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フェイタル・リンク・ハッピーエンド−異世界転生は咎人を救うのか−  作者: 紗雪あや


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見知らぬ森での遭難(2/4)



周囲を警戒しつつ、後方からついてくるアベルを確認しながら南へと進む。木の陰や茂みが音を立てるたびに身構えてしまうものの、出会うのは無害な小動物ばかりだった。最初こそ怯えるような表情が見え隠れしていたアベルも、しばらく歩くうちに随分と緊張が取れて雑談を交わす程度にはなっていた。

ゴールの見えない道を進む以上、常に緊張していては疲労するばかりだ。これくらい肩の力を抜いてくれた方が僕としても助かる。


「先輩は森に入ったりしたことはあるんですか?」

「まぁ、何度かはね。僕の育った場所は森のすぐ近くだったし、ハーヴェに住んでいた頃はノアにも連れていかれたから」

「あれ、アンダーソン領って見晴らしの良い平地と丘陵がある地域ですよね?」

「あぁ、僕は養子なんだよ。アンダーソン家に養子に入ったのが五歳の時で、七歳になる直前にハーヴェに行って数年過ごしてるから、領で暮らしていた期間の方が短いかもね」


この説明、人生であと何人にすればいいのだろうか。こればかりは僕個人の事情のせいだけど、育ちが特殊過ぎて毎回説明が必要なのは手間だ。孤児院出身というのは伏せたが、養子という時点で何かしらの事情があると察してしまうだろう。

案の定、アベルは少し気まずそうに視線をさまよわせている。そういった態度をされると僕も気まずい。次に誰かに説明する時からは適当に濁してしまおう。


「ま、そんな感じだから森歩きは初めてじゃないよ。そう言うアベルは森に入る事はあったの?」

「僕は父の視察に同行して何度か。国境付近や東部の森林地帯、あとは学園の北区画の森くらいですね」

「そうやって聞くと僕より色々なところに行ってるね」

「いえ、ほとんど馬車に乗っていただけですから……行った、と胸を張って言えるかはなんとも」

「行った事に間違いはないんだから、そこは気にする事もないんじゃないか? それに馬車移動だって子供には過酷な旅じゃないか」


王家所有の馬車だからと言って現代日本基準の快適性なんてあるはずもない。たとえ車や電車での長時間移動だって、体力のない子供にとってはつらいのだから、それを謙遜する必要なんてないだろう。

それにしても。父親、か。

前世では名前も知らない、今だって一度も顔を合わせたことのない存在。


「ひとつ、聞いてもいいかな」

「何ですか?」

「君の父君……国王陛下って君から見てどんな人?」


使用人に気紛れで手を出して孕ませた男、それ以上の情報はゲームの設定に存在しないし転生後の僕も知らない。王家を避けてきたからこそ、何も知らなかった。設定上の断片だけ見ると割とろくでもない人だが、不思議と悪評は学園内でも聞いたことがない。


「そうですねぇ……厳格で公明正大な印象はあります。公務に非合理的な私情を挟むところは見たことがありませんし、母や僕にもそれなりに目をかけてくれているとは思いますよ」

「……少し客観的な印象だね?」

「家族として接することは、基本的にはありませんから。多忙な方なんですよ、部下の仕事にも目を配っているのだと聞いています」


ああ、そこは設定通りなのか。

国王ではなくアベルの設定。彼は家族、特に父親からの愛情をあまり受けずに育った。親愛を向け合う相手が殆どなく、人に囲まれた生活をしていながらも孤独を感じていた。だからこそ、ゲームでは女主人公のマリアと仲良くなって恋心を抱いていく。

そんな『エディン・プリクエル』でのアベルの境遇はここにいるアベルも同じらしい。


「でも、優しい人だとは思います。切り捨てなければならない局面でも、困っている人を完全には見捨てきれない。そんなところがある人なんです」

「……」


その言葉に、僕は何も返せなかった。

アベルの見てきた国王も、確かに真実なのだろうけど。

それならば国王は、父は、母さんと僕の事をどう思っていたのだろうか。何故母さんが刺客に殺されなければならなかったのか。王城から逃亡した後に差し向けられた諜報員たちは、どういう意図で僕達を探っていたのだろうか。

関わりたくはないけれど、知りたいとは思う。彼は、例えばゲームの『カイン』が復讐に我を忘れるほど憎む相手だったのだろうか、と。

『エディン・プリクエル』の設定には存在しない、この世界の事情に微かな興味を抱く。もっとも、知ったところで今の僕には何もできはしないのだが。


「先輩はどうして父の事を?」

「ふと、この国の民なのに僕は国王陛下の事を何も知らないと思って。陛下の事なら君に聞くのが一番確実だろう。あまり変なことを聞いたら不敬にあたるかもしれないけどね」

「父はそれくらいで不敬だなんて言いませんよきっと……あっ」


言葉を切ったアベルは、周囲をきょろきょろと見回してから少しだけ声を弾ませる。


「ここ、ちょっと見覚えがある気がします」



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