ぶふぁっ!すごいじゃないか!!」
ダンが吹いた。若干、唾が飛んだが、すべてよけた。もしかして、俺の早く動くギフトが作動したのか。こんなことで初作動はいやだと武蔵は思った。
「すごいでしょー」
なおも胸を張る雪。神様の御加護というのがどのくらいすごいのか、いまいちわからない。
「そんなにすごいのか?」
武蔵はダンにどのくらいすごいのか聞いた。
「神様憑きのギフトはこの国でも数人しか確認できていないぞ。前に話した総団長のギフトの一つが神様憑きで、“軍神”が憑いている。武力であの人に勝てる人間はいない」
「めちゃくちゃ強そうだな……」
「総団長って、マッチョマン?」
俺と雪はそれぞれ感想を口にした。そこに、雪を追いかけていた神官が到着した。
「やっと追いつきました。雪さん、説明は最後まで聞いてください」
「すみません、雪にはちゃんと言い聞かせますので……」
雪に代わり、いつも通り武蔵が謝った。口をとがらせている雪を横目に、神官が落ち着くのを待った。
神官は膝に手を当て、前かがみになって切らした息を整えていた。
「雪さんの神様は“厄病神”様です。本来、神様憑きは、この王都“セリアージュ”にある神殿に居てほしいのですが、神様が“厄病神”様なので、同じ場所にとどまることがないよう、お願いします」
過去、最大級の不安要素がここに現れた。今まで巻き込まれ続けたのは雪に“厄病神”様がついていたからなのか。
「ギフトとして“厄病神”が憑いた人間は過去に居ますか?」
息が整った神官に武蔵は聞いた。
「過去に“貧乏神”が憑いた方はいました。その方が留まった家や街は財政がかなり傾いたので、終生、旅をし続けたと記録に残っています」
思わず、武蔵は天を見た。雪にはこの王宮で待っていてもらい、過去の英雄の跡を辿る旅は、一人(サラ女王の条件でプラス一人)で行こうと思っていた。何かやらかすのではという不安があったためだ。
だが、一か所に留まると、“厄病神”が力を発揮してしまうのであれば、旅をしなければならない。
「手数をかけて悪いんだけど、旅の支度は二人分にしてもらえないか」
武蔵はダンに言った。神様のギフトで気分が高まっていたはずのダンはいつの間にか、落ち着いていた。“軍神”レベルの神様憑きと思っていたら、“厄病神”レベルはベクトルが違いすぎる。
「あぁ、わかった。二人分用意するように伝えよう」
出立を前にして、不安要素しか増えなかったが、気心しれた人間が一緒なら、旅も楽しくなるかもしれない。武蔵は前向きに考えることにした。
翌朝、支度金と一部の魔獣対策の装備一式(簡易胸当てとダガー)をもらい、王宮の門に武蔵と雪はいた。
サラ女王が条件として付けたもう一人を待っていた。
しばらくして、王宮から一人の女性が歩いてきた。青い軍服を着て、長い金髪を後ろにひとまとめにしていた。
「アメリア=バンフィールドと申します。道中、よろしくお願いします」
武蔵と雪はそれぞれ簡単に自己紹介をした。それにうなづきながらアメリアは聞いた。第一印象としては三人とも悪くはなかった。
こうして王都“セリアージュ”出発を出発した