表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェイタル・リンク・ハッピーエンド−異世界転生は咎人を救うのか−  作者: 紗雪あや


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/50

見知らぬ森での遭難(1/4)


『懐郷する天使』はファストトラベル解禁に必須の転移アイテムだ。だが、それがあればどこにでも自由に跳べるというものではないし、公開されていない設定では初回発動に制限もかかっていた。


王家の血筋を持つものが触れる


それが転移機能の解禁に必要な要素だった。

『リリスの匣庭』本編では主人公が直系ではないものの、現王家の血を引いている裏設定があったし、続編では、後半で仲間になるキャラクターがその役割を担っている。そして『エディン・プリクエル』では、僕かアベルが必ずマリアの仲間になるタイミングがある。知る人ぞ知る、というよりは特に説明の必要がないために明かされていない設定の一つだ。

マリアは当然それを知らないはずだけど、転移する際に出る青い発光エフェクト自体はシリーズ共通だから、あの時反応していたのだろう。エフェクトを発すれば転移が起きたことくらいは、確実に彼女なら察するはずだ。


「向こうが騒ぎになってないといいんだけど……」


無理だろうな、と小さくため息ひとつ。何せ護衛が複数いて安全なはずの貸し切りの店舗内で、突然王族が消失したのだ。仮にマリアが状況を正しく理解していたとしても、それを護衛に正直に伝えたところで信用されるわけがない。ジュードも言っていたけど、本来は転移魔法なんて存在しない架空のもの、という認識だ。


「あの、先輩……ここは一体?」


隣からアベルが不安げに声をかけてくる。

軽く周囲を見回して確認しても、ここは僕の知る場所ではなさそうだった。小さい頃に住んでいた孤児院周辺の森とは明らかに植生が違うし、隣国ハーヴェの森はもっと実りが豊かだった。木の種類と気温から推測して、ここはエターナ国内の中部から北部近辺の森だ。

と、なると。


「アベル」

「は、はい先輩!」

「僕にはここがどこだか皆目見当がつかない状況だけど、君はここの景色に見覚えはある?」

「あ、え、景色ですか。えーと……」


言ってアベルはキョロキョロと辺りを見回す。僕が来たことのない場所なのだから、必然的にここはアベルの来たことがある場所だということになる。天使像にできるのは、あくまで来たことのある場所へのファストトラベルであって、自由転移ではない。森なんてどこも一緒かもしれないが、王子であるアベルが来たことのある森ならばそう選択肢は多くないはずだ。


「すみません、僕にもちょっとわかりません……」

「そっか。まぁ、森なんてどこも似たようなものだしな」


単に僕が見落としているだけで、アベルではなく僕の知っている森だという可能性だってある。せめて、特徴のある地形や人家が近くにあればいいのだが。


「僕達、完全に迷子だな。一応聞くけどアベルは居場所を探知するもの、例えば『翠の輝石』とか持ってたりしない?」

「あ……いえ、学園では制服のカフスボタンに付けてますけど、今は持ってないですね。まさか護衛が同行している状況でこんな事になるなんて思いませんでしたし」


役に立たなくてすみません、としょんぼりするアベルに気にしなくていいと手を振った。こちらとしても、持っていたらラッキーだったな、程度にしか思っていない。


「カイン先輩」

「うん?」

「これってどういう現象なんでしょうか。冷静なところを見ると先輩は何が起こったのか予想できているんですよね?」

「んー……まぁ、確証はないけどね」


嘘だ。確証しかない。

濁すこともできるだろうけど、表情に僅かな警戒が滲んでいる以上、アベルはこの事態が人為的なものである可能性も視野に入れているのだろう。もしかしたら立場上、暗殺や誘拐の類かもしれないと思っている可能性だってある。だとしたら変に疑われないためにも半端な言葉で濁すのは得策じゃない。

