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フェイタル・リンク・ハッピーエンド−異世界転生は咎人を救うのか−  作者: 紗雪あや


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見知らぬ森での遭難(4/4)


「さて、じゃあ僕は狼煙の材料になる木を集めてくるけど、アベルは……」


と、そこまで言ったところでアベルのお腹がクゥゥ……と可愛らしい音を立てた。

そういえばアベルは朝から何も食べていなかった。屋台の買い食いは結局しなかったし、カフェでも注文の品が届く前に転移してしまった。たくさん遊び歩いた後でアクシデントに見舞われて、ようやく落ち着いてきたところなのだ、緊張が緩んでお腹が鳴ったところで何ら不思議はない。

真っ赤になって俯くアベルに気にしてないよと笑ってから、彼をその場において森の中に入った。

進みながら、目についたところに落ちていた枝を拾い集める。生木も必要だけど、着火には乾いた枝があった方がいい。枝を抱えて何度かアベルのもとへ戻っては拾いに行くことを繰り返し、近くに沢があることを確認してから十分な量の枝を集めた。


「狼煙って結構大変なんですね」

「そうだね、本来はもっと大がかりだし使うものも木の枝じゃないから、これは本当に簡易的なものだけど、それでも僕達だけだと楽にはいかないね」


こういう時は文明の利器、発煙筒が欲しくなる。ないものねだりではあるのだが。

拾ってきた枝を格子状に積んでいく。何本かある生木に近い枝なら水分も多く含まれているし、狼煙になる煙も十分に出てくれるだろう。

いっそ魔法が使える事もバレてるのだからちょっとくらい伐採してしまっても、とも思ったが、僕がアベルに見せたのは水魔法だけだ。あまり複数属性使える事を知られるのは良くない気がするのでやめた。

枝をこすり合わせるふりをしてこっそり火魔法で着火すると、パチパチと火の粉を散らしながら枝が燃え始めた。弱々しいながらも白い煙が上がり始める。


「さてと。僕もお腹がすいてきたし、ついでに食料も確保したいね」


枝を拾うついでに桃も二個もぎ取ってきた。いい香りをさせていたので甘く熟しているはずだ。だけど、せっかく川なのだから魚も食べたい。


「アベルは魚って食べられる?」

「食べられますけど……もしかして釣るんですか?」


首を傾げるアベルに違うよと首を横に振る。さすがに釣り道具は持っていないし、魚釣りの経験は僕にない。

不思議そうにしているアベルの目の前で、川の水面にそっと手を浸す。キラキラと光を反射する水は、そこで泳ぐ魚を確認できるくらいに澄んでいる。


「水魔法って、こういう使い方もできるんだよ」


言って水の中に振動を与える。しばらく細かい振動を絶えず与えていくと、やがて振動で気絶した魚がぷかりと水面に浮かんできた。


「わ、すごい……」

「その場にある水を動かすだけの初級レベルの魔法だけど、こういうシンプルな魔法はいくらでもアレンジが効いて便利だよね」


そのアレンジが普通はできないのだ、と以前ノアに言われたような気もするが、そうは言ってもできる人にはできるだろう。きっと。

靴を脱いで浅瀬に入ると、浮かんでいる魚を拾い上げ、そこから食べられそうな川魚を選別していく。食べないものはそのまま放置しておけば、そのうち意識も戻るだろう。

二匹あれば十分だろうか、いやアベルも食べ盛りの子供だし多めにとっておいた方がいいかもしれない。都市内ですぐに救援が来るとは思うものの、今日の彼はまだ屋台料理を食べていなかったし、おそらく昼食を食べ損ねている。

そうしてチョイスした魚を持って焚き火の前に戻るとアベルの前で下準備を始めた。

まず魚の口に木の枝を二本差し込んで、クルクルと回して内臓を絡め引き抜く。これは前世の職場でアウトドアが趣味の人から教えてもらった、釣った魚の簡単な下処理方法だ。つぼ抜き、と言うそうだ。そして内臓を抜いた魚を枝で串刺しにすると、焚き火の傍にそっと差し込む。こう、いかにもサバイバルですと言わんばかりの絵面に、不謹慎ながら少しだけ楽しくなってしまう。

