プロローグ
プロローグ
20XX年5月29日——
《緊急ニュース速報です》
《本日21時頃、東京都港区、東京タワー付近の地下において、突如として巨大な空洞が出現しました》
《周辺では道路や建物の一部が陥没しており、内部からは未確認の生物と見られる反応が複数確認されています》
《また、現場の奥深くでは、自然界のものとは明らかに異なる発光現象や、現代科学では説明のつかないエネルギー反応も観測されています》
《政府は総理官邸に対策本部を設置し、自衛隊の災害派遣を決定しました》
《付近の住民は、係員の誘導に従って直ちに避難してください》
このニュースは、世間を騒がせた。
その後も、連日のように特番や情報番組で取り上げられていた。
《これは、我々の常識では説明できません。まさに“異世界”です》
《突入した調査隊の一部が、現在も戻っていないとの情報が入っています》
《複数人が内部に入ったとの情報がありますが、現在もその実態は確認できていないようです》
《また、数時間後には北海道や埼玉県内でも、同様の空洞が出現したとの情報が入っています》
《一体ダンジョンの中に何があるのか、謎は深まるばかりです》
誰もが半信半疑だった。
けれど、テレビの向こうに映る光景は、どう見ても現実だった。
その日を境に、私達の世界は、少しずつ異世界に侵食されていた。
私の名前は神崎 明音。
4月28日生まれの17歳・AB型の女子高生。
平凡な女子高生だった私が、まさかダンジョンを攻略することになるとは、この時は思いもしなかった。
◇◇
20XX年6月25日——
今日は学校が急遽休みになった。
原因はいつもの異世界絡みだった。
どうやら高校の近くに新たなダンジョンが現れたらしく、緊急避難という名目で休みになっていた。
こういうことも、最近では珍しくなくなってきた。
家のソファで寝転びながらYouTubeを眺めていると、トップ画面はダンジョン絡みのサムネで埋め尽くされていた。
私の大好きなYouTuber『GOスマイル竹田ちゃんねる』のたけちゃんも、ダンジョン企画をやっていた。
【【緊急生配信‼︎】異世界ダンジョンに突入します‼︎】
ちょうどこれから始まるみたい。
興味本位で生配信を見てみることにした。
配信の冒頭、たけちゃんはダンジョンの解説から、内部の仕組みまで、いつもの調子で事細かに説明していた。
どうやらダンジョンには、銃や兵器などの現代科学が通用しない魔物が現れるらしい。
怖っ。
だから、普通の人間では攻略できない。
“一部の選ばれた人間”のみが“異界の力”を使って、ダンジョンを攻略できるようだ。
選ばれた人間のスマホには、ある日突然【異世界】というタイトルのアプリが表示される。
そこをタップすると、ジョブやスキル、武器、仲間といった異世界の力を手に入れることができるらしい。
「…………あった」
いつも使うアプリなんて決まっているから、私は全然気づかなかったけど、私のスマホにもそれは確かに存在していた。
画面の端に、見覚えのないアイコン。
黒い背景に、白い文字で【異世界】。
いつからあったのかは分からない。
ただ、気づいた時にはそこにあった。
私は一旦タップすることをやめて、たけちゃんの生配信の続きを見てみることにした。
すると、生配信はダンジョン進行の途中で急遽中断してしまった。
何の前触れもなく、画面が真っ暗になる。
コメント欄は一気に騒がしくなった。
『え?』
『切れた?』
『電波?』
『たけちゃん大丈夫?』
『これガチでヤバいやつ?』
私も少しだけ不安になった。
でも、きっとダンジョンの奥は電波が通ってないんだろう。
その程度で考えていた。
スマホ画面に表示されているそのアイコンを見ながら、しばらくぼーっと考えてみたけど、やっぱり気になる。
多少の不安はあったけど、【異世界】と表示されているアプリを使ってみることにした。
深く息を吸い込んで、「よしっ!」と気合いを入れてから画面をタップした。
《異世界へようこそ》
何やらゲーム画面のような表示が現れた。
私、ゲーム苦手なんだよなぁ。
《早速ですが、チュートリアルを始めますか?》
《YES / NO》
少し迷ったけど、私はYESを選択した。
《では次に、ジョブ鑑定を行います》
《読み込み中——》
なにそれ……?
《完了いたしました》
《あなたのジョブは【Fランク:カラーレスシーフ】です》
Fランクって……ハズレ……だよね?
ジョブって、職業のことかな?
というか、カラーレスシーフ。
名前からして、なんか弱そう。
《次に、武器ガチャを行います》
これは知ってる。
たけちゃんも、この手のゲームにたくさん課金してたなぁ。
《レバーを引いてください》
ここは一番強い装備を引いて、ちゃちゃっと攻略できる状態にしたい。
私は気合いを入れて、画面上のレバーを引いてみる。
派手なモーションが始まった。
無数の剣が画面の中で回転し、上空へ飛んでいく。
そして、空が割れた。
虹色。
これって、良い感じなんじゃない?