だからって「ゲームのファストトラベルのアイテムが発動した」なんて意味不明の回答をするわけにもいかなかった。それじゃ僕がただの頭のおかしい人になる。


「僕達がこうなる直前、何をしていたか覚えているかい?」

「え、確かカフェでみなさんが購入した物品を見せ合っていて。それで」

「君が天使像に触れようとした」

「そうです、そうしたら急に眩暈のようなものに襲われて……」


アベルも少しずつ状況を思い出してきたのだろう、警戒や疑念を含んでいたその表情が次第に驚愕に染まっていく。


「あの天使像、青く光ってました!」

「そう。僕もそれを見ていて咄嗟に伸ばしていた君の手を掴んだ」

「まさか、転移魔法……? もしかしてあれは魔道具だったのでしょうか。それにしたって人間を遠くへ飛ばすような魔道具なんて、王族の僕でさえ聞いたことがありませんが」


どうやらアベルは天使像の光だけで、この現象を天使像による転移だと推測したらしい。少々強引な推理ではあるが事実だし、話が早くて非常に助かる。

少なくとも僕がアベルに対して何かした、と疑われていないだけでもありがたい。王子である彼と二人きりでの人気のない場所への転移、そこで何が起きても止められる者のいない状況。ともすれば暗殺未遂を疑われかねない。話の流れ次第では、そんな雰囲気になってもおかしくない状況だとは自覚していた。


「僕もどうしてこんな事になってるのか完全には理解できていないけど、あの天使像が何かに反応して作動したのは間違いないと思う。あれが魔道具かもしれないという事には僕も同意見だ」

「事故、ですよね。こんなおとぎ話みたいな事って実際に起きるものなんですね。凄いなあ」

「個人的にはこんな事故、あまり起こってほしくはないけどね」


人為的ではない事に安心したのか、警戒が解けてアベルのテンションが上がってきている。ワクワクしているというのが正確なところだろうか。冒険譚に憧れている少年は、どうやらこの非日常感にすっかり興奮してしまったようだ。


「とにかく。現在位置がわからないから、せめて何か手掛かりになるものを見つけようか。ここが山なら上を目指せばいいけど、今いるのは平坦な森みたいだね」


川や湖のようなものが見つかれば、何の手掛かりもない今よりは幾分か気も楽になる。本当なら人家や町に出られるのが一番だが、さすがにそれは楽観的に思えた。

子供二人の遭難なんて状況だ、安全に帰るためにも現況は早急かつ正確に把握しておきたい。ここには危険な動植物がどれだけ生息しているのか、魔獣やボス級の存在はいるのか。獣程度なら魔法で何とかしてしまえるが、魔獣が出るとしたら剣を持たない今の装備ではかなり厳しい。冬期休暇の時のようにカースドモンスターが出るとはさすがに思えないが、通常の魔獣だって学生の僕達にとっては十分な脅威だ。


「野生の生き物に注意しながら進むしかないか。方角は……ひとまず南を目指してみよう」

「方角がわかるんですか?」

「ああ、この森は木々の間隔が比較的離れてるからかな、苔が綺麗に生えてるだろう」

「そうですね……あっ、つまり苔が生えてる側には日光が当たらない?」

「正解。絶対ってわけじゃないけど、苔は木の陰になる北側に生えることが多いんだよ」


他にも決まった方角を向く植物なんかもある。代表的なのは太陽を追うひまわりや蕾の先端が北を向くハクモクレンだ。まぁ、この世界にそれらがあるのか、地球と同じ習性を持つのかは疑問だけれど。

人間は闇雲に『まっすぐ』進もうとしても、利き足の関係なのか知らないが、自然と円を描くように歩いてしまうと聞いたことがある。そんな時に役立つのがこうした方角を知る方法だ。

もっとも、本当ならその場を動かないのが正解なのだが、現在地に関して何の手掛かりもない上に救助も要請できていない以上そうもいかない。


「じゃあ、行こうか」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