見ればアベルもその非日常感満載な光景に目を輝かせていた。


「森の中での方角の確認に、狼煙に、魚の調理に、先輩って何でもできるんですね」

「どれも偶然知識として知っていただけだよ、実践するのは僕も初めてだし」


それに魚は下処理しただけだ。塩を振ってるわけでもないし、正直なところ美味しく焼ける保証はない。喜ぶのはまだ早すぎる。ここから一気に黒焦げにしたりするギャグみたいなアクシデントだってあり得るのだ。

まぁ、それはそれで平時ならアウトドアの醍醐味なのかもしれないが。

……いや。今はアベルと共に森に迷い込んではいるが、そこまで危機的な状況でもない。ある意味では平時とも言えなくもない、かもしれない。


「なんだか、非日常って感じがしてちょっとワクワクしますね」

「そうだね……ああそうだ、良かったらアベルも試しにやってみるか?」

「いいんですか!?」

「これなら刃物を使うわけでもないし、怪我の危険はないだろうからね。本当は王子様にやらせたら駄目な類の作業だけど、こういうのは何事も経験だ。ああでも、できれば他の人には内緒にしてくれると助かるかな」

「はい、ありがとうございます先輩!」


少しくらいはいいのかもしれない。

この、自由なようでいて不自由で、大勢の人の中にあって孤独だった少年には、これくらいのささやかな経験があってもいい。そう思った。

まだ下処理をしていない魚を前にしたアベルに木の枝を渡してつぼ抜きのやり方をレクチャーする。とは言っても僕も実践するのは初めてなので上手く説明できたかは怪しい。

たどたどしい手つきでアベルが魚の下処理をしていく。おそらく生の魚に触れたことすらない彼は必死に、でもとても楽しそうに魚と向き合っている。

できました! と嬉しそうに串刺しにした魚を見せてきた姿は子犬のようでもあり、前世で何度か世話をした友人の子供達のようでもあって微笑ましい。

僕に倣って魚を焚き火の前に刺すと、アベルはニコニコと笑顔で焚き火を眺める。


「なんだか冒険してるみたいですね」

「そうだね。さっきまで蚤の市で騒いでいたのが嘘みたいだ」

「ふふ、本当ですね……僕、冒険が題材の物語を読むのが好きなんです。だからこの状況も小さな冒険だと思うと楽しくて。不謹慎なんですけどね」

「あはは、でも気持ちはちょっとわかるかな」

「でも、一人だったらもっと不安だったと思います。急に景色が変わってどうして良いのかわかりませんでしたし。ここにカイン先輩がいてくれて良かった」


自分一人では怪我と空腹と心細さで、とても平常心ではいられなかっただろうと言ってアベルは笑顔で焼き魚にかぶりつく。

ああ、そうか。

それを聞いてようやく思い出した。ここがゲームの世界観が土台となってできた世界だとしても、王族としての教育を受けてきたとしても、それは僕が知っている設定だけの情報で。アベルは何も知らないまだ十代半ばの子供だ。三十年以上生きた記憶を持つ、知識を持つために半分ゲーム気分のいい加減な僕とは違う、普通の完成を持つ子供なのだ。

表情に出さないのは流石王族と言わざるを得ないが、転移した時に不安だったのは本音だろう。


「……先輩?」

「大丈夫だよ、こうやって魚が焼けるのを待ったりお喋りしてれば、救援なんてすぐに来るから」


この状況で心細さに加えてアベルは怪我も治せていない。酷い出血にはならなかったが、痛みはそれなり以上にあるだろう。だから僕も少しは気が紛れるようにと、なるべく会話が途切れないように話しかけていた。



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