画面が虹色の光に包まれると、金色の扉が現れた。
《扉を開けてください》
その文字は虹色に輝いていた。
これって、たぶん良いやつだと思う。
なんか緊張してきた。
画面をタップすると、ガチャッとゆっくり扉が開き、生成された武器が表示された。
《おめでとうございます‼︎ SSSレア装備【月下美人(短剣)】をGETしました‼︎》
「やった‼︎」
私は思わず目を輝かせた。
私の好きなたけちゃんも、きっとこの感覚を掴むために課金してたのね。
そんな勝手な解釈が頭をよぎった。
次の瞬間、スマホの画面から三十センチほどの短剣が現れた。
私はその短剣を恐る恐る掴み取る。
「鋭いッ……あぶなッ!」
手の中にある短剣は、ずっしりと重かった。
スマホの中のゲーム画面ではなく、現実に。
月下美人。
名前は綺麗なのに、普通に危ない。
こんなご時世だから、銃刀法違反とかには……ならないよね?
正直、全く現実味がなかったけど、この時初めて、私は異世界に足を踏み込んだ実感が湧いた。
《続きまして、仲間ガチャを行います》
仲間ガチャ?
もしかして、私が戦わなくても良いのかな。
それならかなり嬉しいんだけど……。
《レバーを引いてください》
ここは続けて強い仲間を狙いたい!
えいっ!
《異世界の住人【エルフ♀】GET‼︎》
これは……どうなんだろう。
そして仲間ガチャは、何のモーションやエフェクトもないのね。
そう思った直後、スマホ画面から光が溢れた。
その光の中から、ひとりの女性が現れる。
白銀の髪に、緑色の瞳。
すらりとした長身で、耳は私の三倍くらいありそうなくらい長い。
まさに、エルフだった。
待って……めちゃくちゃかわいい!
表情、立ち振る舞い、美しいシルエット。
その全てが尊い。
そして、私を見て微笑む彼女に、緊張でつい目線を逸らしてしまった。
「初めまして、アカネ様。どうか私に名前を付けてください」
「ご、ごめんなさい。その前に一つだけお願いしても良いですか?」
「良いですよ?」
「さ、触ってみても良いですか? あっ、変な意味じゃなくて! 本当にここにいるのかなって!」
めちゃくちゃ変なことを聞いてるのは分かってるけど、好奇心を抑えきれなかった。
「はい、喜んで」
エルフの女性は、ニコッと笑顔を見せてくれた。
私は目線を逸らしながら、腕と肩をポンポンと優しく触れた。
本物だ!体温も感じる。
ふと我に返り、名前を決めることにした。
でも、彼女を見た瞬間の印象で、名前は迷わず決まっていた。
「名前、『ローズ』にします!」
「素敵な名前ですね。気に入りました。これからはローズとお呼びください」
「よろしくね、ローズ」
ローズが見せる笑顔は、ダンジョンへの不安を忘れさせてくれた。
その直後、スマホの画面が私に呼びかけた。
《仲間の名前決定を確認しました》
《続けて、これから攻略していくダンジョンについての説明を行います》
ここはかなり長かったので省略するけど。
要は、剣と魔法とスキルと仲間で上手いこと攻略してください的な説明だった。
簡単に言うよね。
ダンジョンは不定期に、不特定の場所に現れ、現在出現しているダンジョンの数、難易度、位置はアプリから確認ができるみたい。
確認すると、日本だけじゃなく、海外の各地にもかなりのダンジョンが表示されていた。
その数、四十八件。
既にクリア済みダンジョンもいくつか存在していた。
だけど、その全てはダンジョンランクEランクとDランクのみ。
それ以上のクリア報告は現時点では無かった。
さらに、ステータス表示もアプリ内からいつでも確認できるらしい。
さっそく見てみることにした。
◆◆◆
[ステータス表示]
神崎 明音
ジョブ:無色の盗賊Lv1
ジョブランク:F
武器:月下美人[攻撃力180 ]
[特殊効果①:攻撃・俊敏+10]
[特殊効果②:瀕死時にスキル【華分身】発動]
HP30 / MP20
攻撃:3+10
賢さ:3
体力:2
俊敏:9+10
運良:8
固有スキル
固有魔法
クラスチェンジ条件
Lv15到達
◆◆◆
[仲間ステータス表示]
ローズ
ジョブ:星のエルフ族♀ Lv30
武器:エルフの弓[攻撃力110]
[特殊効果: スキル使用時、威力増加]
HP350 / MP170
攻撃:51
賢さ:62
体力:48
俊敏:69
運良:55
固有スキル
【アローレイン Lv10】
【ロングレンジショット Lv10】
EXスキル
【流星群】
【銀河の矢】
固有魔法
【ヒール Lv10】
【リカバリー Lv10】
クラスチェンジ条件
【失われた女王の髪飾り】の取得
◆◆◆
ステータスを見比べて、私はすぐに理解した。
ローズ、強すぎない?
私の何倍とかいうレベルではない。
きっと、ローズを引いたことが一番の大当たりだったのかもしれない。
そう思った時、スマホ画面が再び光った。
《チュートリアルダンジョンを開始しますか?》
《YES / NO》
早速……戦うのね。
でも、もしHPがゼロになったら、私はどうなるんだろう。
そんな不安が胸の奥に浮かぶ。
「大丈夫です、アカネ様。私がついています」
ローズは、私の不安な表情を見て慰めてくれたのかもしれない。
その言葉に、少しだけ心がほっとした。
怖くないっていったら嘘になるけど、ローズと二人ならきっと上手くいく!
私は少し迷いながらYESを選択した。
《では、チュートリアルダンジョンへ転送します》